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歩き始めて何時間経ったのだろう。

未だに帰り道は見つからない。

「…ずっと、同じ道を歩いてるみたい…」

もう疲れた……道端に座りこもうとした瞬間…

「ピンポーン!だいせいかーい!よく分かったね」

あの声が聞こえた。

「……あなたはどこにいるの?」

「あなたってどなた?」

おどけたようにその人は言う。

「あなたはあなたよ」

「だから、どなた?」

段々とイライラしてくる。どなたって……名前を名乗らなかったのはどっちよ。私が聞いてなかったのも悪いと思うけど。

「あなたったら、あなたなの!さっき、私を起こした人!」

木々が風に揺れた。静かに時間が流れていく。

……返事くらいしてくれたっていいじゃない。

そう思っていた時に後ろから声が聞こえてきた。

「うーん……当たらずとも遠からずって感じだけど、自己紹介してないボクにも非があるといえばなくはないからね。今回は及第点ってとこかな」

うわぁっなんて、情けない声を上げてしまった。その人はクスクス笑っている。

ダメダメ。しっかりしなきゃ。

「さっきの……どういうこと…?」

「その前に自己紹介しようよ」

あ、そうだった。

私はスカートの端を少し持ち上げてお辞儀をした。

「私は× × × 。」

へぇ…× × × …とその人は何か考え込むように呟いた。

「何か、心当たりでもあるの?」

もしかしたら、帰り道を知っているのかもしれない…!

なんて、小さな期待を込めて聞いてみる。

「いや、全く」

即答だった。じゃあ、なんでそんな考え込んだのよ…

内心呆れながら、聞くべきことを訊く。

「それで、あなたは?」

「え、ボク?」

心外だ…と言わんばかりにその人は驚いた顔をしている。もう…この人は何なのかしら。

私は溜息をついて言った。

「あなたが言ったんじゃない。『あなたってどなた?』って」

そうだったっけ?なんて、惚けてるのか、忘れっぽいのか、その人は言う。

「そうよ。あなたが誰か分からなかったから、私は困っていたの」

そう言うとその人は考え始めた。なんでそんなに考え込むのか分からなかった。

「なんでそんなに考え込むの?あなたの名前じゃない」

呆れながら言うとその人は真面目な顔で応えた。

「当たり前だろ。ボクには名前が無いのだから」

……はい?

私は固まってしまった。何を言ってるの、この人。だって……さっき、あなたってどなた?って…

…まさか…

「名前が無いのに呼んでって言ったの!?」

なんとまぁ、理不尽な!

自分さえ分からないのに他の人に分かってもらおうなんて!

その人は口を尖らせて言った。

「無くたって分からないものは分からない。『あなた』で伝わるのは、仲のいい夫婦だけだとボクは思うんだけど」

「確かにそうね」

なんでお母さんとお父さんは『あなた』で通じるのかしら。自分の名前があるのに『あなた』で分かるなんて…私も仲のいい人と結婚出来たら、そうなるのかしら。

……って、いけない、いけない。今はこの人の名前の話。

どうにかしないと本当に不便。

えーっと……他に、良い方法は…

「…あ」

「ん?どうしたの?」

私は名案を思いついてしまったかもしれない。

「あなたのお仕事は?」

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