第34話 サバイバルバトル第一試合 後編

「四人も僕の美しさに惹かれてこちらに来てくれるとは……しかも中には学園のアイドルすらいるじゃないか!!なんということだ……それほどに僕の美貌が美しいというわけ……かっ!」


その金髪の少年は一人で長々と喋りながらなぜか手に持っている赤いバラを指さすように向けながら、またしても決め顔でそう言う。更にはそこにウインクを付け足してキラキラの星を飛ばしてきた。


姫奈の方へと向かって行ったその星を彼女が手で弾き、あきれた様子の他三人の内影華が全員の意見を代表して言った。


「よし、ここは無視して先に進みましょう」

「「「賛成」」」

「いやちょっと待ちたまえ君たちっ!」


無視して彼の横をスタスタと速足で進んでいった四人の前に彼は颯爽と移動してその足を制す。急ブレーキをかけて四人は立ち止まり如何にも邪魔だと言わんばかりの表情を顔に出した。


「なんすか、邪魔なんすけど」

「おやおや素直じゃないな、でもそれもまた可愛いじゃないか」


いい加減に呆れ始めた一向。ナルシストほど相手にするのに疲れるのは当然だ。


「とりあえずどけてもらっていいっすか?」

「なんでそんなことを訊くんだい?どけるわけがないだろう」

「えー……またなんか変なこと言うんすか……」

「変な事?僕は変な事なんて一度も言ってないじゃないか」


もう呆れるという事を通り越して呆然とし始めた中、少年は言った。


「僕はさっきから当たり前のことしか言っていないさ。だって、大事なポイントを逃すわけがないだろう」


その言葉を吐いた瞬間、全員の顔が一瞬で真剣な表情へと変化する。その変わりように満足したのかその顔に不敵な笑みを浮かばせる。


「君たちは僕に惹かれてやってきた美しい者だ。そう、まるでこのバラの様な美しさ……君たちがそんな美しい花ならば、美しく散っていかせようじゃないか」


彼の手に持っていたバラの赤い花弁が大気中へと霧散していくように消え去っていく。皮肉にも美しいと言えるその光景と共に、彼の身体には薄い赤色のオーラが纏われていく。


何か来ると一行が身構えようとしたその刹那、すでに少年の姿はそこにはなかった。


音もなく、ただ姿を消すように少年は四人の後ろへと移動していた。勿論、只移動したわけではない。


凛の頬にあるその感覚。

そこへ手で触れるとその指には微かに赤い液体が付着している。


「なるほど……」

「おや、少しずれてしまったか」


後ろで立っている彼の右手は指を綺麗に揃えた手刀の形になっている。それを目視しながら凛は親指をその傷に押し当てて、血を拭うようにして払った。


「でも、今度は外さないよっ!」


彼がまたしても姿を消すとその瞬間に凛の姿が三人の視界から消える。あまりの一瞬の出来事だったため反応が遅れたが、その後すぐに全員が横へと目を移し彼が消えたことを確認する。


「あれ、翔君!?」

「消えた!?

「翔さん!!」


全員が後ろへと目線をむけると、その先で地面に仰向けに倒れさせられた凛と彼の胸を押さえ手刀を掲げているその少年の姿があった。


全員が戦慄とし動きを見せようとしたが遅し、少年の一撃が凛へと向かって行き彼が倒されると思われた。だが、


「随分となめられたもんだ」

「!?」


凛は胸に置かれていた少年の腕を強く掴むと彼の額に自身の額を打ち付けた。鈍い音と共に強い衝撃が少年の頭に響く。後ろへとたじろいだ隙に凛は飛び跳ねて起き上がると、額に手を当てながらなぜかポージングをしている少年を目に映す。


「……君、この美しい僕の顔の一部に攻撃するだなんて、勇気があるじゃないか…」

「勇気とかそういうもんだいじゃないだろこれ」

「そんな君の積極性により僕とつながりたいという気持ちをより理解できたよ」

「ええ……」


その予想を遥かに超える自己愛の強さにそんな声を漏らす凛に少年は言った。


「君、名前は?」

「…司波翔」

「ふむ……覚えておこう。僕は華間美麗はなまびれいだ。覚えて行きたまえ」


そう言うと彼が手から取り出したのは蒼いバラ。それの匂いを一度嗅いだと思えば、そのバラが先ほどと同様に消失していく。すると、今度は華間の身体に蒼いオーラが纏われた。


「僕の異能はバラの花弁を消費することで自分の身体能力を強化することができるんだ。美しい僕には実に相応しい異能だろう」


彼は手を強く握りしめて拳を作るとその手を後ろへと下げて構える。


「因みに、僕は美しさだけじゃなく一人の男としてのワイルドさも兼ねそろえているよ。こんな風にね」


彼が足を強く踏み込ませるとその足を使い一直線に飛び出していき凛の方へと向かって行く。先ほどに比べるとその速度は一段階程落ちているのが目ではっきりとわかる。だが、強化されていない所がないという訳ではない。


華間が間合いを詰めてその拳で凛に攻撃を繰り出し、一方彼は腕をクロスして防御の姿勢を取る。すると、その姿からは想像もつかない程の重い拳が凛の腕に襲い掛かった。


「……ほう、耐えるのかい」

「まぁなっ!」


凛の繰り出したその蹴りを手で掴み取ると、そのまま強化された力で掴んだ足を使って彼を投げ飛ばした。


三人のいる方へと飛んでいき、その当たる寸前で着地をする。


「翔君、怪我は!?」

「大丈夫だ。それよりあいつ随分と面倒な異能だ。さっき赤いオーラを纏ってた時は速さが、今みたいに青いオーラを纏ってるときは力が強化されてる。もしかすると、他にも色々とできるかもしれないし底が知れないな」

「となると、相手が更に何か出してくる前に一気に叩くのがベストっすかね」

「だな」


と、そこで影華が顎に手を添えて少し考えると思いついたその案を提案した。


「うちと翔さんを攻撃の軸にしましょう。阿翠さんは後ろからの援護を、姫奈さんはうちらに継続回復を付与してください」


それに全員が頷くと、まず姫奈は三人に自身の治癒の異能を応用した一定時間継続的に回復し続ける状態を作る継続回復を付与する。これにより疲労で動きが鈍くなることも防ぐことができる。また、影華は異能で影でできた巨大な異形の怪物を数体つくり戦闘に備える。


そうして全員が瞬時に戦闘態勢を整えると、その目線を華間の方へと向ける。


「さあ、やろう。僕は君たちのその情熱的な愛をしっかりと受け止めようじゃないか!」


彼は手から青いバラと赤いバラの両方を取り出すとその両方の花弁が消えていく。すると赤色と青色の二つのオーラが彼の身体に纏われた。


それと同時に凛と影華は飛び出していく。最初に前へと出たのは凛、すぐ後ろに影華と影華の異能の怪物がいる。彼は最初に手に持っていた大きめの石に異能を発動し、赤色のスパークを奔らせてそれを華間に投げつける。


それに対して華間は自身の異能によって強化された力でそれを蹴りで砕くと、その瞬間に横から影の怪物が攻撃を仕掛ける。


「また何とも気味の悪い子だ。だがそれ故にか強力そうだ。だが」


彼が繰り出した蹴りが怪物の頭部に直撃すると、風船が割れる様に簡単にはじけ飛んでいった。


「僕には通用しない」

「なら、これはどうだ?」


その隙に間合いを詰めた凛は足を上げると右の靴に赤いスパークを迸らせ、その右足で蹴りを繰り出した。華間はそれに反応しすぐに手を出すがそれを後ろから阿翠が空砲を放ち阻止する。そして華間の身体に直撃するその一撃。


流石にこれはかなり強力だったのか、腕で防御はできたものの華間の顔には必死さが浮かんでいる。


「くつ………」

「はぁっ!」


声を力強く出し凛は彼を蹴り飛ばし、その瞬間に凛の吐いていた靴は靴下と共に塵と帰す。飛ばされた華間の先には影華が立っており彼が飛んでくるのを待ち構えている。


「っ……今度はレディか……いいじゃないか!さあ、こい!」


空中で態勢を整えると彼女の方に体と顔を向けてそのままの勢いで飛んでいく。その一方で影華は右腕を横に広げると彼女の下の影が沸きそれが彼女のその腕に巻き付いていく。


すると、彼女の腕はまるで先ほどの怪物の様な腕へと変貌していた。


「なっ!?」


彼女の異能は自身の影で怪物を作り出す異能。だが、その異能の応用としてその作り出した怪物の身体を自身の身体で模倣する様に装備することができるのだ。その条件として、怪物がその場に一体もいないことが条件だが。


「行けぇ!影華さん!」


阿翠がそう応援し影華は前へと出るそして、彼女はその右腕を豪腕の如く豪快に繰り出した。


「はぁぁぁっ!!!」


鈍い音を響き渡らせそのドォン!という音が森林に轟いた。彼女にとってこれには確かな感触がありそれは同時に彼女の勝利を確かにさせ、同時に強いに駆らせた。


――――やった………


彼女は心の中でそう喜んでいた。

だが現実というのは、そう甘くはなかった。


「………残念だったね」

「!?」


あろうことか華間は意識を保っており、それどころかその一撃を受け止めていたのだ。よく見てみると彼の纏っているオーラの中、赤と青の他にもう一つ黄色が混ざっていた。


「咄嗟のことだったが、間に合ったようだね」


彼は手に持っていた黄色のバラのその茎を横に投げると、同時に防いでいた腕を振るい影華の武装した影の腕を弾き飛ばした。


そして同時に彼はもう片方の腕で影華に攻撃を繰り出す。


その時彼女はふと思った


――――やっぱり、自分が誰かの役に立つことってできないんすかね…


子供のころ、彼女は誰よりも元気でいつも誰かのために力になりたいとそう思っている様な少女だった。成長してアルヴァンと言う組織が確立してからはそのアルヴァンに入りたくさんの誰かを救いたいとそう思ってもいた。


だが中学の頃からか、その夢はいつの間にか消え去っていった。


運動会、発表会、他にも何か大事な行事や出来事があるときはいつも肝心な時に、自分は全く役に立てない。むしろ足手まといになり、仕舞いには攻め続けられる。


いつも明るく振舞っていた自分を、何故か攻められる。いつも努力している自分のそれを無下に扱われる。関係のないことにまで飛び火し彼女の存在を傷つけて追い詰めていく。


次第に彼女は人前で何かをすることに畏怖を覚え、いつの日からか表に出ることもなくなった。それがいつの間にか性格に現れて行き、今の暗い性格を彼女自身が作った。


そうして今の彼女があるのだ。


そんな彼女の親は影華が嫌だと言っても高いところにしか進学させなかった。夢も希望ももはや失った影華はそんな状態のまま、意味もなく親に強制されるようにこの桜京学園に入学した。


ただ感情を無にして早く三年終われと思いながらこれまでにこの学園生活を彼女は送ってきていた。


だが、先日の出来事が彼女の消え失せていた感情を、改めて芽生えさせた。


一昨日、影華が緋乃と共にサバイバルバトルに出場し、そこで日人と出くわしたとき緋乃は影華に逃げる様にそう言った。その言葉の裏には微かに「自分に任せろ」とそう言っている様でもあり、そんな背中が惜しくもかっこいいと思ってしまった。


忘れたかったその夢を思い出してしまったのだ。


あの時、凛との会話で言えなかったこと。


“それに、強くないと誰かに頼られないから”


緋乃の姿を見て、誰かの役に立ちたいとそう改めて思い始めた彼女は誰かの役に立つために人に頼られる存在になろうと改めてそう決心していたのだ。


――――そう、思ってたんすけどね……


結局今度も同じだった。

凛や阿翠、姫奈、そしてクラスの役に立てるとそう思い頑張った。でもまた同じだ。こうして肝心なところで役に立てない。


まるで過去の自分をビデオ再生している様な感覚だった。


――――やっぱりあきらめるしかないっすよね……


彼女がそうあきらめ同時に華間の一撃が彼女に当たる、その瞬間彼のその攻撃は阿翠によって防がれていた。


彼は咄嗟に空砲を放ち華間の攻撃を防いでいた。


「まだだよ!!影華さん!!」

「影華ちゃん!!」

「影華!あきらめんな!!」


三人の声が彼女の元に届く。その言葉を聞いて改めて自分が今、頼られていることに気づく。そしてその誰かに頼ってもらえるその心地よさが、また彼女の元に生み出された。


「っ!!」


影華は左腕に先ほど同様に影の怪物の腕で武装すると、目で華間の腹部の微かなスキを見極めて攻撃に映る。すると、彼女のその武装していたその黒い腕に赤色のスパークが奔る。


「これは……」

「行けっ!!影華!」

「っ……はぁっ!!」


姫奈の継続回復のおかげもあり疲労は全くない、だからこそ全力で彼女は華間にその会心の一撃を炸裂させる。


「ぐっ………はぁっ……!!」


彼の腹部に電気が奔るように伝播される超強力な一撃、例え黄色のバラで防御力を高めていたとしても耐えることは出来ない。その一撃で微かに浮いた身体が地面に着地すると腹を抱えたままおぼつかない足で揺らめく。


「君……達の…協力で僕を倒す………実に…美しい………」


そう言って彼は地面へと倒れこみ意識を失った。


「………」


息を切らしながら影華は呆然とする。そんな彼女に凛は歩み寄っていく。それに気づいた彼女はその彼に目を向けた。


「影華、ナイス!」


そう言うと凛は手を広げて顔にまで持ってくる。それを見て彼のやりたいことに気が付いた影華は笑いながら同じ様に手を広げそして、


「はいっ」


二人はハイタッチを交わした。するとそれを見ていた阿翠や姫奈も自分も自分もと影華の元へとやってきて彼女とハイタッチを交わそうとする。


――――……やっぱり誰かの役に立てるっていいっすね…


彼女は今確かに忘れていたその自分の思いを思い出すことができたのだった。


それから四人は華間を倒し大量にポイントを獲得してからも、ポイントを集め続けそして今、終了のアナウンスが施設内に響き渡った。




暫定順位


第一位 2-A

第二位 2-B

第三位 2-F

第四位 2-D

第五位 2-C

第六位 2-E

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