5

帰ってきた王様はその頭に蜂蜜色の冠を被っていた。

あまりに身軽なその格好とはアンバランスで……

「……似合わないわ」

「分かってる」

でも、被らないと…

王様はそう言って歩き出す。

「さて、どこに行こうか」

「私は元の世界に帰りたいわ。だから、帰り道を教えて頂戴」

王様はきょとんとして言った。

「なんで?」

なんで……って何よ。

「私を大事にしてくれる人がいるからよ。私は元の世界に帰らないといけないの。

……お父さんやお母さんの為にも」

私は俯いてそう言う。

きっと心配しているわ。お仕事から帰ったら私がいないのだから。学校があるわけでもない、日曜日の昼下がりなのに。

「……それ、本当?」

……え……?

私が驚いていると王様は言う。

「本当に彼らは『君のこと』を大事に思ってくれている?」

心臓がぎゅっと掴まれたように痛い。

「えぇ、本当よ。私をちゃんと頼りにしてくれているもの」

_______頼られるのは嬉しい事だ。でも、時に……

さっきの王様の言葉が頭から離れない。

本当に私のことを大事に思ってくれている?本当は大事なんかじゃないんじゃない?

いいえ、そんなはずはないわ。

だって、お母さんは私のことを優しく抱きしめてくれ…た……?

「……なんてね」

「……え…?」

私が顔を上げるとそこには笑顔の王様がいた。

「意地悪しちゃってごめんね!

君は帰りたいのに。引き止めるような真似はしちゃいけないよね」

「え、えぇ……そう、よ。

引き止めるなんて…しちゃ、駄目……」

語尾が段々と小さくなる。

本当に大好き、なんて言ってもらえてたかしら…?お母さんは私の好きな物を買ってくれた……?お父さんは……私と公園で遊んでくれた?

「じゃあ、ボクは散歩でもしようかな」

君も行く?

と王様は私に声を掛ける。

いけない。しっかりしなきゃ。

「えぇ、私も行くわ」

私は深呼吸をしてから歩き始めた。

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