紙飛行機。
僕は病室の窓から紙飛行機を飛ばした。
紙飛行機には、手紙を書いた。
僕は大学生であること、
骨折してしばらくは何もできないこと、
しばらく病室で過ごしていること、
そんなことを書いた。
誰が読むかなんて見当がつかないが、
ただの暇つぶしだ。
病院にいたって、もう大してやることがない。
もう室内で静かにできる遊びは
一通りやったはずだ。
普通に暮らしていた頃は、
一人で過ごす時間が好きだった。
だが、こうやって病院に三ヶ月近くいると、彼女からのうるさいくらいの連絡も友人からのくだらない誘いも今となっては懐かしく感じる。
「ねぇ、この紙飛行機ってお兄ちゃんが
飛ばしたの?」
と女の子の声が聞こえる。
見ると、花柄のピンクのパジャマを着た小学生くらいの女の子が紙飛行機を手に持ち、僕の前に立っていた。
「、、、そうだよ」
こんな小さな女の子がくだらない戯言を書いた紙飛行機を拾ったんだと思うと
僕は恥ずかしくて仕方なかった。
だが、女の子は嬉しそうに僕に駆け寄り、
ひたすら僕に話しかけ続けた。
女の子は僕よりずっと前から病院にいること、学校に行けないこと、友達があまりいないこと、友達になってほしいということ。
そんなことを永遠と話していた。
何時間話しただろう。
気がつけば、僕は看護師さんの「夕飯ですよ」という声で目が覚めた。
どうやら、寝ていたらしい。
ベッドの下には紙飛行機が落ち、
女の子の姿はなかった。
あの日から待てども待てども、
彼女は来なかった。
「あの、花柄のピンク色のパジャマを着た小さな女の子知りませんか?」
と僕は耐え難くなり、看護師さんに聞いた。
「え?あなたもみたの?」
「あなたもってなんですか?」
「他にもみた人がいてね、同じ事聞かれたのよ」
「はぁ、、、」
「一昨日、その子亡くなったのよ」
「え?だって、、、一昨日、僕の紙飛行機を拾って」
「話したって言うんでしょ?」
「はい」
「私、幽霊とか生き霊とか信じないんだけど、いるのかもしれないわね。その子、両親も亡くなっていて、親戚の人しか身内がいないみたいだったから、寂しかったんじゃないかしらね」
僕は言葉を失った。
彼女と適当に話していた自分を悔やんだ。
骨折ごときで入院していた僕が退屈して、飛ばした紙飛行機を彼女はどんな思いで拾ったのだろう。
そして、あの子は今どこにいるのだろう。
また、紙飛行機を作って飛ばしたら、
君と話すことができるのだろうか。
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