第3話 龍の髭

結局、あの後もいつも通り……という訳にはならず、項垂れながら帰路に着く。

「あー……もう何なんだよ……」

「駿、お疲れー」

お疲れ…と部活仲間に言う。

「元気出せよ、そういう時だってあるだろ」

……そういうことじゃないんだよな。

心の中でそう呟きながら、「ありがとな」と言っておく。

「あー、ほんと疲れたぁ……」

暑いし、とそいつは言う。そりゃあそうだ。午後1時を指す。そろそろ1日で最も暑い時刻だ。

部活は8時から活動していたが、誰も龍なんて見ていない。勿論、俺もだ。

「……やっぱり、俺の聞き間違いか……?」

皆、聞こえなかったって言ってたし……と考えながら帰る。この歳で空耳が聞こえる、というのは中々にヤバい奴だ。耳はいい方のつもりだったのだが。

「にしても……」

ほんと暑いな……と言って空を仰ぐ。そこにはどこまでも青い…………

「ん?」

何何、どうしたの?と仲間は言う。

青の中を何かが駆けていった。飛行機……にしては長いし、飛行機雲にしては明白な、何か。

「……幻覚…か?」

今日の最高気温は38℃だ、とニュースキャスターが言っていた気がする。空耳だけじゃなくて幻覚まで……本当に参っているのかもしれない。

しかし、幻覚は止まらない。

「……なっ……」

ひらひらと白い何かが降ってくる。

「……な、んだよ……これ……」

マジどうした?熱中症?なんて、冗談めかした声がする。

此奴も街中の人も気づいていないらしい。急に立ち止まった俺を奇怪な目で見つめている。

空を駆ける何かと目が合った。

「_______」

そいつは何かを叫んで俺を睨む。

「は?」

睨まれたところで俺は何も知らないのだが。

「……おい、駿」

ひらひらと舞う、その一欠片が手の中に納まった。

「……なんだ、これ」

「いつの間にラブレターなんて貰ったんだよ〜」

煩い。そんなんじゃない。

そう言って、長方形のそれを見つめる。

誰から宛てられたものかを疑わなかった自分に驚いたが、それはどこかで見たことがあるような気がした。


それは……

「……え……」


ただの、白い手紙だった。

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