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「ねぇ、どこに行くの?」

歩きながら王様は振り返る。(なんだか凄く疲れているみたい)

「……んー……帰り道、かな」

帰り道?本当だったら凄く嬉しいけれど……

全然先が見えない道をずっと歩いてる気がするのよね。

「この道で本当に合っているの?」

ふぅ……と溜息をついて聞いてみる。

「んー?合ってるかもしれないし、間違ってるかもしれない」

「何よ、それ!」

怒って声を上げると王様は冗談だよ、と笑った。

「さっきから笑ってばかり。私の教えて欲しいこと、全然教えてくれないじゃない!」

「ごめんって。……絶対、合ってるから安心していいよ。……だって…」

この道を作ったのは、ボクだから。

王様はそう言って進んでいく。

王様が本当に作ったのなら、王様は捻くれているんだわ。

そう思いながら、私もついて行く。

「……あ、ほら。見えてきた」

……今になって不安になってきたわ。だって私、お留守番も出来ない悪い子だもの。怒られてしまうに決まっている。困ったわ。言い訳なんて出来ないし……

「……」

王様は私を見つめていた。

「……着いたよ」

暫くして、王様が言った。結構歩いたし、もうすぐ家に着いてもいい時間よね。

そう思って前を見る。

そこには……

「……な、んで……」

真っ白で大きいお城があった。

「酷い!騙したのね!」

「別に誰も『君の』帰り道、なんて言ってない」

それは、そうだけど……でも……

「『貴方の』帰り道、とも言っていないわ」

「おー、言うね〜」

王様はニタリと笑って言った。苛々してくる笑顔だけれど、今はどうでもいい。

「どうぞー、お客様」

……むっとしながらもお城の中に入る。

そこは……本当に白かった。何も無い。白いだけの世界。

「……お城なのに、何も無いのね」

「まぁ、そうだね」

後ろから王様の声がする。

「なんで、こんなに何も無いの?メイドさんや執事さん……大きなダンスホールも無いじゃない」

そういうと王様は、ちょっと考えて言った。

「……無いから?」

「何が?」

何って、全部?と王様は言った。

「全部無いってどういうこと?」

王様は少し哀しい顔をして言った。

「無いんだよ、全部。記憶も、思い出も……何もかも」

「それは……」

私も哀しい気持ちになった。だって、思い出が無いなんて……

「ボクが誰なのか、なんでここにいるのか……君のように逃げ出したいって、考えなかったのか……。全部、全部分からない。自分が…どうしたいのかも」

「……王様…あのね、」

それは私も一緒よ。

何故かそんなことを言いかけて、止めた。なんでそんな気持ちになったかは、分からない。でも、何故か王様と私は似てるって…そう思った。

「……だから、変わらない。この国は王様の意思で、何でも変わるんだってさ。

でもボクがこんなんだから、なーにも変わらない。

……ボクは、自分探しだけで精一杯だ」

王様は、態とらしく明るく振る舞っていた。確かにさっきから何も無い。人間だって、私と王様の二人だけ。二人ぼっちの国。

「なんか、凄く……淋しいわね」

「……?淋しいって…何が?」

「何でもないわ」

……王様が淋しくないことを私が淋しいこと、なんて言えないもの。

王様はよく分からないといった顔をして、言う。

「何でもないならいいよ。ボクはこれからちょっと『王様』のお仕事でもしてくる。暇だったら、散歩でもしててよ」

じゃあ!と長い廊下を走っていく王様。

ここには、「廊下を走っちゃいけません」と言う先生もいない。王様がルールなんだ。

だから……

広い廊下には王様しかいなかった。

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