第2話

「いよいよだな……」


 校門が近くなると、サトルが緊張した面持ちで呟いた。口元が微妙ににやけてるから、期待感満載なのはバレバレだった。

 隣を歩く俺はといえば、メランコリックな感じでオーバーリミット気味にアクセルべた踏み、みたいな。


 二年の春学期、それも始業式のある日と言えば、まず初めに見なくてはならないものがある。

 クラス分けだよ、こんちくしょう。


「タカ、同じクラスになれるといいな!」

「おー、そうだなぁ」

「新しい友達もできるといいな!」

「おー、そうだな(棒読み)」


 サトル君、めっちゃ笑顔。そりゃもう、満面の笑みってやつ。

 すげえな、こいつ。もう友達ができる前提でいるらしい。リア充の余裕ってやつ? ちょっとでいいから分けてくれよ、その心のゆとり。

 まあ、サトルみたいな良い奴に友達ができないわけないのはわかりみに溢れる。


「タカも、今年はクラスのみんなと仲良くなれよ?」

「みんなっていう不特定多数の相手と仲良くなる必要性を感じねえんだよな、これが」


 そもそも友達ってなに? 美味しいの?

 サトルみたいな良い奴ばっかだったら、別に俺もあいつと友達になりたいなーとか思うわけよ。

 でも、サトルってマジでSSRだぜ。日本中探してもサトル一人しかいないだろ、こんな良い奴。


 一般的に言われてる友達なんて、結局慣れ合いでしかない。これ持論。

 これ言い訳っぽいけど……、あれ、やっぱ言い訳じゃん。ただ友達が出来ないだけだわ。


「相変わらず、ひねくれてるな……。もし同じクラスになったら、俺から皆に紹介してやるからさ! タカはめっちゃ良い奴だって!」

「良い奴かどうかはともかく、それは余計なお世話だから、やめて、ほんと」


 一対一ならちょっと話題があればだれでも話せるんだよ、多分。

 でもそれが大人数になると、「それな!」とか「まじ!?」とか「やば!」とか言って合わせてるうちにその輪から外れてたとおもったら、そのうち輪に近づきすらしなくなって、他の空いてそうなやつを探し始める。

 そして出来上がるのが非リア充グループ。クラス分け初日にクラスカースト制度ができあがるんだぜ。笑える。


 ちなみに無理に輪に入ろうとすると非リア充グループにも入れずにぼっち化が確定するから三重に笑える(笑(笑(笑)))。

 去年の俺だよ。

 その後は何故かサトルに絡まれまくったけど。


「あれ、あそこにいるのってシオリじゃないか?」

「ん?」


 サトルの指した指の先を見ると、そこには校門の前で前髪を弄ったりきょろきょろしたりと、落ち着きのない女子生徒がいた。


 明るい色の茶髪を短く切りそろえて、軽く遊ばせてる系。前髪にヘアピンをしており、見えすぎない程度にオデコを露出。その上、登校初日から制服の着崩しまでしちゃってるような、オンナノコ。


 一部を除くと、細身で身長なんかは俺と同じくらい。雑誌の可愛い系モデルにでもいそうな感じだろうか。


「誰かを待ってるように見えるんだけど……、あ、こっちに気付いた」


 サトルの言う通り、こっちを見るや否や手を振りながら駆け寄ってきて、俺達の前で止まると、そりゃもう気持ちのいい笑顔を向けてきた。何かいいことでもあったのかって感じ。


「サトルっち、タカっち、はろっちゃー!」

「はろっちゃー!」


 …………なに、それって挨拶? サトルもサトルで、なんで対応できんの?


「ノリが悪いよ、タカっち!」

「タカはこういうやつだからな。そこも良いところだけど」


 俺が悪いの?


「…………じゃあ、またあとでな」


 居た堪れなくなった俺は、そのまま退散を決め込むべく、シオリサンとやらの横を通り抜けようとした。

 これはあれだ。サトルと一緒にいるとよく出くわす、友達の友達って感じのシチュエーション。この場合は逃げるが吉。


「ちょっとまって、タカっち! 一緒に行かないの!?」


 シオリサンに腕を掴まれて、阻まれた。ボディタッチはやめなさい。意識しちゃうから。

 俺はそれとなく手を剥がすと、サトルに向き直って、


「サトル、いいことを教えてやろう」

「なに?」

「友達の友達は、友達じゃないんだぜ」

「ちょっと!? それどういう意味だし!?」


 うるさいぞ、シオリサン。

 友達と、友達の友達が話し始めた時、隣で立っていることしかできなくなるんだわ。友達の友達が友達だとするなら、そんなことにはならないんだよ。Q.E.D。

 友達の友達は他人。これ常識な。


「タカ、シオリは去年同じクラスだっただろ。そうつれないこというなって」

「そうだよ!」

「あ、そうだっけ。えーっと……………あ、思い出した。いめかさん?」

「違うっ! 宇喜多! 宇喜多うきたしおり! うーきーたーしーおーりー!」

「ごめん、顔は覚えてるんだ」

「顔しか覚えられてないっ!?」


 いかにもショックです、みたいな顔で唖然とする宇喜多とやら。ころころ表情の変わるやつだな。

 名前なんて呼ばないと覚えないじゃん。小学生の頃の同級生の名前とか、もう覚えてないし。


「まあ、どうせすぐそこなんだから、いいだろ、タカ?」

「…………わかったよ」


 サトルに言われて渋々承諾する俺。別に、サトルに言われたからってわけじゃないんだからね!

 たまたま行先が同じで、偶々時間がかぶっただけなんだからね!

 我ながらキモイな。

 ………あれ、てかさ。


「宇喜多さんって誰か待ってたんじゃねえの? いいのかよ、一緒に行っちゃって」

「ああ、それは俺も思った。そっちは大丈夫か?」

「大丈夫! ちょっと一人で行くのは寂しかっただけだから!」

「あー、それわかる。一人で見るのって、なんか心細いよな」


 分かったように頷くサトル。


「でしょ! だから、ね、別に待ってたわけじゃないから!」


 などと、宇喜多さんは強調するように声を大きくして言った。一人で寂しいって、誰でもいいから知り合いを待ってたってことじゃないのか、うん?

 まあ、どうでもいいや。


「そーいえば、時雨沢さんは今日は一緒じゃないんだね?」

「ああ、まあ、ちょっと、な」


 宇喜多さんに聞かれて、サトルは言葉を濁す。そりゃあ、恋愛相談したいからその本人には先に行ってもらいました、なんて言えないだろう。


「てか、なんで知ってるんだ、時雨沢さんといつも一緒に登校してるって」

「あ、えーっと、それは…………去年、よく一緒に登校してたのを見かけた、的な?」


 宇喜多さんは人差し指をほっぺたに当てながら、目を泳がせた。

 なにそれ、最近流行りの可愛い系ポーズ? むしろAPP(魅力値)下がってるけど。

 

「まあ、サトルはいつも時雨沢と登校してるからな」

「だ、だよねー! タカっちもいつも一緒だけど!」

「付属品みたいに言わないでくんない? 実際その通りだけど」


 サトルが炊飯器だとしたら、時雨沢はオカマの鍋。俺は使い捨てのシャモジ。そんなところか。

 時雨沢はなんだかなんだでビショージョだから、割と的を得ている気がする。


「こら、それは自分を卑下しすぎだ。怒るぞ?」


 などとふざけていると、サトルにしては珍しく眉尻を上げて俺を睨む。割とマジな感じ。

 おこもおこだ。


「………悪い」


 サトルに睨まれながら、俺は素直に謝った。こういう時のサトルは、結構頑固なところもあるから折れた方が面倒くさくないというのが経験則。


 つか、こいつ良い奴過ぎるだろ。他人のために怒れる人間って、そう多くない。近頃の若者は人情が足りないよ、人情が。サトルを見習いたまえ。


「ほんと、そういうところはお前の悪いところだぞ」


 はあ、と呆れ気味に溜息を吐くサトル。


「ごめんな、シオリ。微妙な空気にしちゃって」

「あ、ううん! 私も思ってたことだから! 大丈夫!」

「宇喜多さん、そう言わず、もっと言ってやってくれ。そうしないと、こいつ反省しないから」

「タカ、もとはと言えばお前が悪いんだぞ?」

「それはそれ、これはこれ」


 実際便利な『それはそれ、これはこれ』。似たような言葉で『それは置いといて』もある。

 最近だと『行けたら行く!』が便利な言葉ランキングにランクインしつつある。ここ大学のテストとかに出そうじゃね、知らんけど。





◆ ◇ ◆




「あ、やったー! みんな同じクラスだよ!」


 掲示板に並ぶ名前を見て、ぴょんぴょんと跳ねるように喜ぶ宇喜多さん。


「よかったな、タカ!」

「お前こそ、よかったな」


 俺、サトル、時雨沢の三人全員がC組だった。

 あとついでに宇喜多さんも。


――――――――――――――――――――――――――――――


他で書いているものがあるので更新はもう少し不定期になります。次の話だけ今日の夜にあげます。

栞ハート等、ありがとうございます!

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