親友が幼馴染のことが好きらしいから全力で応援することにしたけど、隣の席の女子と幼馴染の様子がおかしい

巫女服をこよなく愛する人

第1話

Q,男性にとって、女性を好きになる瞬間とはどんな時ですか?

A,子作りをしたいと思った時。


Q,女性にとって、男性を好きになる瞬間とはどんな時ですか?

A,金づるにしたいと思った時。


Q,あなたの恋愛観を教えてください

A,前提として、子供よりも自分自身を養い守ってもらうための恋愛とは、依存であって恋愛ではないとする

 上記を踏まえた上で、恋愛とは子作りをするための過程であり、互いに利用し利用されることを前提とした意思疎通を図る行いである。


 優秀な遺伝子を残すという意味合いは昨今の日本事情では薄くなりつつあるのが現状であり、むしろ結婚とは経済的、社会的な理由が非常に強い。言い換えれば、子供を作り、産み、育てるという行いを、いかに順調に運ぶかに重きを置いている風潮がある。


 結婚とは恋愛の終着点であり、結婚=恋愛と仮定するならば、恋愛とは安定した育児ができるかの見極めの期間と言えるだろう。


 結論。


 人に対する好意を恋愛感情と思い込むことを、恋愛病と呼ぶ。





◆ ◇ ◆





「今日から二年生ね」


 隣を歩く背筋をピンと伸ばしたオンナノコ、時雨沢三徳しぐさわみのりが言った。


 長い黒髪に、すらりとしたモデル体型。端正な顔立ちで、落ち着いた印象を受けるだろう。


 時雨沢とは学校では話すことすらないのだけれど、朝は家が隣なこともあって、決まって一緒に登校している。


 まあ、他にも理由はある―――、というより、こっちの方が主目的なんだけど。


 時雨沢は両手に下げた通学かばんに手を突っ込むと、中から一枚の紙を取り出した。


「はい、これ。予習分よ」

「………うい」


 俺はげっそりとしながらも、その紙を受け取った。

 これを受け取るためだけに、俺は時雨沢と一緒に登校をしていたりする。

 ――のだけれど、欲しくない。いらん。


 その辺にヤギでもいれば、喜んでご馳走してやっただろうが、残念ながら歩いていなかった。

 散歩中の犬ならいたんだけどな、惜しい。


「高校生にもなって、『ありがとう』の一言も言えないのかしら? 杉ヶ町君のためにわざわざ作ってあげたのよ?」

「これを作ったって言えるのかは、疑問だけどな」


 俺は受け取った紙に視線を落とす。

 それは明らかに高校英語の参考書のコピーだった。しかも、斜め印刷の欠陥工事が見受けられる。

 適当すぎない?


「まあ、面倒をかけてるとは思うが」

「全くよ。いい加減、私も解放されたいわ。同級生の、それもお隣のご両親にお給料をもらってる気持ち、あなたにわかる?」

「………その節は、うちの親がご迷惑をおかけしました」


 俺の芳しくない成績を見たお優しいご両親様が、家庭教師のバイトをしていた時雨沢に頼み込んだのが、おおよそ半年前の話。

 いやー嬉しいなぁ(棒)。


「前から思ってたけど、学校で渡すだけじゃダメなのか?」

「学校で読書に集中している時に声をかけられる方が、私は嫌なのよ」

「……あっそ」


 時雨沢は、いわゆる本の虫だ。

 そろそろ図書館の貸出カードに、『時雨沢三徳』の名前がない本はないんじゃないかってくらい。

 昼休みには必ずと言っていいほど図書館に引きこもっているし、閉館している時も教室で一人本を読んでいる。

 活字中毒であることは間違いない。

 などと呆れていると、


「タカー!」


 唐突に俺の名前――正確には綾鷹(あやたか)だが――を呼ぶ声が住宅街に響きわたると同時、背後から迫る駆け足の音。


 聞き慣れた声だった。


 振り返ると、そこにいたのは167センチはある俺よりも身長が頭一つ大きい金髪イケメン、神殿悟(こどのさとる)がいた。

 いわゆるリア充で俺の親友。

 そう、親友。

 高校で知り合って、話してみたらめちゃくちゃ良い奴で、めちゃくちゃ気が合った。

 だって、交番に届けた迷子の子供の親を一日中探してるような奴だぜ。

 街中で叫びながら。

 普通は交番に届けた時点でおしまいだろ。付き合わされた身にもなれ。


「朝から元気だな、サトル」

「だって今日から二年生だぜ!? 俺達にも後輩ができるんだぞ!」

「そう言われても、バスケ部のお前はともかく、俺と時雨沢は後輩との接点なんてないからな」

「……そういや帰宅部だったな、お前」


 サトルはオーバー気味にがっくりと肩を落として、項垂れた。


「おはよう、神殿君」

「時雨沢さん、おはよ!」


 にかっと屈託のない笑みを浮かべて、サトルは時雨沢に向き直る。


「時雨沢さん、今日もタカに宿題渡したの?」

「ええ、まあ」

「そっか、時雨沢さんって本当に優しいよね」


 斜め印刷だけどな。


「仕事だもの、当然よ」


 斜め印刷だけどな。


「あはは………相変わらず真面目だなぁ」


 斜め(以下略)。


「むしろ、神殿君が子供すぎるんじゃないかしら」


 時雨沢はサトルに一瞥もくれず、ツンとした態度のままそう返す。

 「馬鹿にすんな」とか文句を言ってもいいのに、サトルは苦笑いを浮かべるに留まった。


 時雨沢は孤高のショウジョって感じだから、周りと上手くやっていくタイプのサトル側に苦手意識があるのかもしれない。

 水と油というやつだ。

 俺と同じかな。


「ところでタカ。親友であるお前に、相談があるんだけど、いいか?」

「相談? お前が俺に?」

「お前にしかできないことなんだ! 頼む!」

「…………まあ、役に立てるかはわからないけど、言ってみろよ」


 親友の頼みだしな。聞くだけならやってやろう。引き受けるかどうかは別だが。


「あ、えっと、ここじゃちょっと………」


 そう言って、サトルは足を止めて時雨沢をちらりと見る。

 すると時雨沢もそれに気が付いたのか、


「…………私は先に行ってるわね」

「えっと、うん、気を遣わせちゃってごめんね?」

「別に、構わないわ……、杉ヶ町君、宿題は明日の朝までにやっておきなさい」


 時雨沢はそれだけ言い残すと、すたすたと去っていく。

 それを見届けて、サトルは俺に向き直った。


「んで、相談ってなんだよ。あまり聞かれたくないことか?」

「えっと、まあそんなとこだ。特に、時雨沢さんにはな」

「時雨沢に? なんで?」

「それは…………」


 サトルは言い淀んで、眼を泳がせはじめる。

 いつも自信満々なサトルにしては、珍しい反応だ。よっぽど言いにくいことなのだろうか。


「………よし」


 少しして、サトルは意を決したように真っすぐにこちらを見ると、


「俺、実は時雨沢さんのことが好きなんだ! 頼む、付き合えるように協力してくれ!」

「……マジかぁ」


 悲報、俺の親友が恋愛病に陥ってしまった。

 ジーザス。


「時雨沢との接点なんて、登校の時間くらいじゃん」

「クールな態度に憧れちまってな……」


 それ多分、俺みたいに冷たくあしらわれてるだけだ。

 でも憧れちゃったのか。

 恋愛病、恐るべし。


 例えば告白オッケーされたその日の夜に、その子がパパ活してたとしたらどう思うよ。

 答えは恋愛なんて泡沫の夢であって、現実は金が全てだと悟る。

 ソースは俺。


 とはいえ、言われてみれば、納得できてしまう部分もある。


 もちろん時雨沢の魅力についてではない。幼馴染としてはともかく、オンナノコに魅力なんてないからな。


 誰とでも分け隔てなく接するサトルにしては、時雨沢を苦手そうにしているのは珍しいとは思っていたけれど、見方を変えてみると、あれは苦手じゃなくて、ただ緊張してただけだったなのかも。


 ただまあ。

 はっきり言おう。

 めんどくさい。


「別にいいぞ」


 しかしながら、サトルは親友だ。親友たるもの、恋愛病の魔の手から救い出さねばなるまい。

 とりあえず、時雨沢の醜い部分から見せつけて現実に引き戻してやろう。


 俺は誠心誠意、純白純真な友情のもと、サトルの恋愛病を治してやることにした。

 なに、その恋愛感情が本物なら、きっと大丈夫だ。応援してるぞ?

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