第33話 サバイバルバトル第一試合 前編

桜京ドームにて体育祭開会式を終えて、二学年の生徒たちは第一種目『サバイバルバトル』を行うべく施設『フシルティN』へとバスに乗って向かう。数分達到着するとクラスの生徒それぞれが自分たちの待機部屋へと向かう。


そして待機部屋に付くとモニターで改めて競技についてのルールが説明され、早速試合へと移る。


「それでは一回戦目の出場選手は準備よろしくお願いしまーす」


ゲートの奥から現れた教師の指示に従い、一回戦目の出場選手たちが準備を始める。一回戦目は出場する選手の内の三名がいないため、そこの三名を埋める他の選手が五チームの内の三チームから一人ずつ出場させ三名を二回出場させる形で対応した。


因みに出場しない三名の緋乃、日人、彪雅についてだが、緋乃は重傷のために入院、日人はアルヴァンに捕獲された。またアルヴァンが行った日人からの事情聴取により彪雅がエセルスの幹部であったことと彼を日人が殺したことの情報を得て、それは大々的にニュースで報道された。そのためクラスの全員はそのことを知らない者はいない。


―――閑話休題―――


対応により第一試合に出場することになった三名は、凛、姫奈、阿翠の三人。この三名は学園の抽選により厳正に選ばれた三名である。


「最初の出だしは大事だぜ、頑張れよ翔!」

「ああ、任せろ」

「ちゃんと息整えてね。ひっひっふー、だよ!」

「誰が出産直前の妊婦だ。というかそもそも息も整ってるから」

「出直してこいアホが」

「アホって言うな!」

「まあ心配してくれただけありがとな、鈴見。ユウキもありがとう」


凛を試合前の激励にやってきた二人にお礼を告げると凛は手を振ってゲートの方へと歩いていく。


「姫奈ちゃんも頑張ってね!ちゃんと息整えて。ふっふっひー、だよ!」

「それでもねえんだよ、誰向けの呼吸だそれ。出直して―――いやいっそのこと輪廻帰りしてこい」

「転生するか!!」

「あっははは………ふ、二人ともありがとね」


凛と同様に姫奈の激励を行った二人だったが、これに関してはもはや激励したのかどうかすらもかなり微妙であるが、だが苦笑いを浮かべる姫奈の肩の力が抜けたのは事実だろう。


姫奈も二人に手を振りながらゲートの中へと入っていき凛と合流する。


「よし、頑張ろうね!翔君!」

「ああ、頑張ろう」


そして二人は歩いていきゲートの奥へと進んでいく。そしてゲートを抜けたその先に広がっていた森の光景に改めて姫奈は唖然として声を漏らした。


「ふぇ~…やっぱりすごいなぁ…」

「技術だけでここまで再現できるのって、素直に驚きだよな」

「やはり日本の進歩しているのだなぁ……」


感心したように頷く姫奈と凛の元に先に到着していた阿翠と影華の二人が共に歩み寄よった。


「二人とも頑張ろうね」

「勿論だよ!全力で頑張るよ!」

「オレも姫奈と同じくだ」


二人のその自信のたっぷりで緊張のしていない姿に満足したように阿翠は頷くと、次に姫奈が阿翠の隣の影華の方へと言う。


「影華ちゃんもよろしくね!お互い協力して頑張ろう!」

「よろしくっす」


軽くぺこりと頷いた彼女はその後凛の方を向いて、軽い自己紹介をする。


「初絡みっすよね、初めまして暗野影華っす。気軽に影華って呼んでもらって結構っす」

「司波翔、翔って呼んでくれ。よろしく、影華」

「こちらこそっす」


そうして二人が互いの自己紹介を終えると共に、ドーム内にアナウンスが入ってきた。


『さぁ!ということで、今度こそ何もないことを祈るぜ俺は!絶対に事件とか起こんなよ!これフラグじゃねえからな!行くぞーー!』


そしてアナウンスで聞こえてしまう程に大きく息を吸いこみ、そして途轍もない気合と気迫でその言葉を口にした。


『レディー………スタート!!』


通るその末井の声がステージ内に木霊する。今、ここに戦いの火ぶたが切って落とされたのだ。その合図と共に全員が動き出し森林の中へと潜っていった。全員で平行に走りながら最初に口火を切ったのは姫奈だ。


「ここからの動き方として二手に分かれるのと全員で行動の二つがあるんだけど、今の皆の異能のことを考えると二手に分かれると少しバランスが崩れると思うんだ。だから私的には全員行動がベストだと思う」

「オレは異論なし」

「僕も」

「ウチもっす」


姫奈の意見に全員が賛同を示し、全員で行動をすることとなった。この全員行動は二手に分かれた時のアンバランスさだけでなく単純に、人が多いゆえに周りへの視野が広がるため防衛や迎撃のしやすさもあるのだ。


と、早速の事。


「みんな!こっちに宝箱あったよ!」


阿翠が早々に宝箱を発見した。これにはでかした!と言わんばかりにそちらへと向かって行き、樹木の隣に添えられるように置いてあった宝箱を目に捉えた。


「さて、何が入ってるのか……」


不意に現れた緊張感を胸に背負い阿翠はその宝箱を開ける。そしてその中には、


「……なんすか、これ」

「ば……爆弾かな?」


影華の疑問に姫奈も思わず混乱状態の中で見たままのその物体の名称を口にした。その宝箱に入っていたのは黒い鉄球に導火線のついた、言わば典型的な爆弾であった。その爆弾の導火線には言わずもがな火が着火されており、その線が全部燃えたと思った瞬間にそれは大爆発を起こした。


ドガァァァァンッ!!!


その爆音が森林全体に響き渡り、同時に彼らの真上には黒煙が上がった。


『あっ、そういや言い忘れてたけど学園長の提案で宝箱の中にランダムで小型の爆弾入ってるから気を付けろよ!』

「「「「先に言えよ!!!!」」」」


思わず四人全員がそう叫んでしまった。当然の話ではあるものの、その爆弾は爆発してもただ爆音と軽い爆風が襲い掛かってくる程度なので、酷い怪我を負うことはない。だがその代わり、爆弾はその場所に自分らがいるという事を教えるものであるため危険度は違うベクトルで高いのだ。


「まずいな。このままだとオレたちの周りに……っ!」


凛が察したその矢先だった。


「阿翠伏せろ!」

「えっ……」


反応が遅かったため凛はすぐさま動き阿翠の身体を強引に腕で伏せさせた。すると、そのすぐ上を歪んだ何かが通り過ぎていき、その背後の気にそれがぶつかり衝撃音が耳に入った。


後ろの凹んだ木を見てからすぐに前の方へと顔を向けると、そこには短髪の男が立っておりその男の顔には笑みが浮かべられている。


「敵のお出まし、だな……」

「ご、ごめんね……僕が見つけたせいで……」

「気にしなくて大丈夫だ、お前のせいじゃない。それより今はこの場面に集中しよう」

「う、うん!」


目線の先には先ほどの男の他にも男子一人女子二名がおり、凛たちと同じ四人全員で動いているグループの様だ。と、そこで影華は一人口を開いた。


「ウチは女子の二名をやるっすので、阿翠さんと翔さんはとりあえず一人ずつ男子受け持ってください」

「それだと影華が危なくないか?」

「問題ないっすよ」


影華が両手の指を絡ませて組むと、彼女の影が大きく地面に広がりそこから異形の怪物が二体姿を現した。その怪物の大きさは三メートルから四メートルはあるほどに巨大だ。


その怪物の内の一体は姫奈の方へと寄っていき、彼女を守る姿勢を取った。一方のもう一体は影華の傍で「ぐぇっ!」と言いながら構えた。


「なるほど。随分と心強いな!」


凛はそう言うと同時に動き出し先ほど阿翠に向かって攻撃をしてきた青髪の男の方へと近づいていく。男のいる上へと跳躍して目の前に姿を現すと、その男は手をかざし凛に向かいそれを放った。


だが凛はそれを打つよりも早く空中から行動をしており、男の目線の下で彼はしゃがんでいた。


そしてそのままの状態で足を出して蹴りを繰り出す。だが、男はそれを飛び上がって避け後ろへと退避する。


すると直後にまたも手を出してそれを繰り出す。それも凛は横へと移動して避ける。


「なんか打ってるな……空気砲かなんかか?」

「残念、正解は衝撃波だ」


男は手を広げ衝撃波を弾丸のように繰り出していく。見えない以上規模が分からないがわずかな虚空の歪みと当たった場所の様子、そして避けることが可能であることから規模は小さいが威力はそれなりだとはわかる。


それを踏まえたうえで凛はすぐに攻撃に映る。


だが、その後ろで男が攻撃を仕掛けようと試みる、だが、それも凛からすればどうでもいいこと。なぜならその男の相手は阿翠だからだ。


その男の腕に向かい阿翠は自身の異能、空砲で空気の砲弾を放ちその手を止めて見せる。


「相手は僕だ!」


阿翠がそう言って見せると男は舌打ちをしながら阿翠の方へと向かって言った。その様子を確認し凛は笑いながら男の方へと距離を詰めていく。


「ちっ!」


男は舌打ちを共にかざしている右手の腕に左手を添えた。


――――何か来る……


凛がそれを予感したその時。


「はぁっ!!」


男のその気迫の声と同時に巨大な衝撃波がその手から放たれた。


「どうだ!避けられまい!!」


男がそう言って笑顔を顔に見せ勝利を確信するがしかし、一方の凛は地面の砂を手に掴むと異能を発動し強化、そして砂をその衝撃はに向かってばら撒きそれを盾にして衝撃波を防いだ。


「なっ!?」


男は驚くが更に怒涛の衝撃が彼を襲う。突然彼の地面が割れ崩れ落ちたのだ。凛は先ほど着地した時に地面に触れて異能を発動しており、地面を強化しておいたのだ。そして一定の時間が経ったその後、地面は強化の負荷に耐えられず地崩れしたのだ。


地面が崩れたことによりバランスを崩したその隙に凛は彼との間合いを詰め、拳を繰り出し彼を気絶させた。


「ふう」


一息吐いた直後全員の様子を見るべく周りを見てみると、影華と女子二人の対決はすでに終わりを迎えており影華と影の怪物の足元にはその女子二人が転がっており当の彼女は手をパッパッとはたいていた。


「影華は問題ないな。阿翠は……」


彼の方に目を向けると、その対決はまさに終盤だった。阿翠に攻撃を仕掛けた男であったがその襲い掛かて来たその隙を見て彼は空気砲を腹部に放ち、男はそのまま木の方へと飛んでいきその末に激突した。


「よ……よしっ!」


阿翠はガッツポーズを決めていた。


「よし、これでポイントも稼げたな。姫奈、阿翠の傷の治療頼む」

「うん!」


姫奈は駆け足で阿翠の方へと向かって行き、彼女の持つ回復系の異能で彼の傷を癒していく。


「影華も凄いな。二人相手に」

「まあ、こいつら正直雑魚だったっすから」

「そ、そうか……」

「それに……」

「それに?」

「……いや、なんでもないっす」


誤魔化すように言った彼女を深追いすることはなかった。それからすぐ全員は森林の中を廻る。いくつか宝箱を見つけ宝石でポイントを稼ぎつつ、人と出くわしたら戦って勝ち抜く。


そうしているうちにだいぶポイントも手に入れることができていた。だが、その流れを止めようとする者は勿論いる。


ふと一本道を走っていた時、その目線の先に人の姿が見えた。一度スピードを落としその方へと歩み寄っていくと、そこには直立している金髪の男が一人おりその周りは何人もの選手が地面に倒れていた。


「もしかして……この人数を一人で……」


阿翠はそう言って顔を戦慄に染まらせると、その男の方へと顔を向ける。するとその男が凛たちの姿に気づきその方へと向けると言った。


「おやっ、君たちも美しい僕の餌食になりに来てくれたのかいっ☆」


歯を見せつけ笑顔でそんなことを言った。

そんな人物にでた一言は、


「「「「は?」」」」


ただその一文字のみだった。









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