第二章 不遇の公爵令嬢
2-①
「ねえ、ピット。この国って
フォルテは
「どうしたのですか? 急にそんな心配をして」
人のよさが
両親が健在の
「ほら、もうすぐ国王陛下が
「え? 王太子殿下は太っているんですか? 金髪の美青年だと聞いたことがありますが」
「以前に占ったご
「そうなんですか……」
ピットは
厨房の
本当はあちこちの貴族から
「ここだけの話よ。気弱な陛下をずっと
「フォルテ様、またそんな恐ろしい情報をこんな所で気軽に言って。
「大丈夫よ。他に誰かいたら教えてくれるから」
「え? 教えるって誰が?」
フォルテは
「か、
「ええ。それはそうでございますが……」
母テレサの死も、父の公爵の死も幼いフォルテは予知していた。
フォルテはゴローラモが霊としてつき
いや、そういうフォルテだからゴローラモが見えるのかもしれない。
「しかし、そんな情報をいったいどこから……」
「最近占いの仕事がすっかり評判になって、王宮の重臣なんかもお
「フォルテ様の得意分野でございますね」
「まあね。したこともない恋愛相談よりはよっぽど答えやすいわ」
フォルテは父が死んでから誰も入ることのない
しかし、その根底には
こんな政治をする国王のせいで、自分と妹は不幸なのだと……。
おかげで政治のコアな相談にも、石の持つ意味を的確に伝えることができた。
「まさかクーデターが成功すると占ったのですか?」
「ううん。さすがにそんなことにはなってほしくないしね。クーデターが起これば、数年は国が乱れるわ。それに……成功しないだろうと思うの」
フォルテがそう思うなら、成功しないのだろうとピットは胸を
二つのうちどちらを選ぶか。
その
「それにしても、やはり占い
ピットは、フォルテが占い師をすることには最初から反対していた。
三年前、妹の薬を手に入れるために働くと言い出した時は本気で心配してくれた。
「大丈夫よ。『青貴婦人は四十代の未亡人』という設定で変装しているから。誰もその正体が十七の
「でも万一ヴェールを取られて顔を見られたら。フォルテ様の美しさに心を
心配するピットをよそに、フォルテはぷっと
「もう。そんなふうに思っているのはピットだけよ。顔を見られたら、こんな小娘に相談していたのかと
笑い飛ばすフォルテにピットは不安を滲ませた。
この公爵令嬢は知らないのだ。自分がどれほど美しい容姿をしているか。
社交界にデビューする前に両親を失い、屋敷の中しか知らない少女には、その美しさを
さらには公爵が死ぬ前に
この
そのことを痛いほど知っているからこそ、ピットはフォルテとその妹を守るために公爵家に残っているのだ。
《フォルテ様、ナタリー夫人がこちらに向かってきます》
ふいに霊騎士が風のように姿を現し、フォルテの横に
「いけない! お
フォルテは食べかけの焼き菓子を慌てて
「フォルテ様、この生地をこねてください」
ピットは慌てて、まだ成型してない生地を大皿にのせて
フォルテは
それとほぼ同時ぐらいに
「フォルテ! フォルテはどこ? またピットのところなの?」
やがて厨房の戸口に義母のナタリー夫人が姿を現した。
フォルテは今気づいたという様子で、生地を丸める手を止め、
「ごきげんよう、お義母様。こんな所にまでなんのご用でしょう?」
見事な
「またピットの手伝い? 本当に役に立っているのかしら?」
「非常に助かっております、
ピットが代わりに答えて
パンの
「あら、
ナタリー夫人は
「美味しいわね。あなたの作る料理はどれも素晴らしいわ」
ナタリー夫人は
「ピット、助手が
「いえ、決してそのようなことはございません。フォルテ様のおかげで助かっております。どうかこのままお手伝いいただけたらと思います」
公爵令嬢が料理人の手伝いなど
だがここの手伝いがなくなったら、フォルテはもっと
「あなたがどうしてもと言うなら仕方ないわね。ああ、そうそう。フォルテに用を言いつけに来たのだったわ」
「なんでしょうか?」
またいつもの雑用かと思いつつ、フォルテは作り笑いを
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