死人に口なし

四百文寺 嘘築

プロローグ

 物心ついた頃には一人だった。なんのことはない、親に捨てられたのだ。

「ベビーポスト」

 世間の認知度はあまり高くないので、ほとんどの人が知らないと思う。端的に言えば、公的に設置されている赤ちゃん捨て場だ。僕は、生まれて間もない頃にベビーポストへ捨てられ、六歳まで養護施設で育った。

 世界の全てが敵に見えた。小学生ですらない子供が、自分の存在意義を問うてしまうほど、僕の心は荒んでいた。幸いなことに、小学校へ上がる前には里親が僕を引き取ってくれたので、今では自己否定感に悩むことはないが。

 里親は、子宝に恵まれなかった初老の夫婦。マンション等の財産収入によって生計を立てており、時間的にも、金銭的にも余裕があった。僕を実の息子のように育ててくれたし、僕も彼らを実の両親のように愛している。僕はきっと幸運だ。いや、絶対に幸運だ。

 しかしながら、出生の異常は僕の心に深く傷を付けた。

 考え方はひどく凝り固まってしまったし、年齢の割に大人びすぎていて気持ち悪い、なんて言われた回数は計り知れない。人生観や死生観に異常があることも自覚している。犯罪に手を染めていないだけ、まだマシなのだろう。

 ああ、これは僕が嫌いな自己否定か。失敬。


 脳内で言葉を繰りながら、口の端を歪める。日差しのギラつく午前八時。僕は今日も斎場へ向かって歩き出した。

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