2-②
「昼からペルソナ様がいらっしゃるのよ。お茶を出してほしいの」
その言葉にピットがぎょっとして
フォルテは予想外の用事に
「ほら、マルベラとの
「か、
ピットは、なんて意地の悪い女だろうかと思った。
ペルソナというのは、幼少からフォルテの婚約者として両家で約束を
「あら、知らない
「ですが……」
反論しようとするピットの腕をフォルテが引いた。
「いいのよ、ピット。私もペルソナ様には一度会っておきたかったから」
両親の
「でも……」
不安そうなピットにフォルテは微笑んでみせた。
「大丈夫。心配しないで」
「ああ、そうだわ。あなたにも朗報があったのよ、フォルテ」
ナタリー夫人は今思い出したように、意地の悪い顔でフォルテをちらりと見た。
「先日、王宮より招待状が届いたのよ。一カ月後の
「王宮の舞踏会?」
フォルテは
別に王太子に
「私が……行ってもいいのですか?」
しかし、そんな思いは僅かの時間で
「
「え?」
「もちろん、このヴィンチ家からはマルベラが行きます」
「え? でも……」
ペルソナとの婚約話が進んでいるのではないのか……?
「
フォルテはショックを受けた顔で義母の言葉を受け止めた。本来なら公爵家の正当な血筋であり、長子でもあるフォルテにすべての権利があったのだ。
ピットが心配そうに、ちらりとこちらを
しかし、この数年で奪われることに慣れたフォルテは、ゆったりと
「分かりました、お義母様。感謝
フォルテはもう一度ドレスをつまんで頭を下げた。
《このくそ女め! 母親面しやがって! 精神的に参っておられた公爵様をたぶらかし、まんまと後妻に入り込んだ
つんと部屋を出ていくナタリー夫人を
「ふふ。やめなさいったら……」
ただ一人見えているフォルテは、
「え?」
ピットは首を
「あ、いえ、なんでもないわ」
ナタリー夫人の様々な仕打ちにも明るく
ただし、まったくダメージを
でも、むしろそれでよかったとフォルテは思っている。
「舞踏会に行きたかったのではないですか?」
ピットは
「まさか! うっかり凶悪人相の殿下の後宮なんかに入ることになったらどうするのよ。絶対嫌よ! マルベラが出てくれてよかったわ」
「でも王太子殿下ですよ。
「まっぴらごめんだわ。今の国王のせいで私達
フォルテは妹を不幸にしたデルモントーレ国王を、決して許さないと
もちろんその
五年前に母テレサが
そんな時にメイドとして入り込んできたのが、ナタリー夫人だった。
どこぞの貴族の血筋だが今は
その頃には無気力にベッドの上でほとんどの時間を過ごしていた父は、ナタリー夫人が世話をするようになってからさらに悪化し、一週間ほどで
その寝たきりの父が、どういうわけかナタリー夫人と
ナタリー夫人の手には、父の署名が入った結婚
デルモントーレ国では、公爵の結婚は国王の
なぜなら、公爵家は政治に大きな一石を投じる事ができるからだ。
この国の政治は王と重臣達、そして王国の各地の領土を治める公爵家によって成り立っている。特にこのヴィンチ公爵家は、王宮にも近い領土を治める有力貴族だ。
だから公爵家の当主の結婚は、
「あんなインチキ嘆願書、陛下の許可が下りるわけがありません」
当時は健在で、フォルテの護衛
どう考えても身分違いで
公爵の結婚には二カ月ほど
だが、何をどうやったのか国王の許可は三日で下りた。
しかもその翌日、ヴィンチ公爵は亡くなってしまった。
そして一週間後には、ナタリー夫人は連れ子のマルベラを屋敷に呼び寄せ、すぐに別の男と結婚し、公爵家に
それら一連のことに関する書類は、なぜか
フォルテはヴィンチ公爵を名乗る義父に、いまだ会ったことはない。
ナタリー夫人とも会っている様子はない。
そして、何かの
すべては五年前のほんの三カ月ほどの間に起こった出来事である。
そうしてフォルテは
頼りにしていた
その上フォルテとビビアンは部屋から追い出され、
部屋にあったドレスも調度品もすべて奪われ、姉妹ですきま風の吹く質素な部屋で身を寄せ合って暮らしている。そして使用人の一人のようにこき使われてきた。だが元々体の弱かったビビアンは、過酷な暮らしで持病を悪化させ、今では薬が手放せない状態になっている。
フォルテだけなら、こんな家を捨てて占い師をしながら一人生きていったかもしれない。しかし病弱な妹には屋敷を出ていく体力すらない。
だからどれほどひどい
そんな苦しい暮らしを続けて五年。
「公爵家の家督がこんなに簡単に奪われるなんてありえないわ!!」
父の書斎でこっそり調べていたフォルテは、ゴローラモの言う通り、それがいかに異常な事態であるかを知った。王がきちんと政治を行っていれば、こんなことは起こるはずのないことだった。だから
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