第2話 顧問の先生

クイズ研究部を発足するにあたって顧問の先生を誰かにお願いしなければいけなかった。



「誰がいいかな、生物の小西先生?それとも化学の山之内先生?日本史の山田先生…?」


 そんなことを考えながら自席で部活申請書と対峙していた。物思いに耽けていた僕は背後から忍び寄るある存在に気付くことができなかった。


「新、何難しい顔してんだよ! ってこれ部活申請書か、新クイズ研究部作るんだ、、俺も混ぜろよな!」


 背後からそこそこ大きな声で話掛けて来る奴は一人しか知らない。2年D組の澄空拓真だ。去年1年F組で同じクラスだったが、去年は全ての模試でクラス1位学年2位の秀才のくせして、全ての志望校でA判定を叩き出したバケモノだ。2年生では理系クラスでそんな秀才ばかりが集うD組でトップ争いをしているらしい。そのくせ身長も高く185cmの図体から放たれる全ての音が大きくて、背後から声掛けられるとホラー映画の主人公の気分になる。



「何だよ拓真、耳が痛いだろ、少しはそのデカイ声どうにかしろよ、全身に負担が掛かるんだよお前との会話」


「すまん、すまん。でクイズ研究部作るんだろ! 何に悩んでるんだ?」


「顧問の先生だよ。これからクイズ研究部の面倒見てくれる顧問の先生は大事だろ?拓真は誰がいいと思う?僕は日本史の山田先生か化学の山之内先生がいいかなと思うんだけど、」


僕は高校生クイズ選手権の優勝を目指しているのだ、その為には然程興味は無くても結構だがある程度競技クイズに関心が有り、部員に指導してくれる先生を選ばなければならないのだ。僕の高校生クイズ選手権に対する本気度を知っていて、1番に入部を希望している拓真にも考えてもらう事にした。



「うーん…化学の山之内先生でいいんじゃないか? 先生ならクイズみたいな雑学好きそうだし、なんせ人柄もいいしな。」


「そっか、拓真がそういうなら山之内先生にお願いしてみるよ、クイズ研究部が出来たら1番に入部届け出しに来いよな! 拓真がいたら高校生クイズ選手権優勝できる気がするんだ!」


「おん、わかったよ。優勝はどうでもいいけど決勝で海外に行けるから、決勝までは行こうぜ!」


「決勝まで行ったら優勝したいよ、これまでのクイズ愛を全て打つけるんだ!」


お前のクイズ愛は凄いな…と若干引かれながら拓真は後にした。




「失礼します。山之内先生はいらっしゃいますか?」


 その日の放課後、僕は早速山之内先生に顧問の了承を取る為に職員室にいった。僕の声が届いたのか、扉から奥の窓際に席がある山之内先生が立ち上がり僕の方まで歩いて来て下さった。


「私に話があるのですか」


 物腰柔らかなおじさまという言葉が似合う山之内先生は50歳だがとても上品で全ての生徒に対して丁寧に接していて全校生徒から好かれていると言っても過言ではないと思う。それに、新たな知識に対する探求欲がありクイズ研究部の顧問にはうってつけの先生だと思う。



「実は、クイズ研究部を設立しようと考えているのですが、顧問の先生を山之内先生にして頂きたくて…どうか御検討して頂けないでしょうか。」


僕の言葉に先生は少し考え事をする様な顔をした後に、格段に爽やかな笑顔となった。


「了解です。私がクイズ研究部の顧問なりましょう。実は私もクイズ研究部が存在しないことが気がかりだったのです。私はクイズが好きですから。様々なジャンルの雑学を学ぶことは楽しいですからね。ここに通う生徒の皆にもこの気持ちを抱いて欲しいですから。喜んで引き受けますよ。」


やはり山之内先生に頼んで本当によかった。先生となら心の底からクイズを楽しめるだろう。


「引き受けて下さって有り難う御座います。これからクイズ研究部の部長として、開聖高校クイズ研究部を日本で1番のクイズ研究部にして見せます!」


「その様な礼は結構ですよ美海君。これから部長としての君の活躍とクイズ研究部の活動に期待しています。そうそう、部活申請書が書けたら私に提出をお願い致しますね。部活の発足には顧問の印と校長の印が必要ですからね。」


「分かりました。直ぐに書類を完成させて持参致しますね。失礼致します。」


そう言って職員室を後にした僕は一目散に教室に戻り部活申請書の作成に取り掛かった。



「顧問の先生は山之内先生に決定っと。それから活動内容…そんなの決まってるよ、『高校生クイズ選手権優勝』を目指して日々の競技クイズに於ける研鑽」


これで出来上がり!と興奮冷めやらぬ僕は足早に職員室の山之内先生に部活申請書を提出した。


 後日無事に部活申請書が受理され顧問の先生の印と校長先生の印が押された申請書が返却されたのである。

これでクイズ研究部が発足したよ、その日は浮き浮きとしたせいか授業内容が全く入ってこなかった…。




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