短歌5

箱に、星

詰めたりラザロほくそ笑む 偸むべしといふことを知らで


麦畑 天使群れたり五月蠅さばえがごと DDTを吸い込みながら


農奴ぞついに火をつけざりし煙草シガレット黒き指もて灰を落とさず


かたわらの銃砂の中 帆布きゃんばすにむかいちとせのたつおまえのいえ


ヘロドトス記す歴史を裁断せし女 宇宙そらよりの言語ウイルス殺す


パラソルばかりの生えたる砂丘その隙間 縊死が巨く転がつてゐる


屋根裏の傘、傘、傘の重なる町に密偵がいる


家族よるほう案じたり緑色りょくしょくの不眠の壜詰の中の毒の


花婿は森を焚くらむ 燐寸函のなか花嫁のは空へと


青空に金襴緞子の生えゐたりあるいはラスタの旗なりしか


海にぶんするおみなあり古時計ぼおんぼおんと締切を告ぐ


うなばらに日本髪浮くほかになしあるいは靴で踏まれる海府


映写技師は撃ち殺したり十五の少年三年経て彼のかばねみるはずが


足すでに亡命せり 春 壜の外 いま革靴にはしることだにう






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