第6話 龍の耳

7月29日 今日も快晴。

俺と優は「夏休みの課題研究」と称し、市立図書館へと向かった。

……間違ってはいない。今は『夏休み』だし、これは立派な『研究』だ(…と言ったら、優に「また別のがあるんだから」と叱られた)

「あれ、図書館ってそっちだっけ?」

俺の質問に優は溜息をついて答えた。

「場所、変わったの。数年前、言ってたでしょう?」

優の話によると図書館は、数年前は確かにこの近所にあったのだが、いつだかの大雨でそこにあった本が殆ど全部流されてしまったらしい。それで、今は駅前のビルの6階にあるんだとか。

「本が可哀想だよね」と優は言うけれど、俺には全く分からない。本に感情なんてあるのか?

駅前のコンビニで昼食を買い、図書館へ向かう。エレベーターで昇る途中、優に聞いてみた。

「お前、その手紙いつ貰った?」

ふるふると首を横に振って言った。

「分からない」

そうか……せめて、優が知っていれば……そうすればもう少し、『龍の鉤爪』ってやつに近づけたのに……

そんな思いが顔に出たのか、優は言った。

「駿、そんなに知りたいなら言ってくれればよかったのに。僕、いつでも本は貸すよって言ってるじゃん」

悪かったな、俺は本を読むのが苦手なんだよ。

俺がそんなことを考えていると優は、「あ、でも」と声を上げた。

「確か、あの人に『龍が駆ける』みたいなことを言った、次の日…だったと思う。」

「え、マジ!?それ、誰!?」

今から言うから……と優は呆れ顔で言った。

丁度、6階につく。優はエレベーターを出てから考えて言った。

「確か、駿と同じクラスの子。えっと…何だっけ?あ…あい……」

まさかな……とある選択肢が頭で浮かんだ。まさか、違うよな。彼奴じゃ、ないよな。

暫くして優が、あぁ思い出した、と言った。

「相河さん。彼女だよ」

また彼奴かよ……

『明日、龍が空を駆けるよ』

相河の声が聞こえた気がした。

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