第35話 激戦勃発の第四試合
時刻がしばらくすぎ第二試合が終わり、第三試合も残り僅かの時間となった頃。
出場選手の一人、ユウキの放つ拳が見事に敵の顔に直撃する。その一撃を喰らった相手は気を失い殴り飛ばされ、地面へと落下していった。
「おっけー……」
「ユウキ!こっちも終わったぞ!」
「よし、あと一人だな!あと一人は……」
「ここだ」
その声の方向には仁王立ちした少年がおり、その表情からは自信のほどが伺える。腕を組んだままその少年は張った声で言い放つ。
「お前たちが強いのはよくわかった。だがそんなお前たちの攻撃も俺には通じることはない。なぜならば、俺の異能は身体を硬化させる異能。どんな攻撃もこの俺の前では無意味……!」
「おらっ!!」
「ぼべらっ!!」
硬化させた腹部に入ったユウキの電気の纏われたアッパーカット。めり込んでくる拳と体に響き渡るその衝撃で、男はそのまま腹を抱えて地面へと倒れた。そしてそれと同時に施設の中にアナウンスが響き渡った。
『そこまでー!第三試合終了だ!続いて第四試合行くぜ、選手は準備よろしく!!』
そのアナウンスが途切れるとユウキたち第三試合に出ていた選手四人は一息を付いた。
四人は自分たちの試合について話し合いながら待機室へと戻るとそれぞれのクラスメイトが激励をしに歩み寄ってくる。その中には勿論翔もいる。
「お疲れ、ユウキ」
「おう、サンキュ」
「今さっき結果出たぞ。第三回戦の2-Aの順位は二位だ」
「おっ!じゃあ少しは挽回できたんだな」
実のところ、第一回戦で順位は一位だったものの第二回戦で五位という結果に終わり総合的な順位が下がっていたのだ。このまま下位を続けるわけにはいかないといざ三回戦に挑んだユウキたちだったのだが、どうやら上位を取れたらしい。
これである程度は総合順位も上がっただろう。
「んで、次が第四回戦ってことだが、やっぱり一番の頼みは有馬だな。ちょっと不愉快だけど」
「クラス内じゃトップの実力だもんな」
「ああ、不愉快だけど。大事なことだから二回言った」
「そ、そうか…」
二人が犬猿の仲なのは相変わらずであるらしい。と、そこでジャージをだらしなく着た有馬が上に来ているジャージのポケットに手を突っ込んで歩いてこちらへと向かってきた。
「お、有馬。第四回戦、頑張れよ」
「言われなくてもわかってんだよ」
「ろくな順位だったら容赦しねえからな」
「一位取れなかった雑魚は黙ってろ」
「あぁ!?てめえ!」
「まぁまぁ落ち着けって」
凛がユウキを宥めても彼は犬のようにワンワンと吠えているものの、有馬は柳に風とそのまま無視してゲートの奥へと姿を消していった。
「ったくあの野郎……」
「相変わらずなんだな、お前ら」
「あんな奴と仲良くなってたまるかってんだよ」
凛がそれに苦笑いする一方で切り替えてユウキが言う。
「だが、事実アイツには今回頑張ってもらわねえと困るんだよ」
「なんでだ?」
「この四回戦に出るんだよ、アイツが」
「…なるほど」
アイツとは誰の事なのか、言わずもがなそれは二葉慶のことだ。実際の実力を見たことがない以上、凛もなんとも言えないのだがユウキの顔が真剣な趣な辺りは本当に強いのだろう。
「だから実際問題アイツと戦わないようにするか、もしくは全員で戦うか。そのどちらかじゃないとだめだ。もし仮に戦うことになったら有馬は戦力として必要不可欠なんだ」
「そんなに強いのか、二葉って?」
「そんなに強いんだよ、二葉って」
「ふむ………まあ、なんにせよ希望は捨てといたほうがいいぞ」
「え?」
間の抜けた声を発したユウキに対し凛がモニターの画面に指を指す。その方へと顔を向けた彼はそこに映っている映像をただ見つめる。
『さあ、それじゃあ第四回戦早速行くぜ!レディー……スタート!!』
そのアナウンスにより第四試合は幕を開けた……わけなのだが。
『おっと!ここでいきなり動きがあったぞー!2-Aの有馬竜次、なんとなんと!まさかの一人行動を始めたぞぉーー!?こりゃどういうことだー!!』
その画面には、有馬が一人森林の中を走る光景が映っていた。
「……」
知っていた、がそれでも頭を抱えざるを得なかった。凛はわかっていたと苦笑いしユウキは目元に手を添え落胆していた。その後そんな暗い雰囲気を出していた彼が嘘だったかのように憤慨する。
「あの野郎!!これはチーム戦なんだよ一人で行動してんじゃねえ!!!」
地団太を踏みながら怒りをあらわにするユウキは最後に一発強い足踏みを地面にたたきつけると、先ほどの怒りを少し薄めて今度は呆れ半分で言った。
「はぁ……ったく、どうなんのやら」
※ ※ ※
森林の中。
自然物が人工物か、わからないがその一本道を光に照らされながら有馬は通学路を歩くように歩いていた。地面を足で踏み込みながら前へと尚も進み続ける。
「誰もいねえな……」
彼がポイントを取るにおいてメインにしているのは勿論他クラスの選手を狩ること。宝箱など一切の興味はなかった。
人を探すようにあたりをきょろきょろと見渡す中で彼のすぐ近くの森林の樹木の後ろには何人かの人影があった。それが移動し始めたその直後の事、有馬の背後を目掛けて森林から男女二人が飛び出て襲い掛かった。
気付く様子もない有馬のその背中に攻撃を食らわしいきなり高得点を手に入れようと試みる。だが、そこまで甘い現実ではない。
「バレてんだよ」
鋭い眼を後ろへと向けそのぎらつく瞳で二人をにらみつける。その二人に突然やってくる感じたこともない恐怖。
それは自分らがこの人物に勝てないこと察せられ、そしてその察したことを打ち消すように彼らを投げやりにもさせる。
なんにせよ空中に入れる以上は逃げることも難しいので動きを変えることもなく二人は有馬に攻撃を仕向ける。だが、その当たる寸前で有馬は左足を地につけて右足で回し蹴りを繰り出し、その二人を容赦なく蹴り飛ばす。
勢いよく飛んでいった二人はそのままくっついた状態で横の樹木に激突、そのまま地面へと倒れ落ちた。
「クソ雑魚が」
「後ろががら空きだぞ!!」
更に背後から少年がそう言うと攻撃を仕掛け、それも有馬は見ることもなく裏拳で殴り撃沈させた。
「背後からくんなら黙って来いよ、馬鹿が」
相も変わらぬ口の悪さでそんなことを言い残し、倒した相手の腕についているポイントのスカーフを手に取ってその場から後を去ろうとする。だが、そこでふと違和感を覚えた。
このサバイバルバトルでは各クラス選手は四人づつ、今襲ってきたのは三人だった。自分の様な例外がいない限り、一対三で動くことは考えにくいと有馬は推測する。
となるともう一人がどこかにいるわけだが、それを探す手間はいらなかった。
「よーう、あ・り・ま」
「………んだよ」
有馬が先ほどの目つきよりも遥かに尖った殺意すら乗っているのではと思わせるぎらついた目つきを声のした方へと向ける。そこに樹木に体を預けながらほのかに笑みを浮かべる少年がいた。
灰色の髪色に金色の双眸、まさしく二葉慶その人であった。
「久しぶりじゃねえか、イキり野郎。またどっかでズタボロに働いてたのか?」
「おいおい、イキるの意味をちゃんと分かって言え。イキると言うのは弱者が強者を気取り調子に乗ることを言うんだ。俺は強者、お前みたいな弱者じゃない」
「ちっ……しゃあしゃあと馬鹿宣ってんじゃねえよ」
挑発するような口調で言った二葉の言葉に有馬は過敏に反応し腹を立てる。未だ叫ぶような口調とは言い難い静かなモノではあるが、それが尚更煮えたぎる怒りを彷彿とさせている。
「そんなに怒らなくてもいいだろう、俺はあくまでも事実を述べているだけなんだからな。それともそんなに突っかかってくるのは、好きな女が取られそうなのがムカつくからか?」
「っ!………てめぇ!!」
その図星を付いた言葉は挑発口調も相まってか遂に彼の感情を沸騰させた。額に青筋を立てた状態でそう叫び殺意をぎらつかせた鋭い目つきを向ける有馬に対して一方の二葉と言えば、それに全く恐怖する素振りもなかった。
「怖いな、そんな目を向けないでくれよ」
むしろ面白がっている様な、おもちゃが自分の思い通りに動いてることに上機嫌になっている様な表情だった。それが気にくわない有馬は歯ぎしりをしながら手を強く握りしめ身体全体に白いオーラを纏わせる。
「ぶっ潰してやる」
「へえ、前と変わらず随分と言うじゃないか」
有馬を見下すような目つきで見ながら二葉は尚も続けた。
「少しは成長しているんだろうな?前の様に今回も圧勝となってはつまらないぞ?」
「安心しろよ、てめえよりよっぽど強くなってるからよ」
「そうか、それは楽しみだな」
へらへらとしているその二葉の顔面に目標を定め、次の瞬間有馬は勢いよく飛び出た。
強化され強くなった足を一歩一歩強く踏み込ませ大きく進みながらあっという間に彼との間合いを詰めて行き、そして飛び上がり有馬は右腕を上げる。
その腕が剣へと形を変えそのままそれを二葉へと振り下ろした。
有馬の剣が二葉の顔まで迫った所でその剣は動きを止めた。
何が起こったか、有馬のその剣をどこからともなく現れた鎖がそれを受け止めていたのだ。
その鎖をたどっていくとその付け根の先には二葉の腕がある。その鎖は二葉の腕から突き出てきたものであり、そしてそれからわかる通りそれが彼の一つ目の異能である。
「さぁ、もっと来い有馬。もっと激しく戦おうじゃないか」
「こっちもそのつもりだ」
そんな二人の戦いはこの後すぐに決着がつく。
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