3

「……へ?」

その人は間抜けな声を出した。

「パン屋さんはパン屋さんって呼ぶでしょう?それと同じよ。あなたの名前が決まるまでは、あなたのことをお仕事で呼ぶわ」

我ながらとてもいい案だと思わない?と胸を張って言う。

その人は目をぱちぱちさせて、暫くして笑った。

「あはははははっ」

しかも、とても大きな声で。

「……なんで笑うの?もしかして、おかしくなっちゃった……?」

心配しながら訊くと「おかしいのは君の方さ」と返ってくる。

なんて失礼な人。私は本気で心配してあげたのに!

その人は「ひー、よく笑った」と変な声を出したあと、漸く笑い終わった。

「ボクの仕事だって?はっきりとはしてないけど、王様代理兼案内人……ってとこかな。」

王様代理兼案内人……ってどういうことかしら。

「悪いけど、それじゃあ呼べないわ。そんな仕事、聞いた事無いもの」

王様はニヤリと笑って言った。

「君の好きな様に呼べばいいさ。『王様』でも『案内人』でも……何なら、そこら辺の猫の名前だっていい」

猫の名前はやめたい。私は猫が嫌いだもの。

「……じゃあ、『王様』って呼ぶわ」

そっちの方がしっくりくるし、王様のいない国なんてしっかりしないもの。

王様は固まった。そして……

「はぁぁぁぁぁ……そっち取ったかぁぁ……」

ゾウも顔負けの大きな溜息をついた。

小鳥が飛んで来て、王様の肩に止まる。

「おめでとう、王様。おめでとう、王様」

あぁ、どーも……なんて適当な返事をして項垂れる王様に訊く。

「なんで?色んな人に頼られるのよ?色んな人があなたを祝福するのよ?それなのに……」

風が、吹いた。

王様は少し哀しそうな顔をして言った。

「頼られるのは嬉しい事だ。でも、時には寂淋しい事になる」

ドクン……と嫌な音がした。

どこかで、誰かが同じようなことを言っていた。

あれは……確か……

「ま、君の言う通り王様のいない国はしっかりしてないからね。ボクが王様になるよ」

そう……と私は呟いた。

王様は草だらけの道を進む。

「どこに行くの?」

私が訊ねると王様は振り返って言った。

「帰り道」

私は嬉しくなってついて行く。

「早く行きましょう!」


「溺れないかな?」「溺れちゃうかも」

「「美味しい美味しい紅茶の中で……」」

木々がざわめいた。

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