第41話 参陣の理由
問いたいことは多々あれど、アーリーとその側近たちはルダイを守ってくれた将とその部下である。
物事を問うにしても、相応に遇せねばならない。
まずは立ち上がらせて、それから私の館などに呼んでからゆっくり話すのが筋なのだが……。
今は復旧、復興の最中である。
市街戦だけはどうにか避けられたが、交易のためのインフラはボロボロでその復旧もせねばならず、なおかつ防衛の為に積まれた土塁などの撤去もしなくてはならない。
つまり、基本的にロガ領の兵士は忙しく動き回っている。
インフラを司るのは軍事の役目というゾス帝国の伝統は当然引き継がれており、私も現場監督をせねばならない。
その為、駐屯地として割り当てられた一角でアーリーと面談する事になったのだ。
「何故、貴殿が助けてくれるのか分からない。いや、それ以上に何故、テス商業連合とトウラ卿が……。それに、一体どんな関係で君に兵を預けたのだ?」
どうしてバルアド総督のトウラ卿とテス商業連合が私を助けようと言うのか、一体彼らとアーリーにはどのような繋がりがあるのか、そいつについて問うてみた。
アーリーは白い髪をかき上げながら僅かに苦笑を浮かべた。
「テスが力を貸すのも、トウラのおじさんが尽力してくれたのも俺がアーリー・ガームルだからだ」
「砂大陸の滅びた王国か」
「十数年前に隣国ディルワーンの裏切りにより一夜で滅びた国か」
マークイが歌うように告げると、アーリーの側近の爺さんがじろりと詩人を睨む。
ディルワーンは今では砂大陸の盟主の位置にいる国で、排他的な外交で知られている。
最も、他の国々がひそかに打倒に動いているらしいとは船乗りの噂に聞こえてくるが……。
「トウラ卿は砂大陸の者と親交があったのは知っている。その故にか?」
「ああ。トウラのおじさんはオルキスグルブの暗躍に目を光らせていた。そしてガームルが滅びる前よりディルワーンに異変があった事も把握していた」
詰まるところ、それは……。
「今のギザイアのように内部から崩壊させるべく間者でも送ったのか?」
「そのようだ。……当時の事で俺が覚えているのは燃える王城と殺戮に酔ったディルワーン兵の凶行だけだ」
柳眉を顰めながらアーリーは言葉を連ねた。
想像するに、アーリーが砂大陸より脱出するのを手助けしたのがトウラ卿であったのだろう。
当時はまだ若い部類であったろうトウラ卿が軍を動かすには、交流はあれど同盟国のいない砂大陸の異変は理由として弱い。
いや、逆にゾス帝国は未だに版図を広げようとしているという誹りを受ける事にもなる。
だから、せめて要人だけでも逃がそうとしたのではないか。
結果、生き残った幼い姫を助ける事に繋がった、そう思えた。
「貴殿を助ける手助けをして、匿ってくれたのがトウラ卿だったと言う訳か?」
「そうなる」
かつて、彼は私にガームルの遺児が生き残っていると言う噂を教えてくれたが、何のことはない自分の所で庇護していたのだ。
ならば、何故私にそれを知らせたのかだ。
反応を見ていたのか、或いは私の情報網を警戒していたのか?
そして、何故私を手助けする事にしたのか。
「トウラ卿はゾス帝国バルアド総督、何故私を助ける?」
「総督と言うある意味自由の効く立場で、中央の腐敗を外から観察できる立場で、何故立ち上がらないと思う?」
「トウラ卿は忠義の士である」
その言葉にアーリーは青い瞳を細めさせて告げる。
「それは貴方もではないか?」
「かつてはな」
「つまりは、そう言う事だ」
バルアド総督すらゾスを見限ったのか。
いや、バルアド総督だからこそ、か。
「ファルマレウス殿下やレトゥルス殿下が息災であれば、この様な事は起きなかったとも伝えておりました」
そう付け加えたのはアーリーと同じ肌で、黒い髪の女術師ラネアタ。
戦場でも集中を切らさずに投影などの魔術を扱った一流の中の一流の魔術師と言える。
その彼女の言葉に、私はそっと目を閉じた。
それは、私も思っている事だからだ。
彼らのうちどちらかが壮健であれば、今の事態は起きていない。
帝国人同士で争う事もなく、ガト大陸は平和であった事だろう。
「何より、ギザイアの一件を当初はつかめずロガ王に任せっきりになってしまった事を憂いておりました。誰よりもオルキスグルブの動向に目を光らせていた筈なのにと」
「あの当時はバルアドもだいぶバタついていた筈だし、トウラ卿が責任を感じずとも……。それに、ナイトランドより情報が来ておらねば、もっとひどい状況だっただろう」
メルディスがパイプを作ろうとその情報を引っ提げて私と接触しなければ知りえなかった可能性も高い。
そう考えると、トウラ卿より私の方が責任を感じる事案であろう。
「まさかカナトスの王家に入り込み、戦を繰り返しながらゾスの中枢に食い込むなんて思いもよらなかった。そこに思い至らない辺りが私の限界かも知れん。……トウラ卿については分かったが、何故テス商業連合は私に力を貸す?」
トウラ卿の理由は私には分かりやすい物ではあったが、テス商業連合についてはまるで分からない。
彼らは儲かりさえすれば、取引相手はロガでもゾスでもどちらでも良いのではないのか?
「それについては、儂から」
そう切り出したのは褐色の肌の老人、ドラン殿とマークイとまともに打ち合ったというナゼムと言う名の老人だった。
「テス商業連合は数名の大商人たちの合議制で国の指針を決めます。その大商人の中の一人にガームル出身の老人がおるのです」
ガームルの国教は
そのガームル生まれの大商人は信仰に篤く、どうやらローデンの噂を耳にしていたらしい。
「その噂を知りロガ王は太陽王かも知れぬと考えたようでしてな。アーリー様に力はお貸しするから、是非とも王族の責務を果たす様にと言いまして」
「王族の責務?」
「神への輿入れこそ責務」
「輿入れっ!?」
それまで黙っていたコーディがひと際大きな声を上げた。
「ナゼム、それは語弊がある! 俺はその様な意図でロガ王の元に参陣したのではない!」
それまで話を聞いていたアーリーも慌てて口を挟んだ。
なんか、空気が……うん。
「輿入れと申しまして、
つまりその様な方便で国を支配してきたツケを若くして国を失ったアーリーが背負わされている訳か。
「参陣の理由は分かった。改めて貴殿らを歓迎しよう」
例えそうであったとしても、私の方で拒む理由はない。
アーリーの連れて来たバルアド総督の軍と異国の傭兵たちは規律正しく行動しているし。
「すぐにでもまともな部屋を用意したいと思うが、私は交易路の復旧作業を監督せねばならない。すぐに誰かに案内させるので、少し待ってくれ」
「ロガ王。その……こんな事を言うのは厚かましいが、案内役はできればあの軍師だけは止めてほしい」
「……サンドラは寝ているので別の誰かではあると思う」
そう言うとアーリーはあからさまにほっとしていた。
サンドラの奴、一体何をやらかしたんだ?
コーディも呆気に取られてたようにアーリーを見ていたが。
「じゃあ、アタシが案内するよ」
と、不意に口にした。
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