第21話 あこがれの南星騎士団《ナイツ》

 次々と襲いくる拳を避けるのに精一杯のお姉ちゃん。

 巨体のわりに動きが早い。

 お姉ちゃんはときどきパンチを剣で防ぐかのようにみせかけて、ギリギリのところで身をかわす。

 敵の動きを見極めようとしている。


 お姉ちゃんの剣技はパリィが主体だ。

 しかしあの重量、あの早さで殴りかかられては難しいのだろう。

 攻撃のスキを見出せないでいる。

 もしスキを見つけられたとして、あのままの剣ではまともに刃も通らない。

 やがて一瞬の間を見つけると、お姉ちゃんは私のところへ跳びのいた。


「きっつい、あはは」


 笑ってるよこのひと。


「魔法もダメだった。多分、魔力でコーティングされてる」

「どうりで斬りつけたとき妙な手応えがあると思った」

「あのコーティング斬れると思う?」

「多分ね。やってみる」


 しかしすぐにリビングメイルが迫り、お姉ちゃんに襲いかかる。

 さっきまでは避けるだけだったくせに、細い剣で重たそうな拳の軌道を逸らしてみせた。


「うん、慣れてきたよ!」


 我が姉ながら、戦闘センスだけは怪物だ。

 続けてリビングメイルが反対の拳を叩きつける。

 しかし今度もまたそのパンチの軌道が大きく逸らされた。


 ぐらっ


 巨体がバランスを崩した、そのときを狙って──

 お姉ちゃんは剣を眼前に構えて、解放の祈りを込める。


──星よステラ


 すると剣が淡く白く輝きを放ち、星の魔力を帯びる。

 故郷で名を馳せたお姉ちゃんの──私の大好きなナイツ・アンドレアの──本領発揮だ。

『そんじょそこいらの戦士なんかよりよっぽど強い』はダテじゃない!


 次々と襲いくるリビングメイルの攻撃に、お姉ちゃんは短い掛け声を発しながら迎合し、そのことごとくを受け流す。

 その姿はまるで踊っているかのようにも見える。


 ガギィンン

 ドガァッ


 重たい金属を受け流す剣の残響音と、攻撃のベクトルをずらされて壁や床を殴る重たい音が何度となく繰り返される。

 相手が人間であれば体力を消耗させられて疲弊するものなのだけど──相手は魔族。

 いつまでも続けられるものではない。


 ギィィィッン

 サシュッ サンッ


 しかし徐々にお姉ちゃんの斬撃がリビングメイルのからだを、まとう魔力の守りを切り裂き始めた!

 受け流して、スキをつくり、斬りつける。

 それを何度も何度も鮮やかに繰り返した。

 そして攻撃を受け流すたびに輝きを増してゆく剣。




 解放の呪文ステラによって星の光を得た剣は二つの力を得る。

 ひとつは今、私の目の前で起きている通り魔力に干渉する力。

 そしてもうひとつ──



 

 剣の宝玉が強力な輝きを放つ。

 そろそろだ……!


「アン姉、やるよ!」


 私は呪文の詠唱をはじめる。


「え、なにを!?」


 がくっ


「剣よ、剣見て!」

「いま必死なのよ!」


 もう……気分が削がれたがそれはそれ。

 私の呪文は無慈悲に完成してしまう。

 ええい、もうなるようになれ──!

 私はやけくそに魔力を解き放つ!


霧氷嵐呪轟シャルル・ルク・ハウド!!」


 魔力が形を変えて強烈な吹雪となり、リビングメイルを襲う!

 斬り裂かれた魔力の衣の隙間から鎧の中を凍りつかせる!

 関節が固まり、足元は氷に閉ざされ、やがて敵の動きを奪った。

 しかし敵は足元にまとわりついた氷をいとも簡単に破砕する──だがそれは予想の範囲内!

 鎧の内側を襲った氷は簡単には砕けない。

 狙いどおり敵の動きが鈍る。


「十字座の導き、その光とともに!」


 お姉ちゃんの鋭い声が響く。

 剣の輝きを解き放ち、四つの超重量の球体が生み出されると、彼女の周りをぐるぐると取り囲む。

 この光景にはいつも胸が高鳴る。


「アン姉! いっけええーっ!!」


 ひとつひとつの球が幻想的な星のように輝きを放つ美しい大技──


 解放の呪文ステラによって星の光を得た剣のもうひとつの力──


「打ち崩せ、ステラ・ブレイク!!」


 その号令とともに、それぞれのがリビングメイルの四肢に襲いかかる!


 どがががどがしゃあああっっん


 リビングメイルを星々が打ち砕いた。

 腕は吹き飛び、脚をなくした鎧は大きな音を立てて横転する。

 ギギギギ、とまだ動こうとする敵に警戒をしながら見守る私たち。

 やがてそれは沈黙し、黒い煙に包まれて消えていった。

 

 ふと、空気の流れがもどる感じがした。

 私は壁に近づいて手を触れる。


「よかった、結界も消えてくれたみたい」


 お姉ちゃんに振り返ると、煙に向かって手を組み、祈りを捧げていた。


「なにそれ、ダンの真似?」

「ちがうよ、故郷の星に感謝」

「ああ……そっか」


 私も真似をして祈った。


「今の戦いの振動って他のモンスターとかに伝わってないかな」

「床にも壁にも穴あいてないし揺れはないと思うけど、音はどうだろ……自信ない」


 お姉ちゃんの不安に私が答える。

 少なくとも、通路みたいに崩れたりする心配はなさそうだ。


「アッティたち大丈夫かなあ……」

「あっちはあっちでお爺さんも強いし、アッティもただ者じゃなさそうじゃん。大丈夫よ」


 私の不安にお姉ちゃんが答える。

 確かに、アッティ自身もいろいろな呪文を使いこなしていそうだった。


 きっと大丈夫。

 自分に言い聞かせる。


「さて、奥にいくよ、マリちゃん」

「うん。けどこんなのがまた出てきたらやだな」

「ステラはすぐは使えないから……同じの出てきたら撤退ね」

「結界張られたら出られないよ?」

「ああ……じゃあ扉開けたところから呪文でぼーんってしよう」

「あはは、アン姉ヒキョーだよそれ」

「死にたくないもん。さ、注意して進むよ」


 そうやって笑いながら、お姉ちゃんは扉に手をかける。

 呪文で明かりを灯し、再び薄暗い通路を進んだ。

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