第2話 龍の鼻

7月28日。 今日は快晴。

『_______龍が空を駆けるよ』

「何なんだよ、一体……」

相河の言葉が頭から離れない。龍って何だ。空を駆けるって…そんな夢物語みたいなことあるわけないだろ。

でも、あの声は……あの、何とも言えない不思議な声は……何故か聞き覚えがある……気がする。

「駿!」

「え?うわぁっ」

ボールが顔面に直撃する。鼻が痛い。

「ボーッとしてんなよ!」

「あはは、すみません」

何してんだよ、駿ー…とチームメイトに笑われる。全部、相河のせいだ。

俺はそう思いながら、パスをする。

「いってー!」

申し訳ないことに後輩にクリティカルヒットした。



「はぁ……」

冷静になりたくて、頭から水を被る。物理的に頭を冷やしても無駄だって事はわかっているが。

「何なんだ……あいつ…」

考えれば考えるほどに堂々巡りだ。深く考えすぎなのかもしれない。

『もう少し、表面的にかんがえていいんだよ』

いつだったか。現代文を相河に教わった時にそんなことを言っていた気がする。表面的って何だよ。分かんねー。俺は確か、そんな風に応えた気がする。

今も現代文は苦手だし、『表面的に考える』の意味が分からない。

「……何なんだよ、表面的って」

「坂城くん」

「……うわぁっ!?」

驚きすぎだよ、と泉月先輩は笑う。

後ろで結んだ髪(ポニーテールというのか?)が揺れている。とても可愛い。

「どうしたの?今日、調子悪そうだったけど」

「あ、いえ……なんでも……」

本当かなぁ?とこちらを覗き込む泉月先輩。

泉月先輩はガード_______所謂、司令塔_______のポジションだ。視野がとても広い人でないとそのポジションは得られない。

俺がどことなくぎこちないのも分かっていただろう。

恐らく、このバスケ部で一番最初に。

「本当に何でもないですよ。休憩、終わっちゃいますよ」

「あ、そうだね。早く行かなきゃ」

泉月先輩は駆け足で体育館へ向かう。

「……よし」

切り替えなければ。

あいつの事は考えない。今はバスケだ。

そう言い聞かせて泉月先輩の後を追う。

空には飛行機雲が描かれていた。

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