第11話  ─   大きな目標    ─






世界最強と名高い【十二幻将】フィーリアとの修行を終えて帰ってきた僕は皆に暖かく迎えられた。


ただ言いたいことは、あんな周囲の目があるところで迎え入れられ注目されてしまったことだろうか。


はずかしいったらありゃしない。


通行する顧客も居ただろうに、全員でまるで王族等を迎え入れるかのような仰々しさを伴いながら迎えるのだから気になって仕方なかっただろう。


「そんな大袈裟に歓迎しなくて良いよ、普通にしてってば……」


僕は余りにも集まる視線から顔を俯き気味にそう言った。


周囲の視線を集める僕がかつてこの国で話題になった【   無職】として広まった人物だとは誰も思わないだろう。


思ったところで口に出せる様な人物もいないはずだ。


何せ、このギルド連盟で知らぬものが居ないとされる地位のガルドフや、Ex天職である【勇者】と【魔王】が歓迎しているのだから。


その的である僕にもしも、そんなことをいう人が居ればそれは下策も下策。


ギルドメンバーとしてもだし、何より所属ギルドによって変わるが万が一にも【幻狼の瞳】にそのような者が所属していたら困る。


商人とは客としてモノを買うものに平等をもって接すことが重要なのだから。


だが、僕は状況を理解した。


今、僕が設計した第八層までにもなる連盟のギルドハウスの第一層に入ってわかった。



少し、荒れるのが手に取るようにわかる。


例え、隠れて見ていようと公に晒していないとしてもわかるよ。



この場に居る僕の知らない顔の人のほとんどが些細なものから大っぴらなものに至るまで嫉妬に歪んでいるのだから。


それは、人々の羨望する【勇者】と【魔王】に歓迎されているからか、今まで見かけたことも無い人物が唐突に出てきて偉そうだからか定かではない。


ある程度集まってきていたメンバーと会話をして懐かしみながらも少し輪から離れ物思いに耽っていると、ふと思うのは、見かけない人たち。


何かしらの作業中なのかと思考している最中、いつの間に近づいていたのか、ガルドフが僕の体を気遣ってか頭を撫でながら声をかけてきた。


「ルイ、長旅で疲れたろうし、暫く休んどけ。──まァ、どうせ直ぐに動かなきゃなんなくなるしな?」


「う、へぇ……」


なんて含んだような事をいうものだから寂しさを感じながらも僕は思わず変な声を出してしまう。


まあ、ギルドの仕事とかは嫌いじゃないし、仕事を熟していけば今日話せなかった人とも話す機会はあるだろう。

それに、最近は体を動かすことしかしていないから頭を動かしたい気分でもあったしで願ったり叶ったりだ。


「暫く拠点もねェだろうから、長の部屋を使えば良い。懐かしいヤツも待機してるだろうから、セキュリティ的にも大丈夫だろうよ」


「……そっか。はは、じゃあ、お言葉に甘えて休ませて貰おうかな」


懐かしいヤツ、セキュリティ。


その言葉だけで誰なのかわかってしまった僕は微かな苦笑と再会できる喜びを感じて促される儘に魔道具の力を使って作られた昇降盤に一人で乗る。


行先は昇降盤中央に置いてあるボタンで決めるが、そのボタンもある魔道具であり、搭乗者の持っているギルドのカードキーが無ければ行くことのできない階が存在する。


そして僕が向かうのは連盟のギルドマスターや重鎮と、僕の作ったギルドの初期メンバーのみしかいけない第八階層。


そういう風に作る様、出る前に頼んでおいた通りに作られていた。


今や巷を騒がす大ギルド連盟【幻狼マーナガルム】の第八階層全てが連盟長室である。


「お帰りなさい、主様」


「……うん、ただいま、カズハ」


第八階層に到着すれば、それが当たり前だと言うように頭を下げて佇んでいる同い年くらいの女性。


夜を連想させる黒い髪に全てを吸い込む様な黒き瞳。


ある出来事をきっかけに元々所属していた護衛ギルドからでは無く直接雇用として入った彼女はその髪を一つにまとめて後頭部から肩を通って前へと流れている。


仕事の際の服は燕尾服を好んで着用しているが、私用の時は打って変わって紫色の浴衣を着用し、纏めている髪を下ろすらしく、仕事と私用時の差がギャップだと言っていた。本人が。本人がだ。


本人だ。聞き間違いじゃない。だから3回言ったんだ。


「随分と強くなったのですね? いいえ、私の仕事を奪いやがってこの下種野郎がッ何て思っていません。2年もの間、護衛対象の居ない私がどれだけ惨めだったか。里から出た忍びが定期的に集まるパーティで自慢することも出来ず、質問されては『逃げられました』と答える日々……ああ、凄く惨めでした」


彼女は下げていた頭を上げて僕を見つめて直ぐにそう呟いた。


まるで積年の恨みを晴らす様に長文で捲し立てられてはたまったもんじゃない。


ここは直ぐに謝るのが正解だ。この良くわからない話も終わらせてくれるだろう。


「それは、ごめn……」


「なのに今度は護衛の必要性を疑う程までに強くなられて、私への当てつけですか?」


だから、聞こえるように少し声を張って言ったのに、そうはさせまいとばかりに声のボリュームを上げて問い正してくる。


「ねぇ、話聞いて!?」


「こうなれば最終手段です、貴方を殺して──」


何か物騒な言葉が聞こえた気がするけど、気の所為だ。きっと、そうだ。話を聞いてくれれば何とかなるはずなんだ。


「ね? お願いだから、僕の話をk「──別の主様を探しますッ」……え、普通これって『私も死にます』って感じに後追いするヤツなんじゃないの!? 乗り換えちゃうの!? え!?」


「ええ、乗り換えます。馬車馬の如く乗り継いでいつかきっと豪華なパーティで盛大に面白可笑しく自慢するんですからッ!!」


「ていうか、目立っちゃいけない職業がそんなパーティ開かないで!? というか、それ情報流出してるじゃん!!」


「主様自慢での流出は仕方ありません……我慢などできるはずもないのですから! ……という冗談はおいておいて、」


「どこからどこまでが冗談なのかな? え?」


「無事に天職を授かれて良かったです。いなくなる時は本当に急でしたから」


そう、商会の重鎮といっても良い立場にいる彼はガルドフの紹介でフィーリアの元へ行ったが、他のメンバーには黙って出ていっていたのだ。


ガルドフからも『声かけっと面倒くさくなるからそのまま行ってこい』と言われたので仕方なくであるが、声をかけなかったのは事実。それが原因で歓迎なんてされないものだとも思っていた。


「心配かけたね、ごめん」


「いえ、私たちは別に気にしていません。天職の儀式から帰ってきた主様はそれはもう憔悴していましたから、むしろ安心しました。我々は元気な貴方様を見れたことが嬉しいのです」


そう言ってカズハは笑みを浮かべた。


「まあ、次からは私も連れて行っていただきますけど」


「あはは……善処するよ」


改めて、こうして暖かく迎え入れてくれる彼らの力になりたいと思った。


誰に聞いても知る由もないEx天職【剣聖帝】。


様々な天職の記載された重要な書物も以前読んだことがあるが、それらしき記憶はない。


ただ、その職業にとても酷似しているものは知っている。


【剣聖】と【剣帝】。


発生原理は同じEx天職である【勇者】と【魔王】同様に解明されていないが、必ず勇者と魔王が現れると同時に出てくる天職で、Exであるにも関わらず各2人ずつ現れるらしい。


名前もほとんど混ぜ合わせたようなものだし、無関係ではないと思うが今は調べる術も無い。


「この力はギルド連盟【幻狼マーナガルム】の為に」


「いいえ、主様。貴方自身の為に使うことがこのギルドの為になるのです。好きなようにお使いくださいませ、我々はそれに従うまでですよ。今までも、これからも」


「そんな私用で使った覚えないけどなぁ……」


「ふふ、それで良いのです、ギルドのため、なんて考えずとも貴方はそれに準じて行動しているのですから」


全肯定してくるカズハにどこか照れ臭く笑った僕は今日はもう寝ようと寝台へと乗り込み、カズハへ言った。


「今日の護衛はもう良いよ、自衛手段もあるし。お疲れ様」


そう告げてから、僕は返事を待たず就寝した。


やけに眠かったのは連日の移動の所為か、それとも懐かしい匂いや光景に安堵したからか、定かではないが、一度自身の目標であった商人というものから離れて良かったと思う。


力はついた、自分自身や他の人を守るための確固たる武器もある。


目標は一先ず、世界一のギルドって事で。


過程が多すぎる気もするけど、大きいことをしないと。


だって、僕は世界一の人の最初の弟子なんだから。









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