第68話海6

 それが恥ずかしくて、でも嬉しくて、私は照れているのをごまかす為に『ぽすぽす』と水樹の身体を軽く殴る。


「……泳ごうか」

「うん……」


 今までは水樹の事を限界まで好きだと、もうこれ以上好きにはなれない位には好きだし愛しているし、私以上に水樹の事を好きな人など居ないと思っていたのだが、それは間違いであると気づいた。


 明らかに過去にそう思っていた私よりも今の私の方が、もし好きという感情を測る事ができるメーターがあるのならば、一目みれば分かる程には水樹の方が好きだからである。


「遅いぞー、美奈子っ!! もしかして人様には言えないような事をしてたんじゃないでしょういねっ!?」


 そして水樹と一緒に海へと向かう。


 私と水樹は磁石のS極とN極ばりにべったりだ。


 水樹にくっ付くと、安心する。


 絡まれて興奮と恐怖で高まった感情も急激に落ち着いてくる。


 一家に一台水樹である。用法要領はお守りください。


「うるさいわね。 海は逃やしないわよ。 ジュースを買いに行ってただけだってのっ!!」


 そんな私達を眞子が早速見つけて茶々を入れてくる。


 何だか日常に戻ってこれたみたいで、一気に気が抜けそうだ。


「そうだけど、海を楽しむ事ができる時間は有限よっ!!」

「あんた、いつからそんなにアウトドア思考になったのかしら? 以前は私と同じインドア派だったでしょうに」

「んふふーーっ。聞きたい?」

「あ、良いです結構です」

「実は私のマイスイーツダーリンと一緒に朝走るようになって──」


 そして私は耳障りなBGMを聴きながら水樹と一緒に海へと入る。


「浮き輪使うか?」

「うん。ありがとう」


 別に、浮き輪がなければ泳げないという訳ではないのだが、別段得意でもないので有り難く水樹から浮き輪を受け取る。


「はぁーーーー……」


 青い海、高い空に天高く伸びる入道雲の後ろからギラつく太陽。


 私は今、夏を満喫している。


 数年前までは想像もしなかった日常で、青春だ。


「水樹様ぁぁぁあああーーーーーーーっ!! そんな所に居たぁぁぁあああああっ!!! 見て見てっ!! この水着、水樹様を想いながら選んだんですよぉぉぉおおおおっ!!


「チッ!!」


 そして、まさか妹が私の彼氏に惚れて冗談抜きで奪いにくるようになるなど、これもまた想像もできなかった。


 せっかく水樹以外のモブは居ないものとして過ごしていたのに眞子といい、我が愚妹といい、迷惑も甚だしい。


 両親も両親でこの愚妹の生みの親で保護者ならば責任持って管理してほしいものだ。


「ここだけの話、私お姉ちゃんより胸が大きくなったんですよっ!! 触ってみます?」

「殺すっ!!!!!!!!!」



今年の夏は始まったばかりだ。


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