第13話 異なる世界の常識
フィルフィラー神の御光によって異世界へと運命を紡がれた僕の新たなる魂の寄る辺となったのは小さな嬰児(みどりご)であった。正確には、この嬰児が生まれた時すでに僕の魂はこの嬰児の魂と同化し完全に混じり合い一つの魂となったのである。
フィルフィラー神によって新たな生命として僕の魂が紡がれた後、生まれたばかりの幼子の脳の成長速度に応じて、つまり自我の芽生えと精神的成長と共に少しずつ美海新としての記憶が浮かび上がってきたのである。僕が前世の記憶を取り戻し始めたのは5歳を過ぎた頃だった。
僕のこの世界での名はブルメール。髪の毛は群青色で瞳は燃える様な朱色で顔は前世とは似ても似つかない程美少年であった。父はショーフラム、母はオーフロイド。エースアナ王国にある12の領地の内の一つであるル・ベリエ領に代々領家に仕える騎士を輩出してきた名家の三男としてこの世に誕生した。現在6歳だ。前世の記憶は7割ほど思い出したとところだろうか。
エースアナ王国では、国王が自分の子供達、第1王子から第7王子、第1王女から第5王女まで12人にそれぞれ領地を与え運営させている。そして、領地の繁栄や国王への貢献などによって次期国王が選定されることになっているらしい。
しかし、それぞれに領地を与えたといっても、第一子の第1王女は24歳なのに対して、僕の住む地の領主様は第5王女リュヌレーヌ様で僕と同じ6歳である。その為、代々ル・ベリエ領を統治してきた公爵家がリュヌレーヌ王女様の統治を支えているらしい。
昔日本で幼い推古天皇の政治を支える為に聖徳太子がなった摂政のようなものらしい。そう考えれば、すぐに納得することができた。少しずつ現状を理解し始めたところである一つの事実に気付いてしまった。
「つまり、僕の生家はル・ベリエ領の公爵家に代々仕える騎士を輩出してきた名家で、現在はこの土地を第5王女リュヌレーヌ王女が納めているということは...僕がその王女様に仕える騎士になる可能性があるってこと?」
それってヤバくない?さすがにそこまで身分が高い貴族の家系に生まれるとは微塵も想像していなかったし、ましてや同じ齢の王女がいてその子の護衛騎士になるかも知れないなんて考えもしなかった。
前世の日本なんて殆どが平民で身分制度なんてものはなかった。天皇様はいたけれど国民の象徴だったので、自分と身分が違う相手となど関わることがなかった。たいていの日本人が平民で平民同士しか関わることがないため、身分を感じることは一切なかった。それが当たり前だったのである。その常識がこの世界では通用しないことが分かって僕はこの世界で生きていけるのかととても不安になった。
自我が芽生えたばかりの僕が前世とは常識が完全に異なるカルチャーショックに驚いたことは言うまでも無かった。
他にも常識が異なる点がいくつもあった。まず時代が異なっていた。文明があまり進んでいないのだ。電気も機械も無いなんていったい西暦何年くらいだろうか。少なくとも産業革命が起こる以前であることは間違いないのだから18世紀半ばより前の文明になる。
嗚呼こんな時に世界史に強い英ちゃんがいたらな...少なくとも年代くらいはすぐに割り出してくれるだろうになと世界史を選択しなかった高2の僕を責めていた。
「そうだ、鉄砲の有無を確認してみよう!」
なんとなく建物の雰囲気や植生や気候からヨーロッパに似ているなと感じていた僕は、日本の種子島に1543年種子島に伝来した鉄砲の有無を調べる事にした。
「騎士の家ならあるはずなんだよ鉄砲!さあさあ出てこいピストル、ショットガン、スナイパーライフル。なんでも出てこい。銃剣なんてのも格好いいから使ってみたいなぁ。」
日本では所持する事が法律で禁止されていた銃への憧れを抱き家中を探し回った。屋根裏部屋、地下倉庫、物置、どこを探して見ても銃を見つけ出す事はできなかった。
「すこし触って見たかっただけなのに、、、ついでに一発くらい撃って見たかったのに、、、」
肩を落としながら僕は自分の部屋に戻った。しかし、銃がないってことは中世ヨーロッパっていう所かな。取りあえず今はそういうことにしておこう。部屋にもどった僕は今日の調査結果と考察を机の上にある紙に書き出し、今までにも前世の記憶が出てきた時から少しずつ書き溜めてきた数枚の紙と一緒に引き出しの中にしまった。
今日までの調査結果を簡単に纏めると、電気・ガス・下水道などのインフラ設備は存在しない、風土・気候・建築物から中世ヨーロッパに似ている。
そして、前の世界と大きく異なる点が1つあった。それは魔術の有無だ。それはそうだ。今までの調査から中世ヨーロッパのどこかの国かなと思っていたが、時代を遡った訳ではない。完全なる別の世界、異世界へと転生したのだから、前の世界にはないものがあってもおかしくはないのである。
この世界の魔術は6歳~7歳くらい。つまり小学生に入学する頃からその力が芽生えるらしい。平民でも魔術を使う事ができるらしいが、それは魔法具のランプに魔力を流し灯りを点したり、魔法具の湯沸かし器に魔力を流しお風呂を沸かしたりといった、そういった日常生活において役立つ魔法具に魔力を注ぎ使用する程度らしい。
それに対して、平民と比べ膨大な魔力を持つ貴族は日常生活の魔法具は勿論のこと、身体に所有する魔力を魔法として顕現させ攻撃や防御や治癒など様々な有象無象を引き起こせる力を持っている。
そして、そんな強大な力を持つ貴族達が魔力の芽生えた後、8歳頃から魔力の正しい使い方を教わる為に全領地12の領地から8歳~14歳までの子供達が魔法学院へと脚を運び魔力の鍛錬及び、知識を身につけることになるらしい。
「僕もはやく魔法学院に通いたいな、銃はなかったけど魔法をどんどんぶっ放したい!」
そう強く意気込み僕は調査結果を眺めながらにやにやと頬を緩めながら1人で笑っていた。
「僕の魔法の属性は何だろうか、炎がいいかな、いや雷もいいな、氷魔法も使ってみたいな、いっそのこと全部の属性の魔法を使ってみたいな」
さらに妄想を膨らませた僕は寝台へと潜り込み横になって今日の活動を終えた。
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