1-②
「これは?」
男は
「つ、
言い切るフォルテの手には、モザイク調の
「壺? これがいったい……」
「こ、これはただの壺ではございません。
「この壺が? 本当に?」
黒フードの男は
フォルテはぎくりとして壺を引っ込める。
「し、信じないのならいいですわ。壺のことは忘れてくださいませ」
そのままテーブルの下に
「誰が信じないと言った。もらおう。いくらだ?」
「いえ、やっぱりこの壺は……あっ!」
黒フードの男は、再び戻そうとしたフォルテから
「この壺は私がもらう。これだけ
男は
フォルテは目の前の大金にごくりと唾を飲み込む。
「なんだ! 足りないのか?」
「い、いえ。
壺を手に
「ああ……ついに犯罪に手を染めてしまった……」
罪悪感に落ち込む少女の
《ああ、親愛なるテレサ様。ついにあなた様の娘が悪事を働いてしまいました。止めることができなかった私をお許しください。うう……うう》
「私だって分かってるわよ、ゴローラモ! でも仕方がなかったのよ! どうしてもお金が必要だったんだから……。分かるでしょ?」
《ですが、亡きテレサ様が知ったらどれほどお
「どうせ私はお母様のように清らかでも美しくもないわよ」
《いえ、お顔はテレサ様に生き写しでございますが、中身が残念……あ、つい本音が。これは失礼
側近の騎士は、わざとらしく深々と頭を下げる。
「いいわよ。分かってるわ。その上犯罪にまで手を染めて、もうまともな結婚もできないわね」
《それでいったいいくらで売ったのでございますか?》
「いくらかしら? この厚みから考えると一万リルぐらいあるわね」
《はい?》
「だから一万リルよ。これでビビアンの薬が買えるわ。よかった」
《フォルテ様。確かあの壺はテレサ様が
「え!? 物置にあったから持ってきたのに、まさかお母様のものだったなんて……」
《ええ、ええ。確かにあれは花を
「そ、そうなの? 知らなかったわ……」
騎士の額には
《なんということを……。あれは十万リルの
「そんな……!
《何言ってるんですか! 霊感商法とは二束三文の
「だって壺をそばに置けばいいことがあるって言ったのよ。それを信じてあの人は
丸テーブルに突っ伏したまま頭を
そしてキャラメル色の
茶髪の騎士は少女に気づかれないままに、
そして気を取り直して言葉をかけた。
《フォルテ様は何も悪くありません。すべてはビビアン様のためにしたこと。神様も、亡きテレサ様も分かっていらっしゃいますよ》
「ありがとう。……そうね、早く
妹のビビアンは薬が切れると
準備を終えると、戸口に三十前後の長い
「ピット……」
動きやすい綿のブラウスに緑の長丈のベスト姿の青年が
「またフォルテ様の独り言ですか? ずっと話し声が聞こえていましたが……」
「あ、ええ。そ、そうなの。ずっとしゃべってないと落ち着かない
フォルテは
「そろそろお屋敷に戻らないとまずいかもしれません。今日の占いは終わりましたか?」
「ええ。今のお客様で最後よ。いつも付き合わせてごめんなさい」
「いいえ。私のことなら気になさらないでください。あなた様ほどの身分がありながら、従者も連れずに一人こんな所で占い師の仕事など……」
「いえ、従者ならちゃんと……」
フォルテは横に立つ背の高い騎士を見上げた。
「え?」
「ううん。なんでもないわ。私のことなら心配しないで。占い師をやるぐらいだもの。危険を察知する能力だけは高いのよ」
そう。とても
亡き母を
だが誰にも見えない
「ずっと知らない人がいると思っていたけど、ゴローラモ? ずいぶん若くなったのね」
驚いたことに誰にも見えないはずの騎士は、なぜかフォルテにだけは見えていた。
その日から、テレサの忠実な騎士は、フォルテの側近霊騎士となったのだ。
《道中の危険はこの私が命に代えても
「代える命がもうないじゃないの。調子いいんだから。しかも五十で死んだくせに、ちゃっかり二十代の容姿に戻ってるし」
《フォルテ様の側近に
生きていれば、誰もがうっとり
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