第20話

 翌日、ミザリーは子供を置き去りにしたまま、売春宿から姿を消した。


「アゲハ様、この子に何の罪も有りませんよ」

「だよねぇフッサフサの尻尾可愛いよね。しかし獣人を嫌悪してたミザリーがいつ狼人の男性と交わったんだろうね? 不思議な事も有るよね? もしかしてアダムが実は狼人だったりする?」


「そんな訳は無いですけど、アゲハ様と二人きりの時なら狼に成りたいですね」


「そのうちチャンスはあるかもね? この子は私が育ててみようかな。何かの縁だし」

「大丈夫ですか? サンドラさんが大変になるだけな予感しかしませんよ?」


「サンドラのお母様に頼むからきっと大丈夫」

「丸投げする気満々ですね……」


「そういえばさ…… ミザリーが居た売春宿はアダムとどういう知り合いなの?」

「ああ…… あそこは売掛のたまって払えなくなった人たちが頑張るお店ですね…… 聞かれて無かったですか? サンドラさんが発案して買い取った場所ですよ?」


「マジ? サンドラ怖いね……」

「うーん。どうだろ俺なんかから見たら、むしろ優しいと思いますよ。お店の維持費以外は全て借金返済に充てて、衣食住も保証してるし、他の店に比べたら全然女性の扱いも丁寧ですから」


「そうなんだ」


 ◇◆◇◆ 


「ねぇサンドラ、売春宿とか私に言わなかったのって何か意味はあるの?」

「アゲハ様は、貴族家の当主です。表に出して世間の見た目が悪い部分は、知らない方がいいですよ? そんなお仕事は全て、私とアダムとギャバンでひき受けますから」


「なんか…… ゴメン」

「私達は勝手に好きでやってる事ですから気になされないように」


「そう言えばディビット様の方は何もされないんですか?」

「そんな訳無いでしょ? ミザリーよりはつらい思いして貰わなきゃ」


「どうなされるんですか?」

「セレブリティのお客様に、アストラル領の両隣の伯爵様と侯爵様がいらっしゃるから、その2つの領地に大いに発展して貰って、住民が自然に逃げ出す形にして行こうと思うの」


「ここの国の貴族制度は、私みたいな領地無しは納税額だけで維持できるけど、領地持ちの領主は、領内の人口で評価されてるのは知ってるよね?」

「そうでございますね。スティングレー家にお世話になっていた当時に、御屋形様がよく仰ってましたから」


「だから、今のアストラル伯爵家は王都の屋敷再建の為に領内の税金を上げてる情報を掴んだから、逆に両隣の領地に無料で開拓地を用意させた上に、2年間の税金免除を打ち出して頂くの」

「それは、あっという間に領民いなくなりそうですね……」


 どうなるのか楽しみだよ。

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