第39話 才能の壁

「なるほど、これは面白いですね」

「お、面白い?」


実況席にて、高速移動をしたユウキを目の当たりにした美鈴はそう言ったその言葉の意味が分からずオウム返しで訊き返した彼に、わかるように美鈴は解説をした。


「末井君。彼の異能は知っていますよね」

「電気を操る異能ですよね」

「はい。もっと具体的に言うなら人体に流れている生体電気を操る能力です」

「生体電気を?じゃあ、彼のあの電気は生体電気が増幅したモノってことですか?」

「ええ。そして今のあの高速移動は彼の身体全体に本来流しているその増幅した電気を一点に…今でいうところの足に収束させて作り出したスピードということです。なかなか器用な事をするなとつい思ってしまったことが口に出てしまいましたね」

「なるほど……」


その一方で二葉の顔面に拳を炸裂させた拳を力の限りで殴り飛ばした。場外でも勝ちになるので一応それも狙ってはみたが着地して勢いを殺した二葉は場外になる寸前で足を止めた。


「ちっ、ならっ!!」


彼は二葉の方へと移動をすると足に収束させていた電気を今度は両腕に収束させ、その腕を青色に染め上げそしてそのスパークの奔る腕で猛攻の連打を繰り出した。


この試合において二回繰り出したその連打だったが、この連打はその攻撃とは明らかに比べ物にならないもので比較するのも馬鹿馬鹿しい程のそのパワーとスピード。


連打するだけでもその風圧で闘技台は削られていく。


「くっ………まだまだぁ!!」


事実、それ程の力を出している以上身体に負担がないわけがなく、腕も徐々に気味の悪い音を鳴らし限界を迎えつつある。


しかし、それでも彼は拳を止めることはないのだ。そう、彼はそれほどまでに二葉のその才能が全ての考えを否定したかった。


だが…………現実は甘くなどなかった。


「なめるなよ、出来損ないの無能が」


連打し続けるその手を、二葉は突如として両手で受け止めその勢いをせき止めて見せたのだ。力強く握りしめたその手はユウキの手を決して離すことはない。


「なっ!?」

「いいか、この世において最も必要な才能……戦闘における才能がお前には全くないんだ。その才能の部分を努力だけで補えると思うなよ………その才能が皆無であるお前に、勝ち目などない!!!」


背中から生やしていた四本の鎖から更に四本の鎖が出現し、その合計八本の鎖がねじる様に束ねられその束ねられた鎖の槍が、勢いよくユウキの身体を穿った。


「ぐはっ………!!!」


腹にめり込んでいくその鎖はそのまま彼を運びそして闘技台の外へ、そして一番奥の壁へと激突した。


壁の破壊されるその音がドームに轟き、白煙と砂埃があたりを舞う。蔓延したその煙はあたりの光景を隠してしまうものの、その後それは霧散していき辺りを鮮明としていく。


そして広がる光景の端には、壁に激突し気絶。意識を失い口から薄っすらと血を流すユウキの姿があり、めり込んでいた身体は後に外れ地面へと落下していった。


シンと静まり返るその空間。しかしその後、審判が手を上げて行った。


「伊龍ユウキ、場外!勝者、二葉慶!!」


トーナメントA初戦、早くも激闘が繰り広げられたがそれはすぐに幕を閉じることとなったのだった。





       ※       ※       ※





戦いを終えた時のユウキの身体は満身創痍という言葉のよく似合うボロボロの姿だった。それを遠目からでもよく分かった凛、姫奈、鈴見の三人は運ばれていく彼の姿を見てすぐに席から外れて医務室へと向かった。


医務室に行くとそこには治療中の文字があり、その後治療が終わると医務室の中へ。ユウキと対面できた。彼の腕や上半身には包帯が巻かれており、また足の方を見るとそこにも包帯が巻かれていることが分かった。


「わりぃ……負けちまった」

「そんなことはいいよ!それより怪我は!?」

「私も力貸すよ!治癒の異能だし!」

「だ、大丈夫だ。ありがとな」


心配する彼らに照れながらも苦笑いをする彼からはその疲労がはっきりとわかる。そんな彼の心配しつつ凛は彼に話しかける。


「随分と無理してたみたいだな」

「ああ、まあな。どうしても勝ちたかったんだアイツに。まあ勝てなかったけど……無理したおかげで足も手もボロボロだぜ。後で先生がちゃんと治療してくれるみたいだから今は応急処置って感じだな」

「そうか。まあ、何か後遺症が残るってことはないんだろ?」

「ああ」

「ならよかったよ」

「おう、心配してくれてありがとな」


ユウキがそう言うとすぐに、天井の方へと顔を向ける。その時、三人には同時に彼が試合前に見せていたあのいつものユウキとは違う雰囲気だったことが頭によぎり、同時に彼が二葉に訴えかけていたことも思い出した。


色々聞きたいことはあった。だがそれでも彼らが口を開くこともなく、それから喋ることのなくなった医務室には静けさだけがあった。


そんな中、その沈黙を破ったのはユウキだった。


「俺、さ」


唐突に、どこか切なそうな表情を浮かべて彼は言った。


「実は昔から、戦うことが苦手だったんだ」

「「えっ?」」


鈴見と姫奈は思いもよらぬその発言に、思わずそんな声を口から漏らしていた。


「そ、そうなの?」

「あんなに強いのに?」

「強いかどうかは兎も角として、俺は昔から戦いが苦手で実力も人並み以下だった。でもこのご時世だ、それにアルヴァンも目指してたから強くないとだめだった。だから中学三年に入ってからは、死ぬ気で頑張って努力したんだ。寝る間も惜しんだし、何かで遊ぶこともそうなかった。そしたら、結構強くなれたんだ」


「でも」と彼は続ける。

その時、彼の顔がその感情の顔に変わるところを全員は見逃していなかった。


「二葉と会って、戦って、悟られてからさ、たまーに思うようになったんだよ。才能が無い俺が努力しても意味なんてないんじゃないかって。結局才能が全てなんじゃないかって」


悲しみに満ちたその表情で彼は言う。


「でも、それが逆に俺の闘争心に火をつけてさ、そっから更に努力して頑張ってとっくにそんなことは忘れてた………でも、さっき負けてまた感じちまったよ」


“才能が結局全てなのか”と。

どれだけ自分の出来る以上のその努力を積み重ね、そして自分の限界を突破して戦ったとしてもそれでも二葉という脅威的な存在には手も足も出なかった。


敗北したその瞬間、彼は意識が朦朧とする中でそれだけを明確に心に覚えていた。


「アイツは才能しか信じてない。だから俺はアイツのその考えを否定したかった、、俺が勝つことでそれを証明したかった。でもっ………結局無理だった…」


ポツリ。

ユウキの頬を伝ってその雫が寝そべっていたベッドに落ちる。彼の目からは涙がこぼれ、その強い悔しさを訴えかけるその表情がその感情の強さを表していた。


「結局は才能が………全てなのかっ………」


本来なら目元を抑えたいのだろう。動かすことの出来ない腕がぴくぴくと静かに動いているのがよくわかる。


その姿を見ていた鈴見と姫奈は共に、なんと声をかければいいのか分からずどうしようもなかった。なんせユウキのこんな姿を見るのは初めてであったから、その衝撃も強かった。


そして凛は腕を組み涙を流す彼の姿を見ながら頭の中で考えていた。

そして最後にはしっかりと結論に至ることができた。


「姫奈、鈴見。戻ろう」

「えっ」

「で、でもユウキ君が……」

「治療もあるだろうし、今はアイツは一人にしてやったほうがいい。相当追い込まれてるから」


ユウキのその性格を分かった上でどれが一番正解なのか、それがこれであると思った凛はひとまず二人にそう説明する。


しばらくして、二人は共に頷き先に医務室から外へと出て行った。


それに続くように凛も医務室の外へとドアに手をかける。その時、後ろを向いた彼はユウキに向かって言い放った。


「おいユウキ!」


それに反応し涙を流しつつも凛の方へと顔を向けた。すると、彼もまた同じ様にその事実を彼に告げた。


「実はオレもちっちゃいころは弱かったんだ」

「……えっ?」

「後、ちゃんと試合見逃すなよ!」


そう言い残して彼はその場から姿を消していった。その時彼のその言葉を放った意味を深く考えることはなかった。だが、この後すぐの事凛の放った言葉の真意を彼は理解する。



そして、時間は過ぎて行きバトルトーナメントは決勝戦を迎えることとなる。

トーナメントAとトーナメントBを勝ち進んだ二人の選手が今、決勝戦で戦いを繰り広げることとなる。


桜京体育祭、バトルトーナメント

決勝戦。















二葉慶対司波翔


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る