第10話  ─     幻装     ─






『お? テメェがマスターか』


紅い長髪を腰辺りまで伸ばした影がルイへ対して語り掛ける。

その瞳はギラギラと滾っており、今すぐにでも襲い掛からん勢いだ。


『──ま、とりあえず俺らと語り明かそうぜ? 拳でなァッ゛』


案の定みたとおりだった。

赤髪の影は焔を滾らせた腕でルイへ対して殴りかかる。


「うわ、ちょ。まって」


間一髪その拳を躱すものの纏わせた真っ赤な焔がチリチリと銀髪を焼く。


『ああ~! ずるいずるいッ、マスターと遊ぶのずるいぃ!』


今度は蒼い髪の女の子だ。

地団駄を踏んで羨ましがっているかと思いきや、赤髪の男の影へ向けて水の槍を超高速で飛ばす。


『ちィッ、邪魔すんな、ガキィ! 今は漢同士で拳で語り合ってんだからよォ!!』


超高速で飛来する目にも止まらぬ水の槍を手に灯した炎を巧みに操って炎の帯を造り防ぐ。

のも彼の行動の一つ。

目的は安全にルイと殴り合う為である。


『オラ、いくぞっ! マスタァー!』


『イイ加減にしろよ貴様ら、消滅させるぞ、あァ゛?』


次に出てくるのは黒い髪をオールバックにした影。影と髪は光があたって艶々していた為、髪があると理解できる。


黒い男は常に眉間に皺を寄せ静かに怒っている顔が第一印象だ。

だが、この場を収めて発現してくれていた為少し頼もしかった。


『貴様もだ、マスター。良い様にされていてはそんじょそこらの雑魚にボロ雑巾にされるのがオチだ。故に、もっと励むが良いさ』


(えぇ……僕が悪いのこれ。というかマスターって──)


『あらぁ~、可愛らしい男の子。はじめましてぇ~、うふふ、欲しくなっちゃうわぁ』


怒鳴られるルイの背後から今度は紫のウェーブのかかった波打つ髪をした豊満な女性が抱き着いて耳元に囁く。


「いッ!?」


咄嗟に前へ飛びのくルイ。

バクバクと鳴り響く鼓動を抑えつつ四人を見る。


共通点といえば黒い外見に色の違う髪くらいだろうか。

身長も性格もそれぞれ違うようだ。


「ところで、君たち四人は……」


『いいえ、四人ではありませんよ? 今揃いました、マスター』


背後からルイへと声をかけたのはストレートヘアーの銀髪の女性。

紫色の女性とは正反対のスレンダーな体付きをしている。


ルイが振り向くと銀髪の女性とあと二人が視界に入る。


『ふぇ……だるい~いやだ、ねたい』


一人は緑色の髪をこれでもかという程伸ばし、何かしらの魔法でその髪を布団にし、空中で寝ている女性。

もう一人の橙色の髪の少年は無邪気にルイの周りをかけまわり、背中に飛びついた。


『ねぇねぇ、マスター! 一緒にご飯食べよう! 料理するよッ、お腹空いたんだぁ~』


まるで食べ盛りの子供である。


『後にしなさい。今は我々の事を彼に知っていただかなくてはなりません』


『う~、わかったよぉ。じゃあ、またあとでねっ』


そうして横並びになる7人の影。


男は赤髪、黒髪、橙髪。

女は銀髪、蒼髪、緑髪、紫髪。


彼らのリーダーまとめ役なのか銀髪の女性がルイへと自身たちを紹介するようだ。


『我々は世に言う幻装の人格です。マスターが欲しいと感じてくださった黒い剣。それに宿るのが私たち7人なのです』


銀髪の少女はルイにひざまずく。


『私は人格【傲慢】。名をルシファー』


次はルシファーの次に発言権をもってそうな黒髪の男が跪いた。


『我は【憤怒】の人格。名はサタン、宜しくな』


次は紫髪の豊満な女性。


『わたしの人格はぁ~【色欲】ですぅ。名前は、アスモデウスです~。よろしくお願いしますね、マイマスタ~』


そして最初に拳で語ろうとしてきた赤髪の漢。


『俺様の人格は【強欲】。マモンってんだ。次こそは拳で語り合おうぜッ』


そして割り込んできた蒼髪の少女。


『マスター! あたし、【嫉妬】の人格。名前はレヴィアタン! よろしくねっ』


そして男性陣は最後の橙色の髪の少年。


『ボクは【暴食】。名前はベルゼブブ、よろしく、マスター』


そして空中で寝転がる緑髪の少女。


『んんぅ~もう少し寝たい……あいたッ』


銀髪の女性ルシファーが黒い槍を飛ばす。

頭へ直撃するも外傷はないらしく、その部分を撫でながら緑髪の少女は自らの髪に座った。


『ん……【怠惰】。ベルフェゴール、……よろしく』


「えと、うん。よろしく?──い゛ッ!?」


ルイが返答した瞬間、彼の背中に何とも形容しがたい痛みが走った。


「いぎ……ィ、あ゛ぁぁッ!」


のたうちまわるような痛みでは無かったものの、結構広範囲にいたみが走る。

白い空間に響くもそれを聞く7人の人格は跪いたまま。


「ひぃ……ひぃ…ふぅ、」


『これで、本契約はなりました。マスター。我ら【七罪ノ剣セブン・シンズ】をよろしくお願いいたしますね』


一方的にそう告げられて、彼の意識は暗転した。


 ── 天職【罪蝕者】を会得しました ──


目が覚めると先程まで眺めていた七石の嵌め込まれた握りの剣は地面には突き刺さっておらず、その剣身の突き刺さった跡が残っているのみだった。


洞窟から漏れ出ていた殺気は消え失せ、それを察知したのかフィーリアが入口からルイの元へと歩いてきた。


「本当に、契約しちゃうなんてね。ルイくんもやるじゃないの」


何かあった時の為か、その手には紅槍と銀鎗を顕現させていたフィーリアはそれらを霧散させた後、地に寝転がったルイの髪を撫でた。


『あぁッ、この女、マスターのこと撫でてるっ! ずるいッ』


『なンだと? ほう、マスターを誘惑しようなど、ふざけているな。血祭にあげるか?』


声が聞こえた。


幻装の声は契約者にしか聞こえないとされており、フィーリアにはまるで届かない。


(名前は確か……レヴィアタンとサタンだ)


「師匠、幻装の声ってずっと聞こえるものなんですか?」


「いいえ、好きな様に切り替えられるわ。ずっと聞こえていたら集中できないでしょう? それに私も十二もの幻装と契約してるんだもの。さすがに無理よ」


「……なるほど、」


「ま、それは、帰りながら教えるわ」




 ◇ ◇ ◇




セインテスタ王国の首都アバンテイル。

そこではここ半年前ぐらいから多くの話題が飛び交っていた。


「なぁ~知ってるか? 【勇者】と【魔王】ってさ、あのギルド連盟に入ったらしいぜ」

「あのギルド連盟っていろんなギルドの上位に必ずいるよな」

「俺、学園卒業したら入団試験とか受けてみようかな」

「あのギルド連盟のギルド入ったら間違いなく安泰だよな」


「大商会ギルド・黒鋼アダマント級傭兵ギルド・Sランク冒険者ギルド・<黒>諜報ギルドが揃って参加してんのやばくね?」

「てか、大商会ギルド以外のギルド全部、創設者同じらしいぞ」


巷で噂のギルド連盟。


最初はたった一つの商会ギルドだった。


ある者との出会いがこのギルドの運命を変える。


様々な改革、方針。


やがて生まれたのはギルド創設、連盟発足から2年にしてこの大陸で知らぬ者はよっぽど居ないほどに勢力を拡大させた大ギルド連盟【幻狼マーナガルム】。


それらのメンバーは実力者が揃い踏みだった。


神の威光を宿した剣を用いて闇を斬り裂くとされる世に謳われたEx天職の持ち主【勇者】。

魔法に関しては横に並ぶもの無し。全属性を駆使し敵を完膚なきまでに滅ぼし尽くす世に謳われたEx天職の持ち主【魔王】。

東方の生まれにして世に顔を見せず影にのみ存在する【忍】。

その剣、一閃にして必殺と謳われる【閃剣士】。


そして彼女らに、付いていくに値すると感じさせる程の実力か人間性を持った謎の冒険者。


今日は2年前、何かを成すためにギルドの繁栄を願いながら出ていった彼の帰ってくる日だ。


その日、大ギルド連盟【幻狼マーナガルム】は総出で彼を迎えた。

ここ数年で入った新入りは知らないため、彼を知っている人だけで出迎える。


無論そこには【勇者】と【魔王】の天職を持った者もいた。


そして当たり前なのが赤い炎のような髪をオールバックにしたガルドフ。

その顎には無精髭が生えており微かに年月を感じさせた。


そしてそこに向かうは一人の青年。


「え? こんなところで皆何してるの?────あはは、なぁんて……ただいま、みんな」


アバンテイルの一角。その権力を誇示するように建てられた連盟の施設の入口で多くの人間が迎える中、風で靡き陽で輝く銀髪を携えた金眼の彼──ルイが帰ってきた。





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