隻眼のウォーロード ~元社畜の転生将軍、ブラックを嫌って人に誠実に接していたら、人材が集まっていつの間にか大陸の覇者に。そして、いずれは軍神に!?~

キロール

帝国の両翼に至る道

第1話 追放将軍の逆襲

 世間的には追放されたことになっている私を討伐するべく、帝国兵が新たな将軍に率いられ、我が領土の防衛線であるレヌ川を越えようと進軍を開始している。


 物語などでは、新たな将軍が功績を上げる第一歩のような図式だが、生憎とこいつは若き将軍の出世物語ではないし、私もむざむざと敗れるわけにはいかない。


 私とてまだ三十代半ばに達していない、老け込むには早すぎる。


 ただ、まあ、皇帝に怒りをぶつけて将軍を辞した訳だが、そいつは軽率だったと思わぬでもない。


 帝国内に留まってこそ、皇帝の在り方を正せる……。


 その筈だが……皇帝の事を思い出すと溜息しか出ない。


 皇太子時代から派手好きな遊び人ではあったが、あそこまでではなかったように記憶している。


 どちらにせよ、先帝の治世であれば魔王との戦争もなかっただろうし、私が反旗を翻している訳はないか。


 ああ、本当ならば勇者殿一行を引き連れ、外国に高跳びしたい所だったんだが……親族が私の追放を知ると皇帝に異を唱えて挙兵してしまった。


 立地からも独立など許されるはずもないし、兵力が圧倒的に差があるのに、だ。


 よほど腹に据えかねていたのだろうが、こうなってしまった以上、私も帝国相手に事を構えるほかはなかった。


 私の為に怒った親族や、先祖代々受け継ぎ、生まれ育ったこの土地を見捨てて出て行けるほどには、達観できなかったからだ。


 この周囲に流されて止む無く立つのが、破滅への第一歩となるケースが多いと知っていても、私は見捨てられなかった。


「若」


 古くから私に仕える老いた竜人、顎ひげを蓄えた竜の頭を持つリチャードが小声で告げる。


 迫る帝国兵を相手取る我が兵を鼓舞せよと言う訳だ。


「分かっている。……ロガ領の将兵よ! 暗愚な皇帝の差し向ける侵略者を迎え撃つぞ! お前たちの力をこのベルシスに貸してくれ!」

「応っ!」


 それに答えて兵士を鼓舞する言葉を放った。


 私の言葉に応えを返すべく響き渡る兵士たちの叫び。


 これで完全に後戻りはできなくなった。


 戦争を生業にはしていたけど、戦争なんてやりたくなかった。


 殺したり、殺されたりするのは大嫌いだ。


 それでも、抗わねば搾り取られるだけだということは、魂の奥底で理解している。


 いつの時代でも、どんな世界でも弱みに付け込み、搾取するような輩はいるものだ。


 だから戦う。


 どのような決着を迎えるのか、どのあたりが納め時なのかを把握しきれていないままに。


 ※  ※  ※


 どれ程の血が流れたか。


 レヌ川を渡河した連中を押し返す攻防が始まってしばらく時が経った。


 こちらも大多数相手の為混乱気味だが、相手司令部に奇襲が成功した為、あちらも混乱している。


 先に音を上げた方が負けと言う状況まで、相手を引きずりおろしてやったが……と、私が次の手筈をどうするか思案していると、不意に背筋に怖気が走る。


 凄まじい殺気を感じ取り、慌てて周囲を見やる。


 そして、飛来する矢に気付いた時は既に遅かった。


 全身を駆け抜ける激痛に苦しみ悶え、握りしめていた私の紋章が描かれた旗竿を取り落としそうになるも、これは離せないと縋るように強く握りしめた。


 ずるずると力が抜けてへたり込もうとする中、私の記憶はこうなった事の発端を、輝かしき日々、そして記憶にある限り最も古い幼き日々に思いを巡らせた。


(これが記憶の糸車が回るって現象か……)


 死に際に今までの一生が一瞬で思い起こされると言われている現象の名を思い出し、力を失った足が崩れ戦場で膝をつく。


 痛み、熱、赤に染まる視界、誰かの声が響く中、私は自身の死が間近に迫ったことをぼんやりと感じていた。


 そして……。


(……ああ、こんな夢だったな)


 さらに古い記憶をおぼろげだが思い出した。


 それは幼き日々に見ていた夢や、思い描いた空想の産物によく似ていた。


 幼き日々の私より前の記憶と何故か思っている記憶、ないしは単なる妄想。


 それは豊かで便利な世界でありながら、どこか暗い世界で奴隷めいて仕事に従事させられていたシャチクと呼ばれた労働者の……いや労役者か? ともあれ、その男の死にざまであった。

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