横断歩道を渡るまでに

須戸

永遠の片思い

 やっていることストーカーみたい。好きな人の後をつけて歩くなんて。

 でも、違うよね? だって、あの横断歩道に辿り着いたら、別の道に進むもの。


 帰り道。誰にも言えない私のささやかな楽しみ。学校から信号のある交差点までの間、気になっている彼を後ろから見届ける。横断歩道を渡ったら、彼は真っ直ぐ、私は右へと家路につく。

 友達とどんな話をしているんだろう。ここからだと距離があって聞こえない。休み時間と大差ないとは思うんだけど、放課後ってなんとなく特別な気がする。


 どうしてあの人のことを好きになったんだっけ。

 成績優秀、スポーツも得意だから? でもそれは、後から知ったことだったはず。

 じゃあ性格? 周りの女子は、口調や態度が悪いって言っているのに。

 見た目? 好みの芸能人とは正反対なんだけどなあ。

 それに、小学生の頃は、彼のことも他の男子と同じ目線で見ていたのに。


 確か、二年になって、同じクラスになったとき。教室ですれ違う瞬間。なんでかわからないけど、ビビッと身体からだに電撃が走った。話しかけられた訳じゃないし、本当になんでかわからない。

 だけど、あの日から、気付いたら目で追っていた。


 休み時間は誰よりも真っ先に、あの人の声が耳に入ってきた。

 席が斜め後ろになったときは、授業中必ず視界に入ってきた。

 席替えをした後は、朝学校に着いたら何故か私の近くの席の男子に話しかけることが気になった。

 これって恋っていうのかな? 何度も何度も疑った。ただ、私は彼に興味がある。それは、変えようのない事実だった。


 ずっと見てきたから、どんな人かはよくわかる。

 得意科目は数学で、趣味は絵を描くこと。将来の夢は都会に行くこと。

 自分に自信があって、誰とでも打ち解けられる。それどころか、相手が教師みたいな大人であっても物怖じしない。


 学校から信号のある交差点までの間、気になっている彼を見届ける。

 だけど、今日でもう終わり。中学は卒業、高校は別のところに進むもの。

 もう会うことはないのかな。それってなんだか寂しいな。二人で会話したことって、数えられるくらいしかない。卒業式の後も、友達や後輩と話していたらチャンスを逃してしまった。


 彼があの横断歩道を渡るまでに、声をかけることができたなら。

 信号は赤。走れば今ならまだ間に合うかも。



 なんでなんでなんで? なんで赤なのに横断歩道を渡るの?

 そんなことをしたらほら。トラックが向こうから来てる!

 嫌だ! そんなの見たくない。

 やめて!

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横断歩道を渡るまでに 須戸 @su-do

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