第17話 連帯
「参謀から一気に大出世ですねぇ、旦那」
会議の席から戻ると連合元帥とやらへの就任を聞かされていたのかリル准尉がにんまりと笑みを浮かべて言ってきた。
「頭痛い。ドラグーンとかどういう補給物資が必要なんだ? 馬の餌は間に合うのか? 大体ナイトランドやローデンの援軍ってどの程度の規模よ! 補給物資たりんのかぁっ?」
「うへぇ、大荒れですねぇ」
開口一番に頭の中をぐるぐると駆けまわっていた不満やらが噴き出て、それを聞いた准尉が肩を竦めた。
そうしながらもにへらと笑みを浮かべ。
「いやぁ、しかし旦那も隅に置けませんねぇ。奥様、大層な美人じゃありませんか」
「え? ああ、うん」
そう言えばコーデリアの事を陛下や皆に紹介しなくてはとか言っていたのに、する暇なかったな……。
「でも、あまりに慣れない献身は為さるものじゃないですよ」
「ベルちゃんにはバレると思ったけど、やっぱり本業の人たちは騙せないかぁ」
リル准尉が私の肩越しにそんな事を言うと私の後をついて来ていたらしいコーデリアの残念そうな声が響く。
振り返ると驚いたことにコーデリアと共にアンジェリカ殿までついて来ていた。
リル准尉は全く動じることなく。
「あの感じでは六十点くらいじゃないですかねぇ。ただ、百点にするのは返って悪手だと思いますよ」
「だってよ、アンジェリカ」
「そりゃ、ロガ元帥の心休まる場所が消えるって事になりますからね、悪手でした」
そんな事を言いながらリル准尉はさも当然のようにお茶の準備を始めだす。
……どういうことだ? もしかして……。
「君たちはいつから知り合いだったんだ?」
「三日ほど前からですねぇ。一応、今の旦那をよく知る人物として面通しさせられましてね」
「本物を齟齬なく知っているかどうかという試験でしょうね。カナギシュとしてはロガ元帥を狙う暗殺者を疑ったのでしょう」
聞いてないんですけど?
そう言いかけたが止めておいた。
情報部が自身の暗躍を軽々と語る訳もないのだから。
「なんだ、連帯していたのか……」
「教授を巻き込もうかと思ったんですがねぇ、あの人も割と顔に出るタイプですし」
「そりゃ教授は善良な人なのだから顔に出るよ」
私のボヤキにリル准尉が軽快に返し、更に私が言葉を返すとコーデリアがなるほどと呟いて頷いた。
ん? なんだ?
「奥様も納得されました?」
「確かに昔に間者の人と話している時と大体反応が一緒だ」
「でしょ? 傍にいるっつっても女として見ていないので安心して良いんですよ、私らについては。旦那は基本的には知性と能力、ついでに性格しか見ていませんからねぇ。私らとしてはそれがありがたいんですけれど」
セクハラ野郎とかの下で働くのはマジで憂鬱なんでとお茶を入れて来たリル准尉がへらへら笑いながら告げる。
それに力強く頷きを返したのはアンジェリカ殿だった。
「ローサーンの神殿にも居ますが何なんでしょうね、セクハラ野郎は。ロガ元帥のソレも大概ですがあの連中は人の事をただ女としか見ていませんからね」
「旦那のは私らの様な知性と能力に相応の自負がある者には正しい対処でしょう」
自負があるからそこを重んじて見られていると信頼感が出るとリル准尉は笑った。
……アンジェリカ殿も苦労しているようで。
しかし、神殿にセクハラ野郎が居るってのはどういうことだ?
「神殿に努めるって事はその手の凡俗は捨て去っている筈ではないのか?」
私が口を挟むとアンジェリカ殿が肩を竦めて。
「まさか、ロガ元帥がそんな建前を信じているとは思いませんでしたよ」
えぇ……、建前に過ぎないの?
「ベルちゃんは結構ピュアだからね」
コーデリアがそんな事を言うとリル准尉がピュア? と可笑しげに笑った。
何だか随分と息が合っていらっしゃる……。
「でも、まあ、そのピュアなロガ元帥にも見破られていたようですし、私たちの活動もあまり意味はなかったですね。元よりテサ四世陛下はロガ元帥を要職に付けたがっておられたようですし」
アンジェリカ殿がふぅと小さく息を吐き出す。
その様子から私に良い印象を与えるために権力を求めるように動いていたのだと知れた。
「そうでもないでしょう。そこまでさせるカリスマがあるのだと思ってくれたでしょう、カサゴの代表者とローサーンの第二軍団長に」
「コーディやアンジェリカ殿がローサーンでどのように振舞っていたのかにもよるが、そう思う可能性は否定できない」
リル准尉の言葉を継ぐように私が答えるとアンジェリカ殿は微かに双眸を細めて。
「相変わらず上手ですね」
そう笑った。
アンジェリカ殿は依然とさほど変わりないように見える。
が、会議の場で一言も話さなかったドラン殿の様子を思い出す。
もしかしたら彼が一番変わったのだろうか。
「そう言えばドラン殿はまったく喋らなかったが?」
「ああ、ドランはベルちゃんが出世するのに下手な小細工は必要ない派だったから。でも、アタシ達のやりたい事だからと黙って付き合ってくれたんだ」
それを聞いて、彼も大きく変わっていない事を知り安堵の息がこぼれた。
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