第40話 決勝戦の行方

晴天が見下ろすこの桜京体育祭も残りわずかとなり、今ここに始まろうとしているのは午後の部の全てを締めるバトルトーナメントのその決勝戦。


これまで決勝戦に行くまでにトーナメントA、トーナメントBの二つのトーナメントを行いそこでそれぞれ勝ち進んだ一人が決勝戦で戦いを行いそこで優勝を競い合う。


その決勝戦が今幕を開けようとしているのだ。


『いやー学園長、遂に決勝戦ですね!』

『はい、一体どんな戦いとなるのか楽しみです』

『今回決勝に上がってきた二人について学園長はどうお考えですか?』

『そうですね、二葉君は予想で着てはいましたが司波君に関しては予想外と言ってもよいです。そんな彼がどんな戦いを見せてくれるのかも楽しみです』

『なるほど、ありがとうございます!それじゃあ決勝戦行くぞぉおおおお!!バトルトーナメント決勝戦!!!』


末井が今日一番の叫び声をマイクで響かせドームにその声を轟かせる。そして、対になったゲートからそれぞれの選手が入場する。


『その無双はもはやだれにも止められないのか!?二葉慶!!!』


ゲートから余裕と不敵の笑みを浮かべて登場し堂々とした足踏みで闘技台へと上がっていく。


『対するはぁ!!転校生のダークホース!司波翔!!!』


対する凛もまた顔は一切の感情を捉えさせない真顔でありつつも、闘技台へと続くその階段を上るその歩みと姿は堂々たるものだった。


『今ここに!!バトルトーナメント最後の戦いが開戦する!!!』


興奮有り余る勢いでそう叫ぶと、尚も続けて彼は叫んだ。


『さあ決勝戦、行くぞおおおお!!!』


闘技台へと上がった二人は目線を合わせたままそのアナウンスをただ耳に入れるだけ。そのまま、審判は腕を上げそして開戦の掛け声を上げた。


「はじめ!!!」


今戦いの火ぶたが切って落とされる。

だがそれから両者がすぐに動くことはなく、二葉は凛に対して問いかけた。


「お前、確か転校生と言っていたな」

「ああ、五月に入ってきたばかりだ」

「そうか、なら良かったな。俺はこの学園にはめったにいない。だから俺と戦うことができるのも貴重だぞ」

「それはありがたい」


そしてついに凛は構えを取るその一方、二葉は仁王立ちのまま。そして静まり返ったその瞬間、凛は一気に走り出した。


二葉は背中から四本の鎖を出現させ、それを凛へと襲い掛からせる。猪突猛進たる勢いのその鎖が凛に迫った所で彼は上に来ていたチャック式の長袖ジャージを脱ぎそしてそれを広げると異能を発動、赤いスパークがジャージに迸りそしてそのジャージに鋭利な矢を先端に取り付けた鎖が激突した。


「………なるほど」


その鎖の攻撃ははジャージによって見事に防がれていた。

そしてそれを見た瞬間に、


「お前は物体の強化の異能か」

「その通り」


ジャージを下へと降ろし止めた鎖を押さえ込むとそこから更に突き進み二葉との間合いを詰めていく。すると、そこで更に二葉は四本の鎖を出現させた。


「甘いぞ」


先ほどよりも速いスピードで確実に凛を捉えようとその鎖を繰り出し、今度は何か防御をさせる暇も与えない。


――――早いけど、早速やるか……


凛は決意を胸にその鎖を眼前にまで目で捉えたところで一気に加速し、みるみると二葉との距離を縮めていった。


「っ!」


この決勝戦、最初に攻撃を相手に入れることができたのは二葉ではなく凛の方であった。距離を最大限まで縮めたところで凛は己の拳を二葉の腹へと繰り出した。


「くっ……!」


その時に腕から鎖を出した二葉は凛の攻撃を喰らってから数秒後、それを振るいその鎖を彼に振るった。


腰の部分に直撃し吹き飛ばされた凛は着地すると同時に膝をつき、腹に拳を入れられた二葉はたじろぐものの決して倒れることはなく膝をつくこともなかった。


「お前……自分の強化もできるのか?」


―――よし……


心の中でガッツポーズを決めた凛は何とか自身の身体を立たせながら言った。


「ああ……今までは物体の強化しかできなかった……でも最近やっと自分の身体も強化できるようになったんだよ!」


立ち上がりそう言い放った凛であったが、その心の内では。


―――まあ、嘘なんだけどな


と、申し訳なさを含みつつそう言っていた。

実のところ先ほどの急な加速、それは身体を強化してできたことではなく単純に凛の素の身体能力で、彼は赤いスパークを一瞬だけ光らせそれをすることで身体の強化を再現し思い込ませようとしたのだが、どうやらうまくいったようだ。


実はこのスパークを一瞬迸らせるというのはかなり難しいもので、纏わせる時間が長すぎると異能の影響で身体が崩壊してしまう。


それを何とか防ぐように短すぎず長すぎずスパークを迸らせる必要があり、その塩梅はなかなか難しいのだが何とかうまくできたようだ


やはり自身の実力は隠しておきたいわけで、こうせざるを得なかったのだ。なので彼が膝をついているのも一つの演技であり事実そこまでの痛みは伴われていない。


「なるほど……面白い。もっとお前のその力を見せつけてみろ!!」


すると二葉はもう片方の腕からも鎖を出し両腕から出した鎖を手で掴み取るとそれらを挟み撃ちにするように凛を左右から襲わせる。


凛がそれを避けて横へと移動すると今度は上から幾多もの鎖が襲撃する。


頬を掠りつつもそれを避け後ろへと下がると先ほどの鎖が続いて攻撃をし、それをあえて腹に喰らった凛はそのまま鎖に突き飛ばされる。


勢いよく飛ばされ闘技台の場外スレスレで止まった凛は同時に膝を突き四つん這いになって苦しそうにして見せる。


「おいおい、その程度だとは言わないよな?」

「………あ、ああ……」


凛は苦しそうにしつつもその声を頑張って出し、追い込まれている感を演出する。そして自分の身体を何とか立たせると、大きく息を吐き同時に前へと飛び出す。


不敵な笑みと共に身体から出現させた幾多もの鎖が次々と彼の元へと襲い掛かるだそれをすれすれで避けていき、いくつも体にそれを掠らせつつも二葉の目の前へ。そして彼の腰に蹴りを繰り出す。


しかしそれを鎖で受け止めて見せた二葉は未だ余裕の笑みを見せており、その顔へと今度は拳を繰り出す。


それも間一髪で避けた二葉のその隙に更に逆側の今度はわき腹に蹴りを繰り出し、これは確実にそこへと入った。


そして一度距離を取った凛は彼の様子を一度伺う。


「……」


凛に攻撃されたそのわき腹を抑えながらしばらく口を開かなかったのだが、それからしばらくすると彼は大きな声で笑いだした。


「はっはっはっはっはっはっはっはっは!!!はっはっはっはっは!」


一体何がおかしいと言うのか、急な彼の行動に戸惑いの隠せない凛であったがしばらくするとそんな二葉が笑いながら、


「全く久々だ、お前の様なやつと会ったのは」

「オレの様な?」

「ああ、お前の様なにだ」


その言葉を聞いた瞬間彼は口を静かに閉じた。しかしそれとは逆に二葉はまるでマシンガンの様に尚も言い続けた。


「この学園では色んな奴らに会ってきたが、どうにも才能がある奴には会えていなくてな。心底がっかりしていたんだ。だがどうやらお前にはかなりの才能があるようだから安心………」

「馬鹿言うなよ」

「……は?」


彼が話している所を凛は遮るようにそう言った。その顔は真剣みの帯びた表情でそれから彼のその思いがひしひしと伝わってきた。


「オレは才能なんてない。これは全部、努力で手に入れたものだ」

「努力で、だと?」

「ああ」


凛は最初から強さがあったわけではない。むしろユウキと同じ、才能が全くない人間で戦いの実力はもはや皆無に等しかった。


だが、そんな彼は異世界に行く前も、そして異世界に行ってからも誰よりも強くなろうと努力して魔王を倒す力をも得、ここまで来ることができたのだ。


決して才能など、彼にはありはしないのだ。


医務室で涙を流すユウキの姿を見た時、昔の自分の姿を凛は重ねた。その悔し涙の意味が分かる彼だからこそ、その悔しさという物が理解できそれが自然と彼を今のように動かしている。


それだけでなく、単純に彼自身も才能だけしか見ない二葉に怒りを覚えたということも彼が戦い勝とうとしている理由にあるが。


「………」


凛にそう言われた二葉はしばらく黙ったその後、


「はぁ………」


大きなため息を吐いていた。


「どうやら俺の思い違いだったようだな、残念だ」


心底がっかりしたような表情をし尚ももう一度大きなため息を吐いた。


「ならこの勝負、俺はお前を完膚なきまでに倒してやる。お前に現実を教えてやろう」


彼は自身の身体から出していた鎖をしまうと、しゃがんで地面へと手を付けた。その刹那だった。


どこからともなく凛の腹を何かが攻撃した。見てみるとそれは六角柱の様な形をしたものでそれがどうやら地面から突き出ていたのだ。


これが二葉の二つ目の異能“形状変換”だった。

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