第6話 地区大会とその後

 地区大会当日の朝、会場の最寄り駅で待ち合わせをしていた僕達は受付開始の30分前に会場に到着した。


「少し早く着き過ぎたな、どうする?少しウォーミングアップでもする?新」


 拓真に提案され僕達は1人10分毎に問読みと回答者をローテーションしていった。


「問題! 木へんに冬と書いてひいらぎと読みますが、さか…」


「はい、英ちゃん! このしろ(鮗)」


「正解。じゃあ次、問題! 酸性雨とは…」


「はい、拓真! 5.6」


「正解。じゃあ次、問題! ジムロート、グラハム、アリーン、リービッヒなどの種類がある、蒸気や液体を…」


「はい、英ちゃん! 冷却器」


「正解! じゃあ次、問題!……」


 


「只今より、高校生クイズ選手権中部地区大会の受付を開始致します。参加チームはこちらより受付を行うなって下さい。」


 僕が問読みをしていると、拡声器を用いた大会スタッフの方の声が聞こえてきた。僕達は真先に受付場所に向かい受付を行った。


「いよいよだな、まずは予選突破して、全国大会に駒を進めるぞ!新、英ちゃん。」


「当たり前でしょ?私達は結成して未だ日が浅いけど、この2、3ヶ月の練習で着実に実力は付けてきたもの、今日の予選位1位通過しなければ、強豪チームが多い関東チームの予選通過チームに勝って決勝に進出する何て夢のまた夢よ。だから、今日は1位通過目指して頑張りましょう!」


「そうだな、英ちゃん。まずは全国大会に進まないと何も始まらないよな!頑張ろう、みんな!」


「おう!」


 3人の気持ちが一つになったことと、待ちに待った高校生クイズ選手権の開幕に心が躍るのを感じていた。



 本日の中部地方大会には24チームが参加していた。例年よりも参加チームが多いらしい。それもその筈、昨今クイズ番組の視聴率が増え日本一の大学生が天才集団としてテレビでその知恵を披露したり、ネットで動画配信を行い、絶大な人気を誇っているのである。

 しかし、全国大会に駒を進めることができるのはたった3チームだけである。とても狭き門であるが、進んだ先の全国大会では選りすぐりの強者のみが集まっている。



 今回の地区大会ではまず8チームずつ3ブロックに分かれて試合を行い、それぞれから2チームずつ地区大会決勝に駒を進めることができる。そして、勝ち進んだ合計6チームの中から勝ち上がった3チームが全国に駒を進めることができるらしい。

 僕達はBブロックに振り分けられたので、Bブロックの試合会場へと移動した。今回要注意チームは中部地方で最も秀才が集うとされている私立明優高校である。偏差値は76と言われており、毎年日本一の大学に50人以上が進学し、国公立大学への進学率は驚異の90%超えである。そして2割以上が医学部へと進学するらしい。兎に角バカみたいに頭の良い奴が集まる学校だということだ。そんな私立明優高校生はAブロックに振り分けられていた。


「明優高校とは決勝で相対することなるだろうな。あのチームに勝たないと地区大会1位通過は難しいだろうな…」


 拓真がそう呟いた。彼らが最大の敵である事は間違い無いだろう。でも僕達の目標はこの地区大会のその先にある。


「確かに、1位で通過するには彼等を凌ぐ必要がありそうだけど、もっと気楽に行こうよ拓真、僕達の目指す場所はこの地区大会を通過することじゃない?全国大会の決勝に進むこと、更には優勝しちゃうことだよ?取り敢えず今日はクイズを楽しもうよ!」


「そうだな、新クイズを楽しむよ。」


「そうよ拓真、クイズを楽しむ事が1番大切なことよ、そして結果が伴えば更に最高なのよ、頑張りましょう!」


 僕達はもう一度気合いを入れ直した。



 3つに分かれたブロックではそれぞれのブロックで○✖️クイズ、三択クイズ、書きクイズなどの形式のクイズが全部で20問出題され、正解数が多い3チームが勝ち抜けるという形式だった。


「問題! 世界三大宗教とはキリスト教、イスラム教とあと一つは何? A.ヒンドゥー教 B.仏教 C.ユダヤ教」


「正解は…Bの仏教でした。」


「問題!ちみもうりょう 漢字で正確に書け!」


「正解は…魑魅魍魎」


「問題! 14世紀ヨーロッパの人口、経済、政治の危機を原因として巻き起こった百年戦争は100年以上続いた○か✖️か!」


「正解は… ○ 1337年〜1453年の116年間に及び戦争状態が続いた。」


「問題!… 」




 Bブロックの試合が粛粛と行われていき、最終結果が最高正解数17回で僕達の開聖高校チームが1位通過することになった。

 そして、午前に行われたブロック予選が終了すると、1時間のお昼休憩の時間となった。


「助かったよ、拓真、英ちゃん。やっぱり学年1位と2位は違うね。トップ通過は2人のおかげだよ。」


 正直、書き取り問題や一般雑学などで足を引っ張っていた僕は2人に助けて貰いながら初めてのチーム戦に挑んでいた。僕が活躍できたのは日本史の「江戸幕府最後の将軍は15第将軍 徳川慶喜ですが、江戸幕府と同様に15第まで続いた室町幕府最後の将軍は誰?」 「足利義昭」と生物の「血糖値を上昇させるホルモンであるグルカゴンは膵臓のランゲルハンス島のどこから分泌される? A.a細胞 B.b細胞 C.c細胞」 「Aのa細胞」

の2問しか答えられなかった。


「そんなに落ち込むなって新、新は十分チームに貢献しているって。俺らには分からない問題にきちんと正解しているじゃないか、それに俺らの答えも信用してくれているだろ?俺らもお前回答を信用しているし、間違えてたって誰もせめやしないさ。」


 少し落ち込んで箸が止まっていた僕のことを拓真が優しく励ましてくれた。


「そうよ、新私達はチームでしょ?チームメイトのことを責める人なんてここには1人もいないわ!もっと気楽に行こう?午後からは落ち込んでいる余裕何てないわよ!」


「ありがとう、2人とも!僕も僕に分かる範囲でチームに貢献するよ!2人とも午後からもよろしく。」


 気持ちを持ち直して、昼食を終えるとすぐに決勝戦が始まった。




「これより、中部地区大会決勝戦を開始致します。決勝戦では、全ての問題が早押し形式もしくは早書き形式となっております。10ポイントを先取したチームから勝ち向けとなり、3位までのチームが全国大会に出場決定となります。」


 大会委員の方の説明が終わると6チームがそれぞれ、回答者席に移動し問読みが開始された。


「問題! ベンゼン環が二つ融合したもの…」


「明優高校!」


「アントラセン」


「正解! 先にポイントを獲得したのは明優高校。始まったばかりですからね、他のチームも頑張って下さい。」


「問題! ある物質と比較して質量とスピンが全く同じで…」


「明優高校!」


「反物質」


「正解! またしても明優高校がポイント獲得!さらにリードを広げていきます。」


 早い。一瞬無駄も無く淡々と正解を積み重ねて行く。これが名門進学校のクイズ研究部の実力か…中等部から競技クイズに慣れ親しんでいた者達にたかが結成して2、3ヶ月のクイズ研究部が敵うはずがない…。僕達はただのクイズオタクでしかないんだと改めて実感していた。


「新、次の問題に集中しろ!」


 拓真の左手が僕の肩に置かれた。ハッとした僕は拓真の方を振り向くと拓真はにこりと笑って頷いた。僕も拓真に頷き返して直ぐに真剣な顔になった。


「問題! 徳川15第将軍のうち、名前に…」


「開聖高校!」


「秀忠、綱吉、吉宗、慶喜」


「正解! 遂に開聖高校がポイント獲得しましたね。明優高校の独壇場を阻止できるか!」


 僕に分かる問題がきたと思った瞬間、僕は回答ボタンをすかさず押し込み回答した。正解出来たことに喜んでいると拓真と英ちゃんからハイタッチしてもらい次の問題に備えた。


「問題! フランス革命直前に三部会の…」


「開聖高校!」


「テニスコートの誓い」


「正解! 開聖高校が立て続けにポイントを獲得し、明優高校に並びましたね。他のチームもこの2チームに負けずと追い上げて下さい!」


 英ちゃんが世界史の問題で見事に正解した。明優高校に並んだことが嬉しくて僕達は「やったね英ちゃん」と先程よりも力の籠もったハイタッチをし、嬉々として次の問題に立ち向かった。



こうして、次から次に出題される問題に一喜一憂しながら、僕達は全力でクイズに答えていた。



「優勝、明優高校生チーム! 中部地区大会優勝おめでとう!」


 あっと言う間に楽しかったクイズ大会は終了した。序盤に差をつけてられた僕達は一度追いつたが、その事で明優高校チームに火をつけてしまい、他のチームの追随を赦す事なく、圧倒的大差をつけられて優勝を逃してしまった。その後は2争いを残った5チームで行い僕達は順調にポイントを重ね、2番目に早く10ポイントを獲得した。




「1位通過はできなかったね…。あれが明優高校、秀才達の中でも選りすぐりの精鋭部隊の実力か、、、」


 3人で少し落ち込みながら帰路についていると、英ちゃんが口を開いた。正直競技クイズを甘く見ていた。そう簡単に競技歴の差、頭脳の差を埋めれるはずがなかったのだ。


「まぁまぁ、落ち込むのは程々にしようぜ!結果は2位通過だったけど、初めての競技クイズどうだった?俺はとても楽しめたよ。2人はどうだったんだよ?」


 拓真がその場の雰囲気を慰めようと明るく話しかけてくれた。


「結果は少し残念だったけど、楽しかったな、あの臨場感というか緊迫感っていうの?今でも興奮が収まらないよ。幼い頃からの夢が少し叶った気がするよ!2人のおかげだね。ありがとう。」


「私も新と拓真の2人でチームを組めて本当に良かったよ、全国大会に出場できるんだし、このまま優勝目指して頑張ろう!ね?」


「そうだね!」



3人で笑いながら進める帰路は少しの悔しさと喜び興奮が混ざった、そんな足運びだった。





 そして、9月に東京で行われた全国大会。僕達はこれといった活躍の場を作る事が出来ず一回戦敗退となってしまった…。

 こうして、僕たち開聖高校クイズ研究部高校生クイズ選手権初挑戦は、全国大会決勝進出の夢を叶えられないまま幕を閉じたのだった。



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