第16話 モルモントの防衛線《リアガード》
また日は変わり──
いつものレストラン。
私たちはアレンに相談を持ちかけていた。
ユミルさんが離れる隙が本当になかったので、レストランの去り際に忘れ物のふりをして一人で戻ってきてほしいとお願いをしたのだ。
「ロンドたちがいなくなりましたし、私たち全員が離れるわけにはいかないと思うんです。もちろん、ダンがいれば大体は敵じゃないかもしれないですが、頭数で押し切られる可能性はあります」
私の言葉に続いて、お姉ちゃんが続く。
「だから商会の報酬金は山分けってことにして、役割を分担しておくべきと思うのよ。外回りしてる間に町の被害が大きくなったんじゃ元も子もないし──」
お姉ちゃんが一瞬ためらった。
「ユミルさんがいたのでは、思った通りにはあまり深入りできないのでしょう?」
その一瞬は、私も緊張した。
アレンは言葉を返してくれない──と思いきや、ふっ、と小さく笑って話してくれた。
「さすがだ、やはりバレていたのか」
身をすくめるアレン。
天井を見上げて、ユミルさんとの出会いを語る。
「ユミルは魔物に襲われて壊れてしまった町に生き残っていた神官だ。ただ教会に身を置いていただけで、特別戦いに向いているわけでもない。当時、彼女の町を守れなかった償い、ていうのも情けないが……とにかく放っておけなかった」
それは、少し切ない話だった。
見上げていた顔をこちらへ向ける。
「だから正直にいって、その申し出は嬉しい。防衛戦ならユミルを襲うようなアクシデントも限られるだろうからな」
今度は笑った。
ほっとしたような、そんな笑みだ。
「その提案に甘えさせてもらってもいいかい? 町を守ることで、君たちのサポートをさせてもらえると嬉しい」
アレンが差し伸べる右手に、私たちは応じた。
「もちろんです」
「もちろんよ」
やがてアレンは店を出て、急いでユミルさんの待つ家に向かっていった。
話し合いは無事、平穏に終えることができた。
実をいうとこの話は、お爺さんの入れ知恵であった。
『我々が町を離れるあいだ、逆に町を万全に守る体制を敷かなければならない。そこでお嬢さんがたにはお願いがある。腕の立つ剣士と連れの神官に、どうにか町の守りに徹してもらうことはできないだろうか』
もちろんダンもいるにはいるが、ロンドとガルマンを失ったダンがいつまでこの町にいるものか想像がつかない。
一応は仲間だった彼らを失ったのだから、突然やる気を失くしてしまうことだって考えられた。
だから、それよりは正義に熱いアレンに賭けた。
幸いにというべきか、私たちには商会の報酬をアテにしなくて済む事情ができた。
それであれば、商会の報酬金の分け前をケチる必要もないと、今回の話を組み立てたのだ。
もちろんヒントもあった。
アレンの口にした『二人では限界がある』という言葉。
その言葉に違和感を示したお姉ちゃんの様子。
そして『ユミルさんはアレンにとって足手まといだろう』というトマスさんの言葉だ。
アレン一人を呼び出して、ユミルさんの安全を訴えれば口説けるだろう。
報酬の保証は保険程度に交えておこう。
そんな風に、方針が決まるまでに時間はかからなかった。
『しかし我々との関係は伏せてほしい』
このオーダーさえなければ、もっとシンプルにお願いができたものだけれど……
アレンをだまし込んだようで、私は少しだけ傷心中。
嘘も方便、と自分を慰める。
こうなれば、あとはダンの動きが気になるところ。
これまでのように町を守ってくれるのなら心置きなく原因究明に専念できるのだが……
そう思って、私たちは数日ぶりにロンドたちの住んでいた家を訪れることにした。
コン、コン
「ダンさーん、いらっしゃいませんかー?」
コン、コン
ドアを何度かノックして呼びかけてみるが、出てくる気配はなかった。
「留守のようね。待つ?」
窓から部屋の中を覗き見るお姉ちゃん。
「それ、トマスさんとやってること同じだよ」
「あれと一緒にしないでよ」
覗き魔トマスさんのくだりを思い出して二人で笑った。
「私、あのひとの行き先にアテがあるから行ってみよう」
「おっけー。ついてく」
私はお姉ちゃんを先導する。
向かう先は、白い花が入り口に添えられた、あの空き家だ。
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