2話 ゆらゆらと、安楽椅子で眠ったよ。


100円の

ガラス細工に

輝きを!


     ねじ巻き黒句





ガラス工房の店先の荒れた庭を、白い雪が覆い隠していた。

寒さに弱い黒猫の俺には、この雪はかなり堪える。


猫用の自動ドアから中に入ると、暖炉の牧が、パチリと音を立て、

暖かさを演出した。


3年前は、お洒落な店舗を構えたガラス工房だったのだが、諸事情から、店を仕舞い、今は殺風景な姿を晒している。


諸事情が何なのか、人間達の事情など、黒猫の俺には理解できない。


俺に解るのは、店を閉めた後には、1人娘の雛形さんが1人だけ残った、と言う事だけ。彼女は現在、芸術大学に通う女子大生だ。


元店舗の棚には、雛形さんが作ったガラス細工が飾ってある。

全部、猫のガラス細工だ。


ちなみにモデルは、全部俺だ。

照れるぜぃ。


しかし、悲しいかな。

フリマで100円しか値が付かない(泣)


ある日、雛形さんは言った。


「私には才能がないの・・・」と。

「モデルがダメなのかも、ダメ猫をモデルにしても、やっぱし」

と言う俺に彼女は


「そんな事ない、マリちゃん(←俺の事)には、何かある。

それだけは、確信してる。」


と、言ってくれた。


嬉しかったけど・・・・複雑。



工房の店舗に置いてある、ゆらゆらと揺れる安楽椅子で、雛形さんは眠っていた。


確信されてるのに、好きになってくれてるのに、彼女に、何もして上げられない。


俺は、ただの黒猫。


雛形さんが作った、猫のガラス細工達を見ながら、詠んだ一句。



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