第41話 本気は一撃

地面から突如として突き出てきたその柱を腹に喰らい、その重い一撃により身体を浮かせた凛はでき、着地をすると同時に腹を抑えながら笑みを浮かべる二葉の方へと顔を向けた。


「せっかくの決勝戦だ、特別に俺の二つの異能でお前を圧倒的力でねじ伏せてやる」

「二つ目の異能……ねぇ」

「ああ、この二つ目の異能形状変換でだ。一見ではあまり強い感じはしないこの異能だが、使い方さえわかればこれは強力な異能だ。この異能があればこの通り……」


手を地面につけその異能を発動させた二葉は紫色の火花を手から散らし地面の形を変化させ今度は凛の後ろをその六角柱が突き出て襲い掛かった。


それを喰らい前へと強く押されそのまま前かがみになった所を更に二葉の背中から突き出ている鎖が打撃を食らわせる。


「さあ、心しろ。これが俺の本領だ」


二葉が現在すでに出している四本の鎖かに加えて更に四本の鎖が背中から現れ、その鎖の先端が形状変換の異能によりそのすべてが鋭利な矢へと変化した。


そしてその八本の鎖は勢いよく凛の四方八方から襲い掛かり、避けようと思ってもどうにもその隙が全く見当たらない。


またそれと共に地面からは六角柱が飛び出しその鎖と同時に彼を襲う。そして次の瞬間彼を二葉の持たざる力を持って怒涛の攻撃が始まった。


鎖が彼に打撃を与え矢は時に彼の皮膚を掠らせ、地面から飛び出てきたその六角柱は彼の身体に攻撃を加え形を崩したかと思えばまた他の場所から凛の身体を目掛けて襲い掛かる。


逃げ場も休む暇も何も与えることのない完全なるハメ、その姿はまるで。


『こ………これはぁもうまごう事ない、蹂躙だぁぁぁ!!!』


そう、まさに蹂躙だった。


理不尽に自分の力を、才能というものを相手へと知らしめ見せつけそして実感させる。その脅威と越えられない壁というのを教育するかのように彼は攻撃を繰り返し続ける。


スタジアムのとある人物はその光景に思わず目をそらし、とあるものはその圧倒的姿を目に収めるために逆に目を離さない。


完全なる蹂躙を納めているその光景、その本人である二葉は楽し気な笑みをその顔に浮かべていた。


「どうだ!!これが俺の生まれついて手に入れた天賦の才能!戦いにおいてどんな人物においても引けを取らない完全な圧倒的戦闘能力!努力だと!?笑わせるな!お前が才能がないというのなら、お前が俺に勝てるわけがないんだよ!!」


そして自身の圧倒的勝利を確信し更に攻撃速度を加速させようとした、その時だった。


「油断はだめだぞ」


凛があたり全体に赤いスパークを奔らせると、その瞬間攻撃を仕掛けていた地面から飛び出るその六角柱と鎖が一瞬にして形を無へと帰したのだ。


「なっ!?」

『えええぇ!?そんなことあるぅ!?』


二葉も、実況席の末井も思わずそんな声を口から上げた。叫び声を上げた末井の隣に座る美鈴はその光景を冷静に分析して解説した。


『司波翔君の強化の異能は強化の強さが大きすぎるとその物体に負担がかかりその影響でそれは形を崩してしまう。彼は恐らくそれを利用したのでしょう』


美鈴の解説の通り、凛は次の攻撃を仕掛けてきたその瞬間に異能を発動させ鎖や地面に強い強化を施した。それによってその膨大な強化によって形を保つことが不可能となったそれらは崩壊してしまったのだ。


「くっ…おのれぇ!」


その衝撃のあまり数秒という短い間ではあるもののその一瞬動けなかった二葉はすぐに鎖を出現させたが、その数秒の短い間が彼にとっては命取りとなってしまった。


―――なっ…いつの間に!?


その数秒という間に凛は二葉との距離を大きく縮めもうすぐ眼前だというその目の間にまで迫っていた。


動揺は大きいがこれでも彼は何とか状況の態勢を立ちなおそうとするものの、時はすでに遅し。


例えかすり傷があり姿がボロボロであったとしても、二葉の目の前で立ち止まった彼のその踏み込ませた足は力強い。


そして同様に彼の手は力強く握りしめられた。


――――これは、俺がお前に放つ本気の一撃だ。


「おらぁっ!!」


その拳は二葉の腹部を穿つかの如く直撃しそれはめりめりとめり込んでいく。圧迫されるその感覚とその痛みが同時に二葉に襲い掛かってきた。


「がっ……!!!」


勢いよく線を描いて後ろへと殴り飛ばされる。

二葉はあっという間に場外へ、壁をブレーキにその勢いは止まったのだった。


二葉は場外、故に闘技台に残っているのはボロボロの姿の凛のみ。


『……………』


実況席もドーム内も沈黙が響き渡り、盛り上がっていたその会場はまるで嘘かのように静まり返っていた。だが、徐々に興奮し始めた末井は感極まった様子でマイクを手に取りそして今日一の叫び声を上げた。


『ななななななななぁぁぁぁぁぁぁんと!!!!まさかまさかの優勝はぁ、2-A組!司波翔ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!』


そしてそれと共に会場は興奮と共に歓声が沸き上がった。


「…………」


場外で壁に背もたれをかけた二葉は何が起こったのか、その状況が理解できていないような趣でただぼーっとそこで突っ立っている。だが、徐々に状況把握ができ始めたらしい。


その目を充血させて手を皮膚がミチミチとはちきれんばかりに握りしめそして口を開けて叫んだ。


「うううううあああああああああああっ!!おのれぇぇ!!」


会場の興奮は一転、二葉の絶叫でかき消される。

そんな彼は絶叫と共に凛の方へと猛烈な勢いで押しかかってきた。


一度身構えた凛だったが凛とぶつかるその直前、彼の目の前に美鈴が現れ向かってくる二葉に向かい手をかざすと彼の動きが一瞬で静止した。


「ぐっ………」

「この勝負はあなたの負けです。大人しく下がりなさい」

「………」


しばらく彼は黙っていたが、その後納得は言っていない表情であるものの舌打ちと共に背を向けてゲートの方へと消えていった。


そしてその去り際、


「おい!俺はただ油断を付かれただけだ、実力で言えば、お前には負けてなどいない!!」


とそう言って彼は去って行ったのだった。


「その弁解……ダサいぞ……」


一方凛はやることをやったせいかどこか燃え尽きた感情となっていた。


――――まあ何かしらの問題は起こるかもしれないが、そこは臨機応変に対応していくとするか。


覚悟の上で今日はこうして彼に勝ちに行ったのだ。

凛に悔いなどはない。


その後医務室で処置してもらった凛は閉会式に臨んだ。その際に総合成績が発表されたわけだが、結果として言えばバトルトーナメントの結果によって順位は逆転、2-A組が優勝という形で幕を終えることとなった。


そのご開会式を終えた凛はユウキと共にドームの外へと歩いていた。


「いやー無事俺達のクラスが優勝ですなー!翔ぅ、お前の手柄だぜ!」

「随分と元気だな、怪我はどうした」

「先生の治癒でかなり回復したんだ。そう言うお前はどうなんだよ、怪我の具合」

「まあ見た目のわりに差ほど深い傷じゃなかったみたいだから問題ない」


お互いにどこかしらに包帯が巻かれてはいるが両者とも深い傷という訳ではない。声のトーンや姿から察することは出来る程に、二人の調子はいつも通りだ。


「……翔、色々ありがとな」

「ん?」

「アイツに勝ったの、俺のためだったんだろ?」

「………」

「本当にありがとな」


優しい笑みを凛に向けてそう言う彼に凛は言った。


「何のことだ?俺はただクラスを優勝させるために勝っただけだぞ?」


ほんの少しの照れ隠し、しかしユウキはそれでもウザ絡みをつづけた。


「とか言ってー本当は俺のためだったりするんだろー?」

「次それ言ったらお前の脳天を会心の一撃で叩き割るがいいんだな?」

「ごめんなさい調子乗りました」


と、そこでしばらく静かな時間が流れると同時に二人は共に笑い合い、そしてそのまま二人はドームの外へと出ていった。





       ※       ※       ※






教室に一度戻りホームルームを終えた凛はユウキや鈴見、姫奈と共に昇降口へと向かう。靴を履き替え外に出て正門へと向かう。するとその門の近くにその人物は立っていた。


「二葉……!」


ユウキが警戒態勢を取り姫奈を守る様に彼は一歩前へと出る。


「安心しろ。用があるのはそこの男の方だ」


彼が指を指したのはユウキや姫奈ではなく凛だった。


――――わかってはいたけど………早速過ぎるな………


実際ああいうタイプの人格者を異世界で何人も見てきている以上はこうなることはわかってはいた。だが、それにしても早すぎる。


「何か用か?」

「今日の夜、有賀川ありががわの河川敷に来い。拒否権はない」


とただそれだけ言って彼はその場から立ち去っていった。


「どうすんだ翔?」

「なんか面倒な事っぽいけど、来なかったら来なかったでもっと面倒なことになりそうだから行くしかないだろ」


凛はそう言いながら一つ溜息をついたのだった。


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