第36話 刹那の蹂躙

人工的に作られたものであるにも関わらず、その再現度は自然と比較してほぼ100パーセントに近いそれを持っているこのフシルティNの大自然。その自然の中の森林で、今現在『サバイバルバトル』の第四試合が行われている。


施設内の天井で再現された晴天の空がそれぞれの選手の動きを見下ろす中、唯一この時一対一で戦う少年二人の姿がそこにはあった。


「はぁ……はぁ……」


だがその戦いも、もはや戦いと言っていいのか、それすらわからないものであった。


戦いが始まってまだ数十秒、すでに有馬の身体はボロボロの状態であるのだ。上半身から下半身までその至る所を痛めつけられたそのせいか、出している有馬の腕の肌の色は赤色から紫色まで痛々しい色へと変色している。


また顔にもいくつかの傷があり、そんな幾多の傷から有馬はすでに満身創痍であることなどは一目瞭然である。


「おいおい、どうした有馬。まさかもう終わりか?」


その一方の二葉の様子と言えば、傷などは一切見当たらず彼の顔も薄ら笑いの浮かべられた余裕の持った表情である。


それもそのはず、二葉は何回も攻撃を繰り出そうとする有馬の攻撃を全て防いでいるのだから当たり前だ。


戦いが始まって未だ数十秒というこの状況ではあるものの、もはや戦いの行く末は目に見据えることが容易にできる状態となっている。


そんな状態にまで追い込まれた有馬の内心は悔しさや屈辱の募るばかりで、それは激しい怒りを駆らせる。


ギリギリと耳障りな歯ぎしりを鳴らしながら、剣へと変化している腕をだらしなくぶら下げそれを元の素手に戻すとその手を強く握りしめる。


そしてそこから一気に駆け出していった。


「おらぁぁぁぁっ!!!」


喉が裂ける程のその叫び声を、まるで自身の痛みや屈辱をひた隠しにするように強く上げ後ろに引いたその拳を二葉へと向かって放つ。


だが相手の方へと止まることもなく飛んでいくそれも、二葉は避けて見せた。


更には、避けたそばからすぐ横の有馬の腕に漆黒色のその鎖をぐるぐると巻き付け縛ると、横へと振るい有馬を使って周りの木々をなぎ倒しながら彼にダメージを蓄積させていく。


その後鎖を引き自身の目の前にまで持ってきたところで更に顎に向かって鎖を繰り出しそこに強烈な攻撃を直撃させた。


その鎖の先端には鉄球を小さくしたかのような黒い鈍器がつけられているため、攻撃力は本来によるものよりも更に強い。


「ぐはぁっ……」


有馬の悶絶の声が口から弱弱しく発せられる。その後、二葉が腕を引き鈍器のついた鎖を自身の方へと戻す。


「はぁ……強くなったという物だから少し様子を見ていたんだが……結局全く変わってないなお前」


先ほどとの薄ら笑いの表情とは打って変わり、見下すような目つきを有馬に向けて心底呆れながら嘆息を漏らす。実のところ有馬が「自身が成長した」かのような事を宣っていたが故に、少しばかりではあるが彼はその成長とやらを期待してみたのだ。


だが、結局それも全く変わった所がなかったというのが二葉の感じた有馬の“成長”だ。


「はぁ、期待してやったって言うのにちゃんとがっかりさせてくれるな。本当に」

「…なめんじゃ、ねぇ……!」


有馬は拳を強く握りしめそして白いオーラを纏い強化を施す。そして会心の一撃をボロボロの身体から繰り出した。その攻撃も所詮は満身創痍の人物の放つ渾身の一発、二葉からすれば脅威でもなんでもない。


両腕から生やしたその二本の鎖を操りそれをクロスさせてその拳を受け止め、クロス状態を解くと共にその腕を弾く。


「……興が冷めた」


そう告げた直後、態勢を崩した有馬のスキをついて二葉は片方の鎖を彼の腹部へと繰り出した。


「がっ、ああぁっ………」


先ほどまでのとは比べられぬ彼が唯一はなった本気の一撃だった。そしてまごうことなくそれは彼の敗北を確定させる。


鎖の先端についた鈍器が腹部へとめり込みその圧迫と衝撃の痛みにより、有馬は口から液体をまき散らす。


そのまま鎖で押されながら森林の奥へと押され最後には地面へと強く叩きつけられ、それと彼は声にならない叫び声を上げた。


「………くっ……そ………」


小さな声を最後に入らない力で拳を握ろうとしながら彼は気を失う。その瞬間を見た有馬は先ほどついた溜息をもう一度つき、失望したと言わんばかりのその目を彼に向けた。


「はぁ……わかってはいたがやはり期待外れの男だ。わざわざ手を抜いて奴の実力を見ようとする必要などなかったな。全く…とんだ時間の無駄遣いだ」


有馬の腹部から鎖を引き彼の腕に巻かれていたスカーフをそれで取ると引いて自身の方へと戻す。しっかりとそのスカーフを手にした二葉はそれを腕に巻くと彼を尻目にその場から去っていこうとする。


「ああ、一つ言って置こう」


有馬が気を失っていることを重々承知の上で、彼にとってこれは言っておきたかったことであった。


「前に俺と戦った時と同じ様に、きっとお前も何か積み重ねてきたんだろう。だが、お前は全くと言って差し支えない程に成長をしていない」


ふと背後に目をやり気絶し倒れたままの有馬を目に見据える。


「お前はどうしようと俺には勝てない」


そう言って彼はこの場から姿を消していく。その場に残ったのは傷だらけで倒れた有馬と沈黙のみだった。


そして時は同じくして施設内の待機室で、上の画面に設置されたモニターに映ったその有馬と二葉の決着を見届けた凛とユウキの姿がそこにはあった。そんな二人の内のユウキはその決着に思わず目元に手を添え空を仰いでしまう。


「…んの野郎……」


分かってはいる結果ではあった。

だが、そう言いたくなってしまった。


「試合早々に有馬を失ったのは結構デカいな」

「ああ、試合の行方が心配になってきたぜ」


ユウキの心配は最もの事。

今回のこの第四試合に出場している選手はアタッカーとサポーターの役割を持つ人物がそれぞれ二人ずつのバランスのとっている編成だ。


その内、そのアタッカーとして戦力となる有馬を失えばバランスのとっていたこの編成は大きく偏る上に、その編成をした意味がなくなってしまう。


いうならば、ユウキたちはは有馬が負けたことだけではなくこの試合の行方が心配でもあるのだ。


「それにしても、さっきの戦い。ほぼ蹂躙に近かったな」

「ああ。あいつは本当にバケモンだよ」

「ユウキ、戦ったことあるのか?」

「ああ、完膚なきまでの惨敗だったよ」


――――ユウキも、か。日本で最も優れてる家系の息子であるってことか。


間近で戦っていないとは言え実力者である有馬やユウキが惨敗するような相手であるのは確か、その実力の底が知れず二葉の存在に凛は少し興味を持った。だが、それからすぐに彼は切り替え第四試合の様子を改めて見始めた。


だが、案の定かその心配は見事に的中してしまい、ポイントの上手く稼げなかったその結果、結果として順位は第五位。下位を取ってしまうこととなり、総合順位も落ちてしまった。


そんな結果の余韻に浸らせることもなく滞りなく始められた第五試合は、その戦いの末に2-Aクラスは第三位の結果を取ることとなった。


そうして全試合が終わってからしばらくして、今や聞きなれた末井のアナウンス声が聞こえてきた。


『さあ、たくさんの激闘が繰り広げられたこのサバイバルバトルはこれで終了だ!お前らよく頑張った!さあ、お待ちかねの結果発表いくぜぇ!』


元気よくその声があげられると、尚もその声の状態を保ちながら末井が順位を発表し始める。


次々と上げられるそのクラスの順位であるが、四位まで来たがまだ2-Aの名前はまだ出てこずそして。


『第三位は……2-Aクラスだぁ!!』


そのアナウンスを聞きクラスメイトの者たちはそれぞれの感情をあらわにしており、ある者は喜びを示していたり、あるものは何とか中盤に入れたと一安心していたり。


凛やユウキもまたそんな一安心をしている人物の一人だった。


「なんとか三位に入れたみたいだな」

「まじで怖かったー!下位スタートは幸先悪いからなぁ……一安心だ……」


ユウキはそう言ってほッと一息吐いた。


「でもまだ油断はできねえ。三位から下に下がらない様にして何とか一位に上がれるように頑張ろう」

「ああ」


こうしてサバイバルバトルは終了しレクリエーション、トーナメントと続いていくわけだが。ここから先の『トーナメント戦』で、このサバイバルバトル以上の二つの激闘が生まれることは、未だ誰も知らない。








遅くなって本当に申し訳ありません。

何とか終わらせたかったのですが、最近モチベが上がらず中々書き上げられませんでした。


しかし自分の作品を見てくれている人がいる以上は頑張らないとと少し気を入れなおしたので数週間頑張ります!


最近話が遅かったりそもそもクオリティが低かったりしてすいません、これから先質の良い物語をお届けできるよう頑張りますのでよろしくお願いします。







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