第15話 結成 秘密の前衛隊《ヴァンガード》
「戦闘の力量だけが判断材料というわけではない。もちろん力量が無ければ声をかけることなかったが──」
そうか、と思い返した。
私たちがまき割りをするお爺さんに会ったときには、既に私たちのことは知っていたんだ。
その上で挨拶をしてくれたのは、もしかしたら試されていたのかもしれない。
「お嬢さんがたは裏が無さそうだ。思ったことを口に出さずにはいられない。そしてお姉さんのほう、アンドレアといったかな。貴女の観察眼はとても鋭い。私をひと目で戦士だと見抜いていたね?」
「それだけ立派な体格だし、息もリズムも乱さず斧を振ってれば、この人は普通じゃないなって思うじゃない」
「私は全然……木こりにだって体が大きい人いるし気にもしなかったけど」
「マリちゃんもまだまだね〜」
へへん、と得意げになるお姉ちゃん。
なんか悔しいぞ。
「魔法のことだったらアン姉に負けないし」
「得手不得手はあるものだ、気にすることではない」
ムッとした私をお爺さんがフォローする。
「ここにお嬢さんがたが来た日、アンドレア殿の体を見て、そこそこには戦える剣士なのだろうと見たのだ」
「なんかえっち……」
「お嬢!?」
「きゃー、ごめんなさーい」
お爺さんを茶化したアッティが椅子から飛び降りて、くすくす笑いながら背もたれに隠れる。
「まったく……」
呆れるお爺さん。
「わたしたちのことはわかったけど、アレンやロンドじゃ駄目だったの?」
お姉ちゃんが尋ねる。
私もそれは聞きたかった。
「活躍は聞いてはいるが、彼らについては私は見ていない。私が見るよりも前にトマスが認めなかったのでね」
「このトマスが?」
顔をしかめてトマスさんを指差すお姉ちゃん。
「この、とは失礼だな。これで人を見る目には自負がある」
「だって覗き魔じゃない」
「だから違ぇって!」
お姉ちゃんとトマスさんのやりとりにアティアが爆笑している。
「まあ、なんだ。アイツらはダメだ。ロンドとガルマンは死んじまったが、あれは元々この町の問題を解決する気はなかった。もう一人の坊主は、空き家の前に花備えてるところを声かけてみたんだが、まー何考えてるかよくわからん」
空き家の花……
「それって、白い花が添えられてる家ですか?」
「ああ、比較的近い家だな。多分同じところだ」
ダンが花を交換していたんだ──
いいひとじゃん、と私は思うのだけど。
「それで、アレンたちのほうは?」
お姉ちゃんが続きを促す。
「剣士のほうは連れとバラせば声をかけたかったよ。だが、どうにも女のほうの剣士への依存が強すぎるし、場慣れもしていないようだった。彼女はあの剣士にとっても、今回の件では足手まといだろう」
アレンたちのことが嫌いじゃなかったから、いまの言い回しには嫌な気分になった。
なったのだけど、あれほどの強力な技を持つアレンが『二人では限界がある』と言っていた場面がふとよぎる。
ああ、そうか──
あのときお姉ちゃんがアレンの言葉に納得がいかない様子だったのは、このことを察していたからなんだ。
ちょっと、気分が沈んだ。
「まあ、まとめるとだな──」
トマスさんが腕を組み、考える。
「そこそこ強くて場慣れもしていて、裏がなくて何考えてるか分かりやすい、てなとこか」
「もっと褒めてくれるのかと思ったんだけど?」
「ああいや、今までの戦士が頼りなかったというだけで、悪意はないんだ、すまない。お二人さんが言うように俺たちは二人の戦いを見て判断したわけじゃない。きみたちの経験と人柄を買ったのだと、そう思ってほしい」
内面で見られた、と思えば悪い気はしない。
だけど、こんなにも値踏みされていたというのは、正直不愉快なところも多い。
アッティが椅子に戻りながらトマスさんに話す。
「トムも、美人姉妹をつけ回せて楽しかったんでしょ?」
「退屈な見張り仕事にうるおいがあったよね!」
どげめきょっ
私とお姉ちゃんの双子姉妹キックがトマスさんのお腹にめり込んだ。
トマスさんは痛みに耐えながらしゃがみこんだ。
「な、なんで蹴った……」
『なんか気持ち悪かったから』
そのままトマスさんはうめき声をあげるのみだった。
「さて、お嬢さんがた」
お爺さんが話を切り替えた。
「ただ協力しろとは言わない。十分な前金と成功報酬を払う準備はある。どうかな?」
「私たち、カナルシティの商会でも受けてるんですが……」
「気にしなくていいさ。こちらの金を受け取り、商会の金も受け取ればいい。長いこと解決されていない問題なのだから、その程度で文句を言う輩もおらんだろう」
なんと、気前がいい。
このひとたちがお金持ちなのは確かか。
「ちなみに金額は?」
お姉ちゃんが尋ねて出てきた数字は、前金だけでもカナルシティの商会の依頼達成時の額に届くほどだった。
まさに破格。
「そんなに払ってまでモルモントの魔物退治にあたる理由が、なにかあるんですか?」
自分たちで金銭を出してまで解決したい、その強い想いを知りたくなった。
するとお爺さんは言いあぐねた。
「なんと言ったらいいか──いまは詳しい話ができかねる……」
「私の道楽よ」
お爺さんの言葉を遮るように、アッティが口を挟んだ。
「お、お嬢……」
「この町、水に困らないのはいいけど何もなくて暇なのよ。だから町の人にも内緒で魔物騒ぎの謎を解いて遊んでやろうと思って。どうせ遊ぶなら、ついでに喜ばれることがしたいじゃない?」
淀みなく言ってのけるアッティに、私たちは呆然とした。
「それにお金が余ってるのよ。ほら、私ってお金持ちの娘だから」
『うわぁ……』
ちょっとだけいいこと言ったと思ったのに。
だけど悪い人たちではなさそうだし、悪い条件でも全然ない。
万が一に、実は彼らが真実を知っていて事件の難易度がはちゃめちゃに高いことを隠しているのだとしたら、話が違うと逃げることも多分できる。
町を助けるという目的はそもそも一緒なのだから、断る理由は見つからなかった。
お姉ちゃんと顔を見合わせて、お互いに大きくうなずいた。
その様子を見ていたアッティがパン、と手をたたいた。
「決まりね!」
アッティは嬉しそうにしている。
会ったばかりの抑揚の少なさはもしかしたら、緊張していただけなのかもしれない。
「じゃあ早速、チーム名が必要だと思うのよ!」
「えっ?」「必要ね!」
彼女が突然ミョーなことを言い出した。
私はこのノリになんだか嫌な予感がしたのだけど、反対にお姉ちゃんはすごく乗り気だった。
アッティとお姉ちゃんがあれやこれやと意見を交わす。
ミリアさん顔負けのセンスに「それだけはやめて!」と叫びたくなる。
この流れは危険だと助けを求めたくてお爺さんたちを見るが、二人とも見た目からして諦めの境地である。
「で、私たちは悪者を打ちのめす人だから『ボコローゼ』とかいいと思うの」
「かっこいいね!」
「それかっこいいの……? 意味わからなくないかな……?」
「じゃあ決定ね! 私たちはこれから、チーム・ボコローゼを名乗ります! あ、リーダーは私だからね」
「ぃよっ! ボコローゼのリーダー!」
ぱちぱちぱち、とお姉ちゃんがアッティを盛り立てる。
「アンさんサブリーね!」
「やったー♪」
勝手に始まる謎の任命式。
私は隅っこに逃げやがったお爺さんたちに近寄って懇願する。
「あれ! あれ止めてくださいよ……!」
「ああいうアッティは止まらねーんだよ……」
「諦めてくれ、お嬢さん……」
「えええ……」
なんかもう、いろいろだめでした。
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