第14話 家族と鍛錬の日々
次の日、僕が屋敷の筆頭従者であるアドモンドじい様に朝食の準備が出来たと起こされ目覚めると、寝間着から身なりを整えた水場へと向かった。
「おはよう、ブルメール。今日もとても眠そうだな。はやく早起きに慣れないいけないぞ。公爵家に遣える騎士となるためには、主人よりも早く起きないといけないからな。まぁそのうちなれるさ、子供であるうちは沢山寝て、修行して元気に大きくなるんだぞ!」
洗面台に着くと、そこにはユシャルール兄様が水を出す魔法具を使って顔を洗っていたみたいだった。ユシャルール兄様は蜜柑色の鮮やかな髪の毛に黒目の15歳のイケメンである。歳が9歳も離れた小さい弟である僕をいつも優しく甘やかしてくれる存在だ。
「ユシャルールお兄様おはようございます。お兄様は朝にお強いのですね。うらやましいでふ。あぁうあぁぁぁ。」
僕が欠伸をしながらそう言うとユシャルール兄様は「仕方ないやつだ、ブルメールも早く支度をして父様や母様とクリスと一緒に朝食を食べるぞ、ほらその眠たそうな面をここに置くんだ。」
そう言ってユシャルール兄様は踏み台がないと洗面台にまで届かない僕を抱き上げてくれて、魔力を魔法具に流して、水を出してくれたのだ。
僕が洗い終えるのを見届けた兄様は僕を地面に降ろしてくれた。
「ありがとうございました兄様。おかげで目が覚めましたぁぁ。」
バシャバシャと顔に水を当て完全に目が覚めるように顔を洗ったつもりだったのだが、最後に少し欠伸を漏らしてしまった。
「ふふっ、ほらみんなが待ってる行くぞ、ブルメール」
ユシャルールお兄様は苦笑しながら右手を僕の方に伸ばし、優しく握ってくれた。それから2人でリビングに歩いていった。
リビングには、既に我が家の料理人によって作られたサニーサイドアップ(黄身が半熟になるように焼かれた物)の目玉焼き、こんがりと焼かれたバゲット、ハネムーンサラダに、コーンスープ、そしてウインナーの様なものが食卓に並べられていた。
兄様と屋敷の廊下を歩いているときにも匂ってきていた香ばしい香りが僕の食欲をかき立てていた。
「おはよう。ユシャルール、ブルメール。今日は仲良く2人できたのね、さぁ早く座って。もう朝食の準備は出来ましてよ。ブルメールは今日も眠そうね。早く朝に強くならないとね。」
そう優しく、声をかけてきてくれたオーフロイドお母様は水色がかった白銀の紙に澄んだ青色の目をした美麗な女性だった。前世の記憶を取り戻し始めてからは、前世の母親との違いに思わず息をのんでしまったことを鮮明に覚えている。咄嗟に思わず比べてしまった自分を責め、前世のお母さんに謝罪した。
「お早うございます。父上、母上。ブルメールのやつもその内朝早く起きれるようになると思いますよ。」
「早うございます。ショーフラムお父様、オーフロイドお母様。ユシャルールお兄様の仰る通り、そのうち慣れるようになりますんnnnn。」
「まぁ、よい。早く席に着きなさい、ユシャルール、ブルメール。今日は久しぶりに家族全員揃って頂ける朝食だ。なかなか時間が合わないからな。早速頂くとしようではないか。」
ユシャルール兄様とオーフロイド母様の言葉に対して、勢いよく宣言しようとしたものの、三度欠伸が出そうになったのを必死にかみ殺したことは、みんなにばれてしまい、笑われてしまった。
ショーフロイト父様に着席を促された僕たちは、それぞれ、自分の席に着いた。ちなみに、ショーフロスト父様は僕の朱色の髪よりももっと濃い真紅の髪に朱色の目をした威厳のある風格のダンディな人である。
そりゃあ、こんだけ父と母の容姿が端麗だったら兄様達も僕も美青年、美少年に産まれてくるわけだと1人で納得したことをよく覚えていえる。
「ユシャルール兄上、おはようございます。そしてブルメール、おはよう。朝の挨拶を忘れていたよ。ブルメールはまだ6歳だいっぱい寝るといい、そうしたら兄上やこの僕の身長も抜かす程成長するかもだよ」
席に着くと、挨拶を忘れていたと、左隣に座っていたクリスグレイス兄様に声を掛けられた。クリスグレイス兄様はお母様と同じ様な水色がかった銀髪に黒目のクールな美青年である。歳は14で僕より8個上でユシャルール兄様の二個下である。現在は中央の王都にある魔法学院に最終学年として通っている。
「おはようございます。クリスグレイスお兄様。いつかお兄様ふたり、それから、お父様も抜かしてみせます!」
今度は欠伸をすることなく言い切れた僕に、お母様とお兄様達は微笑んでくれた。
「ブルメールもその内魔力に目覚めるはずだ、そうなったら本格的に魔術と剣術、それから体術の鍛錬を始めることになるぞ。我が家はル・ベリエ領の公爵家に代々遣える騎士の家系なのだからな。いつまでも甘やかしておけんのだ。早く早起きくらいできるようになりなさい。」
お父様だけは当主として、そして公爵家の護衛騎士として、それから騎士団の団長として、お母様やお兄様達の様にいつでも甘やかしてくれそうな存在ではない。いつもは優しく穏やかな人だが、責任感が強く時には厳しく躾られるときもあるのだ。
「はい、かしこまりました。ショーフラムお父様。」
「うむ。では、朝食を頂くとしようか。」
「「「「「頂戴します!」」」」」
そうみんなで言葉にした後、全員で言葉を交わしながら朝食を食べていった。
今日の朝食もいつもに増しておいしい。特に、コーンスープとバゲットは前世であれば、バゲットを直接スープの中に浸して食べたい位だが、小さい頃から行儀、言葉遣い、作法については厳しく指導されていたので、スプーンとナイフ、フォークの扱いに関しては完璧である。前世の僕からしたら考えられないくらいに姿勢が良いのである。言葉遣いに関しても、「頂きます」なんて使ってしまったら、お父様やお母様からこっぴどく怒られてしまうのである。起これれてからこの方食事前には必ず「頂戴します」と有用にしている。
今日の朝食を食べていると前世の思い出がよぎってきたのであった。目玉焼きやハネムーンサラダに関して、「サニーサイドアップやターンオーバーなどの焼き方がある卵料理は何でしょう?」「レタスだけ使われたサラダのことをなんと言うでしょう。」といったクイズを拓真と英ちゃんと一緒にベタ問対策をしていた時に何度もその言葉を耳にしていたからである。
「なつかしいなぁ、また2人とクイズがしたい。」そう1人で考え込んでいると、
「どうしたのです、ブルメール手が止まっていますよ。最近そうやって、悩んでいるような顔をすることが多い気がしますわ。まだ子供なのに難しく考えすぎではなくって。」
食事が止まっていた僕を見かねてオーフロイドお母様がどうしましたのと問いかけてきたのだ。確かに、6歳の子供はこんな風に思い悩むことなんて無いのだろう。しまった。僕が変な子供だと思われてしまった。これからは気をつけないと、家族の皆の前では子供らしく装わないといけないと感じた。
「なんでもありませんお母様、このお肉が包まれた物は何だろうと考えていました。」
「それは鶏肉を加工して、羊の腸に詰めたウインナーよ。そういえばブルメールには初めてそのまま出したかしらね。美味しいわよ、食べてごらんなさい。」
そう言われて、ナイフとフォークで一口大にカットした僕は異世界で初めてのウインナーを食すことになった。
噛んだ瞬間に鶏肉の旨味と肉汁がプリっと音のした腸の皮の中から飛びだしてきた。日本で食べられる一般的なウインナーよりも油濃く、味と香りが強いが、これはこれでとても美味しいもので、いつの間にかフォークを持つ手が止まらなくなっていった。
先程とは打って変わって食事を進める僕に皆の視線が集まっていた。
「ブルメール、ウインナーが美味しいのは分かるがそう急いで食べてしまえば喉に詰まらせてしまうぞ、それにウインナーをそのペースで食べていけば胸やけをするぞ、そのへんにしておくんだ。いいね。」
そう優しく、ユシャルールお兄様が忠告をしてくれたので僕の左手は動きを止めた。
「ブルメールは変わったやつだな、いきなり物思いに耽たと思いきやウインナーを勢いよく食べ出すし面白い子だな。」
ユシャルールお兄様に続いて、クリスグレイスお兄様までもが、僕の行動に優しく微笑みながら変なやつだと言った。
「申し訳ありません、ユシャルールお兄様、クリスグレイスお兄様。気分を害してしまいましたか?以後気をつけます、、、。」
やばい、完全に変な子だと思われている。なんとか普通の6歳の子供らしくならなくてはっ、、。子供らしく。子供らしく...。子どもらしく...。こど...。まずい、何年も子供をしていなかったせいで子供らしさなんて全く分からない。実年齢と精神年齢が11歳も離れているので子供っぽく振る舞うことが出来なかったのだ。
「はぁ、またそうして、難しい顔をしていますわよ、ブルメール。とにかく、早く食べ終えなさい。」
「はい、お母様。」
僕は、転生したことが家族にばれないようにする為にはどう接していけばいいのか分からなく成りながらも、取りあえず、この場を乗り切るためにポーカーフェイスをしながら食事を終えた。
それから、食後の談笑タイムでは、ユシャルールお兄様とショーフラムお父様の公爵家の護衛のお仕事についてのお話やリュヌレーヌ姫についてのお話、クリスグレイスお兄様の魔法学院についてのお話など、興味深いお話を沢山聞いたあと、僕の話題になってしまった。
「ブルメール、そういえばアドモンドから聞いたのだけれど、昨日屋敷中を物色してまわっていたらしいわね、何をしていたのかしら。聞かせてちょうだい。」
その刹那背中にぞわっと震えが生じたが、できるだけ驚く素振りをみせないようにして、お母様の追求を回避するための言い訳を必死に考えた。
「屋敷を探検したくなったのですお母様。物も壊していませんし、危ない事もしてません。ですから許して下さい。ごめんなさい。」
子供らしい、言い訳で乗り切ろうと好奇心旺盛な探検という単語を使ってみたのだが、勘が鋭いお母様は納得してくれなかったのである。
「そう、確かに何も壊していないみたいだけれど、武器も入っている物置や倉庫に1人で入ってはいけませんよ、もしものことが起こってしまっては大変ですもの、いいわね、1人で物置に入ることは禁止します。貴方からも言って差し上げて。」
「ブルメール、屋敷の探検をするのは構わないが、アドモンドや他の従者に必ずついてもらいなさい。それから、そんなに武器に興味があるのなら、今日から本格的に剣術の稽古を始めるか?騎士団本部に我と共に行き、訓練所で騎士達の鍛錬の混ざるといいぞ。はじめは、基礎体力と筋力をつける為の訓練、木刀を用いた組み手などをするといい。」
お母様に諭されたお父様は僕に騎士の訓練に参加するのはどうかと提案してきたのである。正直、銃を使ってみたいという欲望で屋敷を探し回っていただけに、剣や槍で戦う事には余り興味がそそられなかったのである。一応内面は高校生男子であるので、ファンタジー世界に興味はあるし、勇者の剣や賢者の杖などゲームの中に登場する武器に全く興味が無いと言えば嘘になる。しかし、僕は基本的に暴力反対で喧嘩は嫌いだし、他人との殴り合いなど真っ平ごめんな気弱な男子であった。そんな僕が剣や槍などの他人の事を傷つけることが出来る物を手にすることが単純に怖かったのである。
しかし、我が家は騎士の家系でお父様とお兄様達は騎士であったり騎士になるための訓練を行っている。僕がこの家を継ぐことになることはないであろうが、僕が騎士にならないという選択肢は端から存在し無いのであった。
「誰かと闘うのは嫌だなぁ...。」と心の中に本音を仕舞い込み、僕は「是非訓練に参加させて下さい。ショーフラムお父様。」とだけ返事をした。
「うむ。」
「鍛錬に励むのよブルメール」
「無理はするなよ。」
「いきなり、騎士団の訓練は過酷じゃないか、、、。」
ショーフラムお父様、オーフロイドお母様、ユシャルールお兄様、クリスフロイドお兄様からそれぞれ、返事がかえってきたところで、食後の談笑タイムの幕は閉じた。
そうして、朝食後、お父様とユシャルールお兄様と一緒にル・ベリエ領の騎士団本部へと、クリスグレイスお兄様は王都にある魔法学院へと向かっていった。
この世界の貴族の主な移動手段は馬車である。度々我が家にも、他の貴族令嬢や伯爵、男爵の御方が馬車でやってくるのを知っていたので、今日も、馬車で移動するのかと思いきや、公の場では、正式に馬車で移動するらしいのだが、日常の移動ではそれぞれが自分の魔力で作った飛行獣を使って移動するらしい。ショーフラムお父様は炎属性の為、燃え上がる炎の翼が生えた虎の様な飛行獣を一瞬で創り出し飛び乗った。対して、ユシャルールお兄様はお父様と同じく炎属性であるため、同じく燃えがる炎の鷹の様な飛行獣を創り出し飛び乗った。そして、僕を優しく抱き上げてくれ、お兄様の飛行獣に乗せてくれた。ちなみに、クリスグレイスお兄様は氷属性であるため、凍てつく鷲の様な飛行獣を創り出し、ではと一言残して、魔法学院へと向かっていった。
「では行くぞ、ブルメールはユシャメールの飛行獣から落ちないようにしなさい。ユシャメール決してブルメールを離すのではないぞ!」
「「はい、お父様。」」
そうして、お兄様の飛行獣で移動すること約30分程でル・ベリエ領の公爵家の宮殿に隣接してある騎士団本部にへと辿りついたのであった。
そこは東京ドーム何個分だろうっていうほどの広大な土地に訓練場と騎士寮、本部棟などがあり、約千人の騎士が所属し、領内の警備や治安維持、護衛騎士などとして、勤務をしている。
騎士団長の息子として、つれて行かれた僕はそんな騎士の方々から好気的な眼差しを向けられとても恥ずかしかった。
「では、始めるぞブルメール其方は騎士の訓練に混じることは不可能であるから、今日から我か其方の兄のユシャルールに訓練の監督をすることにする。今日は基礎体力をつける為に、本部を5周してもらう、それから、腕立て伏せ、背筋、腹筋、スクワットを100回ずつ行い、木刀の素振りを1000回やってもらおうか。これが一頻り出来るようになったら実践形式の組み手の訓練をするとしよう。」
まじ、やばいショーフラムお父様のスパルタ過ぎてるよ...。クイズ研究部の僕になんて運動量をさせようとしているんだと思いながら「はい、やります。」と渋々返事すると、
「どうした、ブルメール怖じ気づいているのか。何事も初めが肝心だぞ。端から諦めてどうする。そんな調子では公爵家の護衛など務まらないぞ。さぁやってみよ。まずは本部5周するぞ」
お父様に尻をたたかれながら、重い足を動かしランニングを開始した。
「頑張れ!ブルメール君」
「その調子だよブルメール君」
「凄いねブルメール君」
「偉いねブルメー君」
広大な土地の本部を騎士団であるお父様と一緒に走るだけですれ違う度に騎士の方々に挨拶と激励の言葉を次々と掛けられる状況がとても恥ずかしすぎて、死にそうだった。
走り出した瞬間は絶対にこの土地を5周もするなんて絶対にできないと思っていた。
しかし、前世のクイズだけしていた体力よりも、今の6歳の体力の方が多かったのである。転生して生まれ変わった僕は騎士の家系の遺伝子が色濃く受け継がれている為、運動神経、基礎体力が雲泥の差であった。
そうして、無我夢中でお父様の背中について行きながらなんとか、本部を5周する事ができたのだが、損の時点でかなりの体力を消耗しており、次の筋力強化の訓練ではスクワットをしているときに脚に乳酸が溜まっていたのか途中で力尽きてしまった。
「今日のところはここまでか、頑張ったなブルメール。また明日も頑張ろうな!」
そう訓練前とは打って違いショーフラムお父様が優しく声を掛けてくれた。そのことが凄く嬉しくて僕は力の入らなくなった脚を奮い立たせてもう一度立ち上がろうとした。
ところが、一度立ち上がれたものの直ぐさま崩れ落ちそうになってしまった。その瞬間にユシャルールお兄様が優しく支えてくれて「もう無理をするなブルメール、今日はおしまいだ。お疲れ様。」と笑顔で声を掛けてくれた。
こうして、僕は騎士として望まない第一歩を踏み出していった。
それから、1ヶ月後のある日いつもの様に騎士団本部でお父様とお兄様と鍛錬を続けていた。このころになると、お父様に当初提示された練習メニューを殆ど毎日クリアすることが出来るほど体力、筋力共に成長し、木刀を使った実践形式の練習が追加されていった。とはいっても、殆どは仁王立ちしているお父様かお兄様に向かって僕が突っ込んでいくだけだが、僕の一太刀一太刀すべてが軽くいなされるのであった。それもそのはず、体格、筋力、腕の長さが全然異なるのである。全く歯が立たないというのはこのことなんだなぁと理解していた。
「もう一度打ち込んで来いブルメール。素振りを思い出せ、しっかりと型に当てはめて剣を振るいなさい。無駄な動きが多いぞ。それ」
「痛っ。」
鍛錬になると容赦の無いお父様にしごかれながら僕は一所懸命に木刀を振るうことをやめなかった。
組み手の訓練も始まり、少しずつ剣術が身に染みこんできたある訓練中のことだった。突然全身がまるで発熱しているかのように苦しくなっていき視界が歪んでいくのを感じた。自分の身に一体何が起こっているのか分からず、そのまま僕は気を失いその場に倒れていった。
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