第2話 給仕人《ウェイトレス》・ミリア
お姉ちゃんと私はうりふたつ。双子の姉妹だ。
親が言うには同時に生まれたとのことだけど、お姉ちゃんが姉ポジションを譲らないので、仕方なーく私が妹をしてあげている。
私たちは旅路を急ぐ。
「どうしたらこんな一本道ではぐれるのよ」
「それがわかってたらはぐれないよ」
「当然のように言うな!」
「マリちゃんは厳しいなあ。お姉ちゃんへの愛が足りないんじゃない?」
「いま切らしてる。アン姉は姉レベルが低いのよ」
「あ、ひどい」
少しおっとりとしてあちこち抜けている人だけど、これでも戦闘となれば一級品の美人剣士だ。
発動までが早い私のルーンの術でも、接近戦を強いられれば不利になる。
そんな時には姉のアンドレアが立ちはだかってくれる。
言うまでもなく、うりふたつなのだから私だって美人である。
私がショートヘアで、お姉ちゃんがロングヘアという以外では、そうそう見分けられるポイントはない。
強いて言えば、お姉ちゃんのほうが肌が日に焼けているくらいなものだ。
「怪我がなくてよかったよ」
「あはは、あれくらいならなんてことないない」
笑って余裕を装うけど、あの魔道士には油断していたら負けていたかもしれない。
あの時にお姉ちゃんがいてくれればカバーに入ってくれたはず、なんて思うけど、口にしたら図に乗る気がするからそっと心にしまっておく。
「あ、見えてきたよ、マリちゃん」
道の先、大きいとまでは言えないけど、山のふもと、整った街並みが遠くに見えてきた。
先日のこと──
遥か南方の故郷からの旅の途中、私たちはアディート聖王国領の外れに位置するカナンシティを訪れた。
路銀が心許なくなっており、これは仕事をして稼がなければと、広大な商売網をもつアディート大商会の出張所を訪ねた。
商人たちだけでは解決が難しい仕事というのも少なくなく、護衛の仕事や、野盗、魔物騒ぎなどに対応できる人を探していることが多いのだ。
案の定そういったたぐいの依頼がいくつか掲示されていた。
要は傭兵稼業である。
とりあえず報酬が頭ひとつ抜きんでた『魔物退治』と書かれたものを選び、私たちは話を聞くことにした。
魔物退治というだけにしては法外な報酬だったので、興味本位での選択でもあったのだけど。
商会のおじさんが話すには、このところ隣町のモルモントで魔物騒ぎが頻発しているとのことだった。
「我々も事態にあたってきました。腕に自信のある旅の魔道士や戦士たちにたびたび依頼をしまして……町に出てくる弱い魔族であれば彼らでも対処できていたのですが、いくら倒しても減る気配がなく──」
「どこからか湧いてでてきているのではないか、ということですか?」
「ええ、その通りです。彼らの巣があればその根本の原因を叩き潰してほしいのです。表に出てくる魔族ばかりを相手にしても、こちらの出費がかさむばかりでラチがあきません」
「だからこんな高い報酬になってるのねえ」
「ええ。難しい仕事とは思うので、他にいくつかの方々にもご案内をしています。しかしこんなことを言っては失礼とは思いますが、見る限りお嬢さんたちに任せられる案件だとは到底……」
その先を言いにくそうに顔をうつむける。
おじさんには私たちがただの少女だと思われたのだろう。
それは無理もないことだ。
可憐な美少女の二人組なのだから。
「そこは心配無用ですよ、おじさん」
私とお姉ちゃんはピッと人差し指を立てて笑顔を見せた。
『私たち、見た目ほどやわじゃありませんので』
正直、ただの魔物退治であれば私たちの得意分野ではあるから、なんとかなるっしょのテンションで引き受けたのだ。
そこらへんの旅の戦士でどうにかなる程度の相手なら、束になって来られても怖くはない。
それくらい私たちは強さに自負があった。
やがて私たちは、モルモントの町に到着した。
「カナルシティよりも小さいね。宿屋あるのかしら」
「あー、足ぱんぱん。お腹も減ったし、ご飯食べながらゆっくりしよう、アン姉」
「そうね。そうしましょう」
そうして向かったレストラン。
入った瞬間に感じる違和感。
店内は、小さな町のレストランには似つかわしくない雰囲気が漂っていた。
「魔物退治のライバルさんたちかな」
「なんかちょっと物々しい雰囲気だねー……」
見るからに傭兵や魔道士然としたグループが二つほど。
彼らもお互いをライバル視しているのか、気が立っている様子がこちらにも伝わってくる。
落ち着かない雰囲気のなか、私たちも空いているテーブルにつく。
「なんだか甘い香りする。おなかすくね」
そういう料理がきっと頼まれているのだろう。
「いらっしゃい。あなた達も魔物退治に?」
ウェイトレスらしきひとが話しかけてきた。
「ええ、まあ。向こうのみんなもそうですか?」
私は声をひそめて他のグループのことを尋ねてみた。
「あの肉体派の三人組はだいぶ長いこと居ついてるわ。もうひとグループはちょっと前ね」
意外と気前よく教えてくれることに驚いた。
傭兵のような荒々しい三人組を見れば、粗雑なグレートソードと大きな斧が印象的だ。
もうひとグループの方を見やれば、パッと見た感じは剣士と神官の二人組だ。
「ただここ最近、他にもいたはずのグループをパタリと見なくなったのよね。やられちゃったのか、逃げちゃったのかわからないけど……」
「ほかにもいたのね。魔物の巣はまだ見つかってないの?」
お姉ちゃんが巣のことを尋ねてみると、ウェイトレスの顔が途端ににやりと変わった。
そして手に持っていたメニューをさして笑う。
「ふふふ、ここから先の話はご注文ください♪ あ、料理とは別料金です」
ガクッ。
「ちゃ、ちゃっかりしてますね、お姉さん……」
「稼げるときに稼がないと。こっちもいつ魔物に潰されるかもわからないんだから! あなた達の成功報酬は大きいんでしょう? 旅は道連れ世は情け、持ちつ持たれつってね♪」
「まあ大した額じゃないからいいですけど……」
まんまと乗せられている気もしていやだけど──
とりあえず料理はパスタや川魚のムニエルなんかを選んで、オプションの『料理のお供に⭐︎ミリアの魔物退治耳より情報』なるメニューをつけることにした。
注文を終えるとピシッと敬礼のポーズとともに、
「ご注文あーりがとうございまーす⭐︎」
ウェイトレス・ミリアの無邪気な声がレストランに響いた。
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