第22話 引きこもりの召喚術師《サモナー》

 バァンッ


 お姉ちゃんが髑髏の飾られた扉を蹴り開けた!

 そこに私が、打ち合わせどおりすかさず爆発の呪文をぶっ放す!


爆炎破バル・ラ・プロジオン!!」


 ちゅどおおおおおおんっ


「にょえええええええええッッ!!」


 おや、いま誰かの声が──?

 煙がおさまるのを待って、部屋の中の誰かを探す。

 部屋の隅っこに黒焦げになったローブを纏う人らしきものが転がっていた。


「お姉ちゃん、あれ、あそこ」

「おー、手間が省けたねえ、マリちゃん♪」

『いえーい⭐︎』


 通路の中で、ぱちん、と手を合わせる私たち。

 すると部屋の中の黒焦げが起き上がる。


「お、おいお前ら! いきなり何するんだ!」

「あれ、生きてるな。それじゃもう一発……」

「待て待て! 話を聞けって! いや、聞いてくださいって!」


 へこへこと土下座モッシュをはじめる黒焦げ。

 そこまで命乞いをされてしまうと問答無用にというのは心がいたむものである。


「じゃあ聞いてあげますけど、どうぞ」

「どうぞって……え? いや、お前ら誰ですか」

「話があるっていうから尋ねてあげたんじゃないですか」

「むちゃくちゃだ……」


 黒焦げが(たぶん)呆れた顔でこちらを見てくる。

 焦げててよくわからないんだけど。


「黒焦げさん、あなたはここの魔道士?」


 お姉ちゃんが黒焦げをにらんで尋ねた。


「あ、ああそうだ。俺様は──」

火矢バル・アウロ


 じゅぼぅ


「あちち! やめい! やめてください! せめてやるなら地味に痛いだけのやつをやめてくれ!」

「あら、そうですか、それじゃあ──」

「だから話を! ていうか部屋に入れもう!」


 わーぎゃーと喚く魔道士だが、しかし、


「嫌よ、罠かもしれないし」

「そうですよ、さっきも閉じ込められましたし」


 やられたことを思えば信用できなくて当然だよね。

 すると黒焦げは両手をあげて話を続ける。


「見ての通り、いきなり黒焦げにされて状況もわかってない。戦うつもりもない。反撃するつもりなら呪文で応戦している。俺様も魔道士だからな」


 私はお姉ちゃんと顔を見合わせる。


「俺様ってキャラじゃないよね、あれ」

「わかるけどいまはそこじゃないよアン姉。怖くなさそうだし入ってみる?」

「えー? 陰湿そうだからやめとこうよ。黙らせて外に運んでから詰めればよくない?」

「あ、それいいかも。てわけでもう一発! 爆炎破バル・ラ・プロジオン


 放たれた光球は部屋の中の黒焦げに向かって飛翔する!


断魔障壁エーテル・ホロウ


 しかし光球は黒焦げが出現させた魔力の壁に消失する。

 こいつ、ふざけているわりに厄介なものを使う!


「小娘ども、礼儀というものを知らないのか」


 黒焦げの──魔道士の声色が変わった。

 同時に通路の後方が魔力の壁によって塞がれる。

 これもあいつの仕業なのか──


「アン姉」

「……入るしかなさそうね」


 私たちは慎重に足を踏み入れた。


「何の用だ?」

「そんなのわかってるでしょう?」

「俺様はこの建物を町長に借りて魔法の研究をしているだけだ」

「だったら何で勝手に管理施設の入り口を骸骨で飾り付けたりしてるのよ」

「雰囲気だ雰囲気! わっかんねーかな、このロマン」

『わかるかああっ!』


 私たちの声がハモる。


「町に許可は得ているぞ」

「嘘をつけ嘘を」


 さすがのお姉ちゃんでも呆れ返っていた。

 私は本題にはいる。


「あなたはデーモンの召喚を続けてますよね。私たちの用件は、その発生源を塞ぐことです」

「副産物や失敗作のことならば俺様は知らん」

「その失敗作ってのがモルモントの町に迷惑かけてるのよ」

「迷惑? フンッ。そのおかげで補助金や売り上げが入ってるんだろうが。お前らでは話にならんな──」

「な──!?」


 何かがおかしい。

 魔物のおかげでモルモントに補助金が入っているのは確かみたいだけど……

 管理施設を借りているというのが、言葉通りなのだとしたら──?

 売り上げが、魔物の落とすアイテムの収益だとしたら──?

 町長が魔道士と知り合いなのだとしたら──?


 ふと、魔道士の背後の怪しい大鍋が濃い闇の煙をこぼしだした。

 魔道士の不敵な笑いが響く。


「ふはははは! 話は終わりだ小娘。ちょうどいいタイミングに来たものだ。歓喜せよ、俺様の研究成果の証人となれることをな!」

「しまった! 時間稼ぎか──!!」


 しかし気づいた時にはもう遅かった。

 呪文で壊そうにも魔力を消す壁が邪魔で届かない。

 すると、お姉ちゃんが剣を抜いて駆けた!


「幾十の頭蓋と幾千の血、盟約の供犠くぎを以てその契りを果たせ! 来たれよ、高貴なる多頭の悪魔ベムルボムル──」


 ガンッ


 魔道士の口上が終わるかどうかのタイミングでお姉ちゃんの峰打ちが頭にめり込んだ!

 魔道士は昏倒する──が、しかし。

 召喚の儀式は完了を迎え、大鍋から噴き出る魔力の圧が私たちを近寄せない。


「きゃっ!」


 儀式の近くにいたお姉ちゃんの体がこちらへ吹き飛ばされてきた。

 何が起こるというのか──


 ピキッ ピシッ


 魔道士のいるあたりに、混沌の歪みカオスゲートが空間を割って生じる。


 バリンッッ


 そしてガラス窓のように砕けたかと思えば、混沌の奥から気持ちの悪い悪魔がゆったりと這い出てきた。


「……あひゃひゃ。こりゃあなんだ、俺の出迎えかい?」


 魔道士曰く、多頭の悪魔ベムルボムル──

 肩書きの通り、多くの人の頭、獣の頭が体内に埋め込まれてうごめく、醜い姿の魔族だった。

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