第46話 謁見
魔王の城へ向かう段になると、流石にフィスル殿は別行動をとると言う事で別れた。
まあ、魔王軍の幹部である八部衆筆頭が外交相手と一緒に登城するにはおかしな話だからそれも当然か。
私たちは丁重に扱われながら魔王が待つ迎賓の間へと向かった。
一応私は王なので、話し合うならば賓客を迎える部屋と言う訳だ。
なんかこういう扱いには慣れていないからか、変な汗が出てきたぞ。
豪奢な扉の向こうには円卓があり、魔王をはじめとしたナイトランドのお歴々が座って待っていた。
彼らは私たちを認めると立ち上がり、一礼してきたので、私たちも一礼を返す。
八部衆と呼ばれる幹部や魔王を補佐する宰相たちが魔王を中央に左右に分かれて席についている。
その仲には見知った顔のメルディスやジャネス、ジャックが居る。
それだけで少しだけほっとするが、フィスル殿の姿はまだなかった。
「遠路はるばるようこそおいでくださった、ロガ王」
「まずは此度の戦いにおいて合力頂けたこと、深く感謝いたしております」
私から見て中央に座す気品がありながらも立派な体躯を持つ壮年の魔族が声をかけて来た。
その威厳のある声や言葉遣いから彼が魔王であろうと察せられ、私も感謝を伝えそれから勧められるままに席へと腰を下ろす。
「初めまして、ベルシス・ロガ殿。余はナイトランドの王エイルスルード八世。お噂はかねがね聞きおよんでおります」
そう告げる魔王のその姿はフィスル殿と同じく捻じれた角を持ち、整った顔立ちと見事な口髭を蓄えた壮年の男性。
悠然とした佇まいがその偉容に拍車をかけており、王の中の王と言った言葉を想起させた。
少なくとも、私のようなにわかではない。
「ロガの王ベルシス・ロガと申します、魔王陛下。何はともあれゾス帝国皇帝ロスカーンの言動、ゾスの一将軍でありました私からも深くお詫び申し上げます」
「バルハドリアの不肖の息子、か。バルハドリアの血筋では彼の者のみが生き残ったかと思っておりましたが、今一人おるそうですな」
「確かにおりますが彼は帝位には付かぬでしょう。彼を、カルーザスを見出し推挙しましたのもロスカーンであるがゆえに」
私の言葉にナイトランドの諸将にどこか腑に落ちたような空気が流れた事を感じ取る。
確かに傍から見ていれば何故カルーザスほどの男がロスカーンに仕え続けるのかというのは疑問に思う所だろう。
「庶子であろうとも才あれば見出す、か。血の繋がりがある分難しい事を若かりし頃のロスカーンは行ったと?」
「左様です。あの頃のロスカーンはファルマレウス殿下、レトゥルス殿下には及びませんが、少なくとも先帝の血に恥じる行いはしていませんでした」
「……なるほど。影魔のメルディスの言葉に偽りなしと言った所か」
年老いた魔族が緩く息を吐き出しながら告げると、魔王もその言葉に同意するように頷いた。
「兄、しかも自分を見出したという恩義からカルーザス卿は裏切らぬと」
「ええ」
ナイトランドに来ていきなりカルーザスの話になった事に驚きはあるが納得もしている。
あの男が兵権を持っている限り、ゾス帝国は強い。
いかに愚か者が足枷となろうとも、カルーザスならば何をやらかすか分からないと言う所だろう。
「カルーザスは掛け値なしに優れた将です。徒に事を構えれば損害を増すばかり」
「だが、それもロガ王の補佐があればこそではありませんかな? 炎魔のジャネスを直接打ち払ったのはカルーザス卿でしたが、彼女の軍勢が足を止めざる得なかったのはゾスの将軍であったロガ王の手腕によるもの、そう報告を受けておりますが?」
それは過大評価だな……私はカルーザスが到着するまでの時間稼ぎをしただけに過ぎない。
「それは買いかぶりです。前任者であったゴルゼイ将軍も私と同じ策を用いた筈ですが、あの時はどうも」
「帝都に蔓延る毒に中てられていたと言った所じゃろう」
メルディスの声が響くも、その声はどこか硬い。
この話題、実はかなり危険なのか?
「……そう、ですね。メルディス殿の言われる通りかと」
「それが解せない。ロガ王、何故に貴方は彼の女の毒が効かぬのか? オルキスグルブの巫女の毒は並ではない」
魔王は私を真っすぐに見据えて問う。
……何故だろうか? 考えた事もないが……。
私はあの女を最初から敵と認識していた。
それが何故かは分からない、単純に初対面の印象が悪すぎただけかも知れない。
「何故かは分かりかねます。ただ、私にとって彼女は忌むべき存在と見えておりましたので」
「或いは、ローデンの信仰に関係があるのやもしれませんな」
そう付け加えたのは八部衆の一人、魂語りのジャックであった。
「そうなると、ロガ王は再来と言う事になる」
「そう判断するのは時期尚早では?」
「騙っている訳ではないにせよ、決断を下すには材料が足らぬ」
魔王が沈思すると、八部衆の面々が一様にしゃべり始める。
これは、何についての話し合いなのだろうか。
当初はカルーザスについてと思われたが、次いで私についての話題に移行した気がする。
私とカルーザスに共通するのは、精々ギザイアが嫌いと言った点くらいか。
つまりこれはギザイアの作戦をいかに打ち破るかと言う話し合いなのか?
私が首を傾ぐと、迎賓の間の扉が開き、分霊と一体化して成長した姿のフィスル殿が姿を現す。
着飾った姿はまるで花嫁姿のようにも見えた。
「ロガ王は再来。いかなる手段をもってしても盟を結ぶべき、そう進言したのに」
「し、しかし、八部衆筆頭が盟を結ぶために……。その、その役目は何ならワシが」
「メルディスは初対面でアプローチ間違ってるからダメでしょ」
……ん? んん? 何か色んな意味できな臭い流れだぞ?
「じゃあ、やっぱりフィスルもそうなの?」
今まで黙っていたコーディが呆れたような口調で語りかける。
「義務感だけじゃないけど」
「そりゃそうかも知れないけどさ」
コーディはこの流れを薄々感づいていたように見える。
どういう事かとマークイを見やると、何とも言えない微妙な表情で私を見やった。
そして、仕方ないと言いたげに嘆息すると、片手を上げて発言の許可を求めながら勝手に口を開いた。
「しがない詩人から一言いいっすか? 我らがロガ王は民や兵士の心情を知るためには心砕き努力しますし、政敵に打ち勝つための情報の扱いも得意ですがね……女心は苦手なんではっきり言ってもらいたいんですわ」
「マークイさ、もうちょっと言い方を」
ぶっちゃけ過ぎな言葉遣いに思わず口を挟もうとしたが、そこから先は口にすることができなかった。
「ああ、そうだったね。ナイトランドとロガの盟を確たるものにするために将魔のフィスル、ロガ王の第二夫人となる」
そんな事を成長した姿となったフィスル殿が宣言したからだ。
なんでそんな話になってるの? 私聞いてないんですけど!
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