『ねじ巻き九六九(クロック)』
五木史人
1話 猫まんまに、チーズを入れといたよ。
植木屋さんちの、さっちゃんが作る、
チーズイン猫まんまは、最高!
さっちゃん家の冷蔵庫に、
チーズがある時は、
チーズ イン 猫まんまなのだ。
今日は、ついてる♪
俺が、そんな事を思っていると、
さっちゃんが、
「猫は箸使わないよ」と。
俺は、テーブルの上にある箸を取ろうとしていた。
取れるはずはないのに。
そして、自分の肉球を見つめた。
前から薄々感じてた事だけど。
俺は猫なのか?
姿形は、黒猫だ。
でも、意識しないと、
自分が黒猫だと意識しない。
もしかすると俺は人間か?
童話の世界の様に、
何か呪われるような事をして、
黒猫の姿に、
変化させられたのかも知れない。
その事を、
なぜか俺の猫語が解るさっちゃんに、
言ってみた。
さっちゃんの優しい手が、
俺の背中を撫でた。
さっちゃんの手は、
触れるだけで愛情が伝わって来て、
孤独な野良猫だった俺は、泣きそうになる。
さっちゃんは、
小6らしからぬ、大人びた口調で言った。
「まほろば君は(←さっちゃんは俺の事をそう呼ぶ)
何もしてないわ」
「何か知ってるの?」
「まほろば君は、何もしてないのに、妬(ねた)まれ、蔑(さげす)まれ、
そして、生贄として、黒猫に変化させられたの」
「そんな・・・」
「今の私に言えるのは、これだけ」
そこへ、誰かが帰ってくる音がした。
「まほろばちゃん、逃げて!」
「そんな・・・せっかくのチーズイン猫まんまが!」
「猫嫌いのパパにバレたら殺されるよ!」
その声に、俺はさっちゃん家の庭へと飛び出した。
さっちゃんの庭の木陰で、
和歌を詠む黒猫が詠んだ一句。
生贄に
選ばれたる
悲しみよ
その不条理を
我は忘れぬ
黒句
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