第5話 龍の爪先

「……なっ……」

もういい?と優は呆れながら、視線を机に落とす。

「それを、どこで!?」

刑事ドラマの犯人のような口調で優に問い詰める。優は溜息をついた。

「……知らないよ。僕が勉強してたら大きな声が聞こえて、それで窓にこれがあったってだけ」

それだけでも充分有力な情報だ。何故今まで言ってくれなかったのだろう。

「優も、龍を見たのか」

うん、見た。

短い返事が聞こえた。優は現実主義者だ。本を読むのは好きだが、それはあくまで空想を楽しむものだという。

「本当に?」

「……僕が妄言を吐いてるとでも?」

冷たい視線を向けられる。なんて生意気な弟だ。

「今、変なこと考えてたでしょ」

「そ、そ……っそんなこと」

分かりやす……とゲンナリする優。

悪かったな。お前と違って素直なんだよ。

そんなことを考えていると優は溜息をつきながら、机を離れた。

何やら本棚を探っているようだ。俺には関係ないだろうし、別にいいか。

「……これ」

数分後、優は俺に一冊の古びた本を渡してきた。タイトルは『龍の鉤爪』

「ん?なんだ?」

優は机に戻りながら言った。

「見たら分かるでしょ。そこまで馬鹿だとは思ってないんだけど」

「いや、タイトルだけ見ても分かんねーよ」

はぁ……と呆れたような溜息と共に振り返らずに優は言う。

「駿は、知りたいんでしょ。『龍の鉤爪』のこと。これはその資料」

好きに使って、と優は今までよりは少し柔らかい口調で言った。

優はそういう奴だ。分かりにくい優しさを持っている。本当に伝わりにくいが。

「サンキュ!」

どーいたしまして。

適当な返事だが、それはそれで優らしい。

部屋から出ようとする。

……と、そこで俺は振り返った。

「優は?」

「……え?」

「お前は、気にならねーの?」

優の手があからさまに止まった。

そして……

「気になるよ、僕も」

待っていました、と言わんばかりの満面の笑みをこちらに向ける。

そうだった。こいつは本当に分かりにくい奴だった。

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