第11話 異世界への旅路
全国大会の決勝の舞台であるイギリス行きの便に搭乗する為に僕達3人は山之内先生と一緒に始発の新幹線で向かう為に最寄り駅に集合していた。
「おはよう御座います先生。先生一緒にイギリスに行けることが出来嬉しいです。引率よろしくお願い致します。」
「おはようございます、美海君。君達の活躍を期待していますよ。勿論優勝目指して頑張って欲しいですけど、結果が全てではないですから、高校生活最後の競技クイズを楽しんで下さいね。最高の思い出になるといいですね。」
「はい、最高の1問、1秒までクイズを楽しみたいと思います。3人と一緒に最高の思い出を作ります。」
そんな会話をしていたら英ちゃんがスーツケースを引き摺ってやってきた。
「おはようございます先生、新。イギリスが楽しみですね。勿論クイズも楽しみですけど、、、」
英ちゃんはすっかり旅行気分で大きなスーツケースを持ってきていた。このスーツケースの中に沢山お土産を入れて帰るのだろうか。滞在日数3日しか無いし、2日程はクイズに費やすのにそんなにも自由時間は無いと思うけど、、、まぁいっか、旅行気分なのは僕も同じだ。因みに、僕も両親からはお土産代として2万円を受け取った。親戚分も買って来なさいということだった。
そうこうしているうちに拓真も英ちゃん程では無いが大きめのスーツケースを持ってやってきた。
「おはようございます先生、新、英ちゃん。ちょっと荷物大きかったかなと思ったけど、俺より大きな人がいて安心したよ。」
拓真が揶揄うに英ちゃんに言うと、英ちゃんが少し睨みながら拓真に反論した。
「拓真だって男子にしては十分大きな荷物しているじゃない。女子はどうしても荷物が大きくなってしまうのよ。従って、拓真の方が大袈裟だよ。」
「もういいじゃん、拓真、英ちゃん。そろそろ新幹線の出発時間が迫って来ているよ。忘れ物は無いよな!じゃあ行くぞ!」
僕が2人の仲裁をしながら出発を促すと2人は「あぁ」「そうね」と仕方なく口喧嘩をやめた。
「行きますよ、皆さん。時間です。」
「はい。先生」
先生の引率で僕達は新幹線に乗り込んだ。そして、新幹線で1時間半程で東京駅に到着した。さらに電車に乗り変えて僕達は羽田空港までやって来ていた。
集合時間まではまだ時間があるので軽食を購入し、搭乗口の待機場でおにぎりとサンドイッチを食べながら僕達はクイズ研究部の皆んなから受け取ったミサンガと応援の言葉がぎっしりと書き記された色紙を眺めながら「皆んなの応援が無駄にならないように、良い結果を持って帰ろう!」と意気込んでいた。
「そろそろ搭乗開始時刻となります。」と大会委員の方の声が聞こえたので僕達は今回決勝の舞台で争う他の2チームと大会関係者が集まっているところに向かった。
「これから搭乗致しますので、大会委員の指示に従って明優高校から順番に搭乗して下さい。」
「分かりました。」と返事した後、明優高校から飛行機に搭乗していく。僕達も荷物を纏め、彼らの後を追うように搭乗した。
「初めての海外楽しみだな、僕の英語の実力で会話がきちんと成立するのかな?」
隣座った拓真に話しかけると、拓真も国際線に乗って海外に行くのは初めてらしく少し楽しみであり、緊張しているらしい様子で口を開いた。
「そうだな、初めての海外に不安な気持ちもあるけど、今は楽しみって気持ちが大きいな。英語は日常会話ができればいいんじゃない?そんなに現地の人と話す機会はないと思うぞ、俺達はクイズしに来たんだろ?英会話何てお土産屋さんとかでちょっとすればいいんだよ。」
「そっか、せっかく英単語帳と簡単な日常会話集を持って来たのに出番は無しか…」
「そう気を落とすなって、いつ話すことになるかも知れないだろ。備えあれば憂いなしだ。積極的に話しかければいいじゃん!それよりも、クイズ練習しようぜ、声抑えめにしてさ。英ちゃんも一緒にどう?」
通路を挟んで一つ隣にいた英ちゃんにも練習に誘って、クイズ練習を3人でしていた。この時間がずっと続けばいいのにな…。皆んなとクイズしているこの時間がもう残り少ない事を理解している僕はこの飛行機が着いてしまうのが楽しみなような、少し淋しいような複雑な気持ちになっていた。
3人でクイズを出し合っているうちに、夕食の時間になっていた。主菜が魚料理か肉料理かどちらがいいかと尋ねられた僕は迷わず肉の方でと答えた。
「拓真も肉にしたんだぁ、英ちゃんは魚にしたんだね。そっちの御飯も美味しいそうだね。じゃあ食べようか、頂きます。」
初めての機内食に舌鼓を打ちながら、僕達は夕食を楽しんだ。機内食は地上と機内では気圧が異なり、人間の舌には塩分の感知が鈍くなる為、少し塩辛く味付けされているらしい。
「そういえば、日本とイギリスの時差は9時間で、この飛行機に乗っているのが12時間位だから、向こうに着くのは何時位だろうね。」
「日本出たのが13時だったから。日本とイギリスの時差はサマータイムの今は8時間だから、朝の5時だろ?そこから12時間足せば17時に着くんじゃない?時差ボケが怖いな。生活リズム確実に崩れるな。」
拓真が苦笑しながらそういった。時差が8時間も有れば、逆転するのは仕方ないのかもしれない。夕食を終えた僕達はもうすぐ就寝の時間だが向こうではまだお昼頃である。
夕食後少してから御手洗いを済ませると、機内が少し暗くされた。僕はアイマスクと耳栓を前の座席紐に挟まれているのを取り出し、身に付けた。それから僕は就寝の体勢に入り瞼を閉じた。
数時間後、機内の電燈が優しくひかり、朝食が配られ始めた。僕は隣で寝ている拓真を起こした。
「おはよう拓真。朝御飯が運ばれて来てるよ。」
「おはよう新。もうそんな時間か、いよいよイギリスか。なんだか興奮してきた。」
朝御飯はパンとソーセージとスクランブルエッグに林檎ジュースが付いていた。朝御飯も美味しく頂いて、御手洗いに向かった。
御手洗いの扉を閉め、便座に座った瞬間。ドンッ!と大きな音と共に機体に衝撃が走った。
「痛ったぁ…」
頭を打って便座から放り投げ出された僕は、何が起こったのかとパニックに陥っていた。
「何が起こったんだろ。いきなりドンッて音が聞こえたけど、何かが機体にぶつかったのかな?」
そう呟いた瞬間、火が!火が起こっている!と叫ぶ声が聞こえてきた。えっっ、、もしかしてバードストライク?エンジンに何かトラブルがあったのかな?ちょっと待って御手洗いしている場合じゃないよね、席に戻らないとまずい。
そう思った僕はトイレから出ようとした瞬間、期待が大きく傾き、きゃああ!わぁああ!落ちるー!と言う悲鳴に機内が包まれた。僕はトイレの壁に体を叩きつけられた痛みに耐えながらなんとか席に戻ろうと頑張ってみるが、期待の傾きによって外に出る事ができない。恐怖でパニックに陥っていた。
「誰か!誰か!助けて下さい!誰か!」
僕は必死に叫んだ。しかし、機内の乗客はみなシートベルトを外せない状況だし、誰も他人を助ける余裕なんてなかった…。
「新!どこにいるんだ。俺は動けそうにない、どっかに必死に捕まるんだ!絶対に手を離すなよ!」
そう拓真の声が聞こえた瞬間。さらにドンッと大きな音が鳴り、機体の傾きが直角ほどに鳴り、トイレの壁に全身を強打した僕は意識が朦朧としていった。
そんな、後少しだったのに夢の舞台…決勝戦やりたかったな…拓真と英ちゃんと3人でまだクイズがしたかったな。ただそれだけなのに…拓真、、、英ちゃん、、先生、
そこで僕の意識は完全に途切れた。
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