第11話 連続殺人《シリアル・キリング》

 次に目を覚ましたとき、私は宿屋のベッドにいた。

 窓の外はすでに暗いが、真夜中というほどではなさそうだ。

 隣のベッドではお姉ちゃんが寝息をたてている。


 あれからずっと寝てたのか──

 町の外の川辺にいたと思ったのだけど……お姉ちゃんが運んでくれたのかと思うと、ごめんなさいという気持ちになる。


 ふと窓の外を見る。

 ミリアさんのいるレストランから出てくる人影が三つ。

 坊主頭はダンだろうか。

 目を凝らして残りの二人を追うと、どうやらアレンたちのようだった。


 ユミルさんはチーム・マッスルを毛嫌いしているはずだけど……何をしているんだろう。


 しばらく話しあった様子を見せて、ダンは町の奥へ、そしてアレンたちは私たちのいるここへ向かってきた。


 コン、コン、コン


「夜分にすまない、アレンだ。話がある」


 これは厄介ごとの気配を感じるぞ……

 私は気乗りしないテンションでドアを開けて迎え入れた。


灯よバル


 部屋のランプに火をつけて、そしてお姉ちゃんを叩き起こした。


「男の人に寝起き見られたー……」


 などと文句をのたまうお姉ちゃんをなだめつつ、私はアレンに話の続きを促す。


「休んでるところすまなかった。念のため伝えたほうがいいと思って」


 本当に困惑しているといった様子だ。

 ユミルさんも不安げで沈んだ表情を見せている。


「さっき窓から見てたんだけど、ダンと話してましたよね?」

「あ、ああ、見てたのか。そう、食事をとっていたらあいつが来てな、神妙な顔して几帳面に礼をしてくるもんだから話を聞いたんだ」

「あのモンク、喋るんだ」

「アン姉は喋らないでいいよ」


 話の腰を折るお姉ちゃんを適当にあしらうと、ぺちぺちと私を叩いてくる。

 アレンは構わずに話を続けてくれた。


「端的に言えば、あのロンドが戻らないらしい」


 その言葉の意味をとらえかねて、一拍の間がうまれる。


『まさかっ!!』


 そして私たち姉妹の声が重なった。


「また魔物にやられたんですか?」

「あの大男だってそこそこには戦えるんでしょ? 簡単に負けるなんて思えないけど──」

「ああ、いや、死んだかどうかはまだわからん。ただ『朝からガルマンを探しに行ったきり戻らない』んだと。それで坊主がどこかで見なかったかと、俺たちのところに」

「まさか、またアレンたちが殺したんじゃないかって疑われたの?」

「いいえ、また疑われるかと思ったけど、彼はそんな素振りはまったくなかったわ」


 どうやらダンという人物はロンドのようには荒っぽい性格はしていないようだ。

 清廉潔白の僧兵──腹を割って話せば魔物退治を協力してもらえないものだろうか。


「まあ、それだけ伝えたかった。また魔物が町にやってきたら、今度こそは俺たちの誰かも動かなきゃならないだろうと思って」


 アレンの拳に力がこもる。

 彼の優しさや正義感の強さは人一倍だ。


「ダンはどこいったの?」

「あのひとなら今夜は家に戻るって。明日も待って戻らなかったら探しにいくと言ってたわ。『粗野な男が一晩戻らないくらいなら騒ぐものでもないが万が一もある、お前たちも気をつけろ』とかなんとかね。話してみたら全然嫌なヤツじゃなかったから、正直複雑な気持ちよ」


 そうして情報交換をしたあと、お互いに警戒しようと確認をしあってその場は解散した。



 その翌日──



 ガルマンの死体の件が気になって山へと向かった私たち姉妹によって、ダンのいう『万が一の事態』が起きてしまっていたことが判明する。


 ガルマンの死体を見つけたときと同じ場所。

 頭部がなく、大きな爪で千切られ、むさぼられたような体が、大きな斧とともに転がっていた。


「このやられ方、ガルマンのときと同じよね? そしたら同じ獣……同じ魔物と見たほうがきっと自然か──」


 お姉ちゃんは散らばる体に触れながらそっと呟いた。

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