第10話 全国大会

 中部地区大会から二週間後の部活中、僕達は後輩チームと一緒に最後の追い込みを図っていた。明日の土曜日が全国大会予選だ。全国大会の会場は東京で、決勝に駒を進めることができると決勝のステージは海外で行われる。今年の舞台はイギリスのリヴァプールに決定している。ビートルズの出身地である。料理はあまり美味しくないと言われているが初の海外に行けるかも知れないということで、5年パスポートも申請済みである。頭の中でビートルズが流れるのを抑えられないまま本日の練習を終えた。


「新少し浮かれ気味じゃないか?パスポートも申請したんだろ?行く気満々なのはいい事だが行けない場合はどうするんだ。パスポート安くはないだろう?」


 拓真が帰り際、少し呆れ気味にそう言ってきた。


「両親に絶対に海外に行くからパスポート代出してくれって頼み込んだから大丈夫だよ。両親も僕の本気を理解していると思うし…。もし敗退してしまったら土下座をして謝るよ。だから拓真が気にすることはないよ。」


「そうか、でもパスポート代絶対に無駄にはならねよ、俺らならな。」


「そうだな、此処まできたからには絶対にイギリスに行って見せるし優勝してみせる。拓真と英ちゃんとなら、なんだか成し遂げらそうだね。そんな気がするよ。」


「頑張ろうぜ。俺らの実力を全国の奴らに知らしめるんだ。」


 そう言って拓真が強く握り締めた拳を僕の胸の前まで伸ばしてきた。ふと顔を見上げると、拓真が力強く笑ってみせた。胸の中に熱い想いが込み上げてくるのがわかる。拓真の優しさを改めて実感した。堪らないくらい嬉しかった。嗚呼、友達っていいな。


 僕も力強く笑ってみせた。

 

 力強く手を握り締めた。


 拓真の拳に自分の拳を突き合わせ、頷いた。2人で誓いあっていると、横にいた英ちゃんが「仲間外れにしないでよ。」といいながら2人の拳に自分の拳を合わせてきた。「ごめん、ごめん。」と2人で英ちゃんに謝りながら3人で「絶対に決勝に行こうね」と約束をした。僕は2人と分かれて帰路についた。




 そして、翌朝。始発の新幹線に乗って僕達は東京に向かった。東京駅からまた電車に乗り、会場の最寄り駅までやってきた。本日は山之内先生も顧問として、引率する為に僕達に同行してくれている。


「いよいよ、この日がやって来ましたね。君達の努力が報われる日がやって来ましたね。君達なら大丈夫ですよ、私は君達のことを1番近いところで見守ってきましたから。自分達の実力を発揮することにだけ集中すればいいのです。何よりもまず、クイズを楽しむことです。」


 先生が僕達をいつも優しく見守ってきて下さったことは僕達が一番よく分かっている。どれ程慌しい日でも必ず部活が終わる時間迄には部室に来てご指導して下さっていた。いつも優しい御言葉に励まされてきたのである。今日は先生に恩返しする日だと僕は強く感じた。


「先生、本日まで御指導有難うございました。必ず先生もイギリスに連れて行きます。最後まで見守って頂けると嬉しいです。後輩達の良き目標になれるよう、後輩達が誇れる先輩になれるように僕達は全力を尽くします!」


 そう告げると先生はいつも通りの優しい笑顔で「えぇ頑張って下さいね。」と僕達を安心させるに笑いながらそう言って下さった。嗚呼、落ち着く…。先生の優しい笑顔は実家の様な安心感があると思う。




「只今より高校生クイズ選手権、全国大会予選の受付を開始致します。地区大会予選通過チームはこちらより受付をお願い致します。」


 大会委員の方の案内の声が会場内に響いた。全国大会からはテレビ局で放送される為、司会にはアナウンサーさんが務め、コメンテーターには芸能人の方々がバックステージにいらっしゃった。昨年よりも芸能人の方が多く、知っている方が沢山いたので興奮していた。全国放送されるので家族にも見られるからか、他のチームも皆緊張していた。その中に明優高校の顔触れもいた。

 昨年の僕達は1stステージで脱落してしまった為殆ど放送される事なく終わってしまったが、今年は僕達の活躍する姿を家族に多く見せれる様に頑張ろうと意気込んでいた。2回目の舞台であるが緊張を拭えないまま収録が始まり、大会の説明が行われた。



 今年の高校生クイズ選手権全国大会は全部で3rdステージまであり、知力・体力・チームワークをクイズを通して競い合い、全国から集まった20チームから決勝の舞台に立てるのは3チームだけである。

 説明が終わると、会場に更なる緊張感が広がり他のチームの顔が硬っていくのがわかった。いよいよ、大会が始まると思うと全身に余計な力が入ってしまったが拓真と英ちゃんとお互いに声を掛け合い落ち着きをとり戻していった。




 1stステージでは○✖️クイズなどのバラエティっぽいクイズが数種類行われ、正解数が多い上位12チームのみが勝ち上がる。僕達は今までの結束力で着実に正解数を重ねていき、無事に1stステージを勝ち抜けることができた。後輩達も何とか勝ち上がってきたようだ。明優高校の奴らも何食わぬ顔で勝ち上がってきていた。



 2ndステージでは全12チームで全25問のクイズに挑戦し、正解数が多い上位6チームが3rdステージに勝ち上がるというものだった。難読漢字や歴史、地理、数学、物理など様々なジャンルの難問が出題され、全てのチームが一斉に制限時間内に回答を記入して世界数を競い合っていった。


「問題! 雲雀 木兎 鸛 これらの漢字全て読め」


「正解はこちら! ひばり みみずく こうのとり」


「問題! 糎 粍 粁 これらの漢字全て読め」


「正解はこちら! センチメートル ミリメートル キロメートル」


「問題! 日本で初めてお札のデザインとして描かれた人物は誰?」


「正解は 神功皇后」


「問題! 世界一美しい海岸として1997年にユネスコ世界文化遺産として登録されたこちらの海岸の名称を答えよ」


「正解は アマルティ海岸」


「問題! 0.1mmの紙を何回折ると地球から月まで(38万km)届かせことが出来るでしょう?」


「正解は 0.1mm=1.0✖️10^-6 km ✖️ 2^X > 380,000 km X=42回」



 などの問題が出題された。拓真と英ちゃんと、「この問題は俺が解く。」「私この問題分かるわ」「この答えであってると思う?」「皆んなで考えない?」「僕、この答え自信があるよ。」「まかせた。信じてるよ」などと相談しながら、時には励まし合いながら、誤答に恐れずに着実に回答していった。

 気付いたら次が最終問題だった。僕達の正解数は13問で4位につけていて明優高校は3位につけていて、正解数が一問負けていた。


「2ndステージ最後の問題はこちら! 問題! 画家ピカソの本名を答えよ」


「正解は パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・チプリアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・ピカソ」



 僕達は何とか最終問題を正解し、全部で14問のクイズに正解した。明優高校は最後問題を正解することは出来ずに、お互いに3位タイで3rdステージ進出した。後輩達のチームは惜しくも2ndステージ敗退となってしまった。



「何とか、3rdステージに進めたな。最後迄きを抜かずに頑張るぞ!新、英ちゃん」


 休憩中に拓真が口を開いた。


「今の所はいい感じだけど油断はせずにいきましょう。このままいつもの調子で行くわよ!」


「あぁ、絶対に3位以内に入ろう。皆んなも応援してくれているし、皆んなの期待にも答えなきゃね。」


 僕達の気持ちを一つにしていた時、後輩達が悔しく涙を流しながら「頑張って下さい!先輩達なら大丈夫です。僕達は信じています。」と言葉をかけてくれた。そこに先生も応援にきて下さって「後輩達に君達先輩の逞しい背中を見せて上げて下さい。決勝に進める事を心から応援しています。君達なら大丈夫です。自分達の力を信じて、最後まで仲間を信じて、最後の一問まで気を抜かずに頑張って下さいね。」


「はいっ!頑張ります!」


 3人の言葉が重なった時、緊張など吹き飛び自信が漲ってきた。3人で円陣を組んだ後、「行って来ます!」と皆んなに声をかけて、3rdステージに向かっていった。




 3rdステージは全て早押し問題で、様々なジャンルから難問が出題され全20問のうち正解数が多い上位3チームが決勝に進出となる。司会のアナウンサーからの説明が終わり、そして3rdステージに進出した6チームが全て回答者席に着いた。今まで以上に緊張感が会場内に広がっていくのを肌で感じた。緊張をほぐす様にアナウンサーの方、芸能人の方々から言葉を掛けて下さって少しその場が和んでいった。




「さぁ、最終3rdステージの開幕です。泣いても笑っても決勝に進めるのは3チームのみ!どのチームが勝ち上がるのかっ!勝負から目が離せません。」




「1問目 問題! 毳毳しい 躁しい 厳しい これらの送り仮名がしいの漢字全て読め」


「はい、開聖高校」


「けばけばしい あわただしい いかめしい」


「正解! 一問目は開聖高校が先取したぁ!」


 難読漢字が好きで勉強していた僕は一問目で正解すことが出来た。応援席で先生と後輩達が喜んでいるのを確認する事ができた。僕は拓真と英ちゃんとハイタッチした後、直ぐに次の問題に備えた。



「2問目 問題! これら3つの星座の名称を答えよ」


「はい、開聖高校」


「蛇座 うみへび座 へびつかい座」


「正解! 開聖高校またしても得点を獲得!一気にリードを広げた!」


 天体が好きな拓真が見事に全ての星座を答え、またしても正解数を重ねることができた。しかし、順調に思えた滑り出しもそう長く続くことはなく、続いての物理の問題、数学の問題は他のチームに正解されてしまい、その後も、ボタンの押し負けや誤答などにより、正解数を重ねることができないまま半数の10問が終了してしまった。僕達が足踏みしてい間に明優高校は3問獲得し首位に躍り出ていた。他のチームにも2問しているチームが1チームあり、僕達は2位タイとなっていた。正直まだ何が起こるのか分からない。このまま正解出来ずに他のチームに正解を譲っていては決勝に進めない。


 しかし、そんな暗い空気を変えてくれたのは拓真と英ちゃんだった。続く11問目と12問目


「問題! EU(欧州連合)の下で運営されている、1957年にローマ条約によってEEC(欧州経済共同体)とともに…」


「はい、開聖高校」 


「Euratom(欧州原子力共同体)!」


「正解! ここに来て開聖高校が明優高校に並んだ。開聖高校はこのまま正解を重ねことが出来るのでしょうか?」


 英ちゃんが得意な世界史の問題で正解し、流れを変えてくれた。「このまま行くわよ」と英ちゃんが呟いて、僕達はハイタッチをした。



「問題! 熱の伝わり方、伝導、たいり…」


「はい、開聖高校」


「放射」


「正解! 来た来た来た!開聖高校がトップに躍り出るましたね。このまま他の追随を赦すことなく決勝進出を決めてしまうのか?それとも明優高校が追いつくのか他のチームが追いつくのかまだまだ目が離せません!」


 拓真が物理の問題を見事に正解してくれて、応援席の皆んな手を上げて喜んでくれているのがわかった。僕らも今までで1番強くハイタッチをして「最後まで、最後まで気を抜くなよ、もっと正解して確実に決勝に行こう!」と気を引き締めた。




しかし、その後も前半戦同様に押し負けたり、答えられなかったりして僕達は4問正解したまま、残り2問を残して明優高校と並んでいた。



「泣いても笑ってもラスト2問です。一体どこのチームが正解するのか、問題に参りましょう!」


「問題! 奈良時代に日本初期を編集した…」


「はい、明優高校」


「舎人親王」


「正解! ここで明優高校が追い抜きました!このまま一位で決勝へと駒を進めるのかそれとも、開聖が追いつくのか、いよいよラスト一問です。」


 得意な日本史の問題が来た!と思った瞬間回答ボタンを押し込んだがほんのゼロコンマ数秒の差で明優高校に押し負けてしまい。正解を許してしまった。悔しくい気持ちを抑え僕達は最後の一問にへと神経を研ぎ澄ましていた。



「ラスト 問題! DNA複製時にラギング鎖でDNAプライマーゼとDNAポリメラーゼによって形成される、短いDNA…」


「はい、 開聖高校!」


「岡崎フラグメント」


「正解! 最後の最後で開聖高校が並んだぁ。激動の展開を制し、決勝進出を決めました!」




 生物の問題だ!と思った瞬間少し長く問題を聞いてしまったが、無事に回答権を獲得し正解をすることができた。その瞬間目に涙が溢れてきた。隣で一緒に戦った拓真と英ちゃんも嬉しい涙を流して一緒に肩を組んで喜んだ。こんなに幸せな瞬間は二度と訪れないと思う。心の底からそう感じた。



 それから、決勝進出者として、僕達開聖高校と、明優高校ともう一つ関東のチームが発表され、大会委員の方から、1週間後の金曜日に成田国際空港からイギリス行きの便に乗り決勝戦の舞台が行われるという事が説明された。それらの説明をその場にいて聞いていたが、幼い頃からの夢が叶った僕は夢で見ているかのような気分になり、あまり内容が頭に入ってこなかった。




「やったな新!遂に決勝だ。おめでとう。最後までよろしく。」


 ぼんやりしていたぼくの肩を強く叩いて、拓真が嬉しそうに話しかけてくれた。


「ありがとう、拓真のおかげだよ。英ちゃんもありがとう。2人のお陰で遂にここまで来れたよ!これからも宜しくな。」


「当たり前じゃない、ここまできたなら後は優勝するだけよ。こちらこそよろしくね。新、拓真。」


 3人このチームがまだもう少し続けられる幸せを噛み締めていると、後輩達から「お疲れ様です!そして、決勝進出おめでとうございます。優勝目指して頑張って下さい!」と声を掛けてくれた。


「君達がこんなにも活躍してくれて私も非常に悦ばしいです。」


 先生も感動してうるうるしながら喜んでくれた。皆んなも一緒に喜んでくれている事が本当に嬉しくて、いい仲間、先生、後輩に巡り合えたことに感謝しつつ、「応援ありがとうございました。まだまだ皆んなの応援が必要なので最後まで見届けて欲しいです。よろしくお願いします。」




 こうして、無事に全国大会の決勝に進出す事ができた僕達の挑戦はまだ続くと思っていた。







 

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