4-③
「ブレス女官長、そちらは後宮の本宮でございますよ」
「あ、あら、そうだったわね。方向
いつもと様子のおかしい女官長に、侍女達は首を傾げて配膳室に入っていった。
そして
先に女官長がどういう一日を過ごしているのかリサーチしておくべきだった。
「ブレス女官長様!」
そんなゴローラモが後ろから侍女の一人に呼びかけられた。
「な、何かしら?」
「クレシェン様がお呼びです。占い師様にご挨拶の後、部屋に来るように言っていたのにまだかと……」
「あ、あら。そうだったわ。ちょっと頭がぼんやりして……。お部屋まで一緒に行ってくれるかしら?」
「は、はあ。いいですけど……」
* * *
「まったく。すぐに部屋に来いと言ったのに何をしているんだ、ブレス女官長は!」
アルトの
「太っていると歩くのに時間がかかるんです。許してあげてください、クレシェン様」
ダルは、同じ肥満仲間としてブレス女官長には
そして朝食をまたしても食べ過ぎてソファにぐったり座っている。
「お前は朝から食い過ぎなんだ、ダル! 毒見と言いながらお前がほとんど食べてるじゃないか!」
「でも残すともったいないんで……」
ダルは毒見ついでにアルトが残した食事を完食するのが日課になっていた。
「少しは運動したらどうだ! また
口ではひどく
「まあ落ち着いてクレシェンも朝食を食べたらどうだ」
アルトは一人掛けのソファに座って食後のフルーツをつまみながら言った。
朝食はアルトの要望で、毎朝ここで三人揃って食べることになっている。
三人掛けのソファにふんぞり返って座るダルと、一人掛けソファで姿勢よくフルーツを
「私はブレスの話を聞いてから食べます。まったく、何をしているのだ」
やれやれとクレシェンが
「ブレス女官長様がいらっしゃいました」
「入れブレス!
クレシェンが
つき
「も、申し訳ございません。少し気分が悪くなってしまい……」
「気分が? まあいい、早く報告せよ! あの占い師はどんな顔だった? 知っている顔ではなかったか?」
ゴローラモ女官長は、はっと顔を上げた。
(そういうことか。着替えを手伝うふうを
すぐに理解するとゴローラモは答えた。
「残念ながらまったく知らないお顔でございました。非常に
「ブレス女官長に?」
クレシェンは若い女官や侍女に恐れられている
「お前に心を開いたなら誰でも
ゴローラモ女官長はすぐに答えた。
「おそらく四十代かと思われます。良家の貴婦人のようにお見受け致しました」
「ふむ。
クレシェンは少し考え込んだ。
「他に何か気づいたことや
クレシェンの問いに、ゴローラモは「いえ、何も」と首を振った。
すると
「恐れながら、殿下、発言してもよろしいでしょうか?」
(え? 殿下?)
クレシェンの後ろにはソファに座る二人の男が見えている。一人はこちらに背を向けて一人掛けのソファに座り、もう一人は三人掛けのソファでこちら向きにふんぞり返って座っていた。
「なんだ、申してみよ」
クレシェンがソファに振り返り、視線だけで許可を得て代わりに答えた。それはゴローラモの位置からは、ふんぞり返って座る男に向けられたものに見えた。
「気づいたことと言いますか、驚いたことでございますが、朝食をどの程度ご用意しようかと迷い、多い分には失礼にあたらないだろうと、五人相当分の食事をお持ち致しました。すると、あの占い師様は短い時間にすべて完食しておりました。見たところ太っているようには見えませんでしたが、それはもう恐ろしい大食漢のようでございます。やはり常人ではないようにお見受け致しました」
「なんと、五人分を完食したのか! ダルやブレスにも引けをとらぬ食い意地だな」
クレシェンは
だがアルトは、聞いていて少しおかしくなった。
「じゃあ、今度からは十人分持っていってやりなよ」
そして大食漢に理解の深いダルが、アルトの代わりに答えた。
一方、その五人分の朝食を平らげた本人でもあるゴローラモ女官長は――。
ふくよかな贅肉に
(ま、まさか……今答えたのが……王太子殿下……? あ、あれが……!?)
その視線の先には、ソファに誰よりも
しかも朝食を食べ過ぎて気持ちが悪いのか、世にも恐ろしい形相になっている。
ゴローラモはただただ、ひどくショックを受けたように
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます