第77話昨日の私より
今、私は水樹の運転で某温泉街へと向かっていた。
しかしながら、水樹の運転する車というのは未だに慣れず、なんか変な感じだ。
私達、つい最近まで高校生だったのに、今では運転免許証も車もお互い持っている。
こんな感じで、気がついたらお互い大人になって行くのだろう。
それはある意味で嬉しくも思い、そして残酷でもあると思う。
本音を言うと、幸せだった高校時代をずっと続けたかったと言うのが本音だ。
未来がどうなるかだなんて誰にもわからない。
もしかしたら悪い方向へ転がっているのかもしれないのだ。
だから、変化するというのは未来への希望は確かにあるのだけれども、それと同時に同じくらい怖くもある。
そんな事を思いながら私は桜が散りかけた山道の景色を眺めながら車に揺られる。
「大学はどう?」
「どうって、いつも一緒にいるからわかるでしょう。 そのくらい」
水樹がそう話題を振ってくれるのに対して私は、家族に返すような感覚で少し棘のある返答をしてしまう。
それが心地よくもあり、ほんの少しだけ罪悪感も感じてしまう。
この感じ、水樹はどう感じただろうか? イラッとしただろうか? 嫌われてやしないだろうか?
最近そんな事をたまに考えるようになった。
そして一度考え始めると、マイナス思考の妄想が小一時間から、長い時は寝るまで引き摺る事もある。
悪い癖だと分かっていても、どうしても考えてしまうのだからどうしよもない。
結局私は不安なのだ。
水樹が無駄にイケメンだから、大学に入って化粧の技術が格段に上がった作られた美女達に靡かれやしないか、と。
何故ならば私もまた、作られた美女なのだから。
化粧に出会わなかったらと思うと、ゾッとしてしまう。
だって、化粧に出会わなければ告白する勇気も持てないまま、自分に自信がなく、たとえ水樹から告白されたとしても自分の気持ちを押し殺して『釣り合わないから』という理由で断っていたかもしれないからである。
ぶっちゃけ、水樹であれば容姿なんかどうでもいいと思えるので、無駄にイケメンだなぁーと理不尽な事を思ってしまう。
「それは俺も同じだ。 美奈子が美人すぎて、毎日他の男性からの目線が気になって仕方がない」
「へ?」
「お前、全部口から思考がダダ漏れだったぞ?」
「……どうやったら忘れるかしら?………………とりあえず一発殴るか」
「何でだよっ! でか今俺運転中だからなっ!! とりあえず、俺は美奈子の事が高校生の時の自分よりも好きだからな。 こればかりは例え過去の自分ですら譲れない」
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