第32話 二葉の存在
あれからすぐの事、凛の元へと姿を現した武蔵は案の定その広がる光景に驚きを隠すことができなかった。その後、凛と武蔵は口裏合わせを行い、日人を倒したのは武蔵という事にして話がまとまった
なんでも武蔵も激しいバトルを行った際はだいたいは周りをかなり酷い有様にしているらしく、今の凛がやったこの状況になることも多いらしいため不自然ではないらしい。
その年になってなにやってんだよ、と言いたくなった凛ではあったがそれでは特大ブーメランが自分に襲い掛かってくるのであえてそこは口をつくんだ。
こうして波乱の一日は終わったのだった。
体育祭のことだが、簡潔に説明すれば体育祭は二日後に延期となった。本来であれば、未だエセルスの人物がいる可能性もゼロとは言い難い状況であるため延期ではなく中止にするべきなのかもしれないがこれは一大行事の一つ、そう簡単に中止とするわけにもいかず延期という形になった。
その延期にしている内に体育祭を安全に万全に行える態勢を整えるために、そもそものセキュリティを強化しアルヴァンの隊員を警備に加える。もし何かがあった時のためにある程度の行動はとれるようにその警戒態勢を万全にする準備をこの期間中に行った。
そうして時間はすぐに過ぎ去っていき、すぐに体育祭の日は訪れる。
※ ※ ※
二日後、延期となった体育祭が行われる日。
いつもと変わらない時間帯で学園へと登校した凛は教室の中のドアを開け挨拶をしたその瞬間のことだった。
「おはよ――――」
「翔ぅ!!」
「翔君!!」
「ぐふぉっ!!」
ドアを開けたその瞬間に彼の元に鈴見とユウキの二人が同時に飛びついてきた。とんでもないその威力のタックルを二人分腹に喰らわされ、思いもよらず凛はそのまま倒れこんだ。
「ええええええん!無事でよかったよぉぉぉ翔くううぅぅぅぅぅん!」
「お、おう、ありがとう。わかったからひとまず離してくれ」
泣きながら抱き着いたままの鈴見にそんな反応を示す一方で、
「うおおおおおおおおおおおお翔ううううう!!!ごめんなあぁぁぁぁ!!あの時たすけられなくてごめんなぁぁぁぁ!!」
「いやいいからマジで!ひとまずお前ら離れろ、抱き着くな!」
両者ともに凛の身体に抱き着いて頬を擦り付けており、流石にこれには彼も思わず強引に引っ張って彼らを体から離させてしまった。凛は立ち上がりズボンについた埃を払うと、同じ様に立ち上がった二人は尚も泣いていた。
「そんなに泣くこともないだろ、無事だったんだし」
「で、でもよ……俺、あの時何もできなくて………」
ユウキにとっては鈴見の様に心配していた、という事だけじゃない。日人に凛が連れ去られたその時何もできなかった自分がただただ悔しかったというその悔し涙も流すそれには含まれている。
悔しさと無事だったことのその安堵、その二つは自然と彼の涙腺に刺激を与え涙を止まることもなく流せているのだ。
「大丈夫だったんだからそんなに泣くなって、な?」
「う、うん………」
「ごめんな翔……本当に…」
「いいから、ほら。席行こう」
そう言う凛の中には罪悪感があった。
――――実際、あの程度の相手なら余裕で勝てるからそんなに心配することもないんだけど………なんか泣かせてしまって申し訳ない…
そんな胸の内を出すこともなく凛は二人を席に座らせ彼も自分の席に座った。
「ほら、今日は体育祭当日だろ?ちゃんと気合入れて行こう」
「お、おう!当然だぜ、絶対優勝してやる」
「うん!私も頑張るよ!」
どうやら二人もいつもの二人に戻ったようで両者元気よくそんなことを口にしている。気合は十分の様だ、が
「……って言っても、どうやらタイミング悪くあいつが帰ってきたみたいで体育祭にも出場するみたいだからなぁ……」
「ん?あいつって?」
「あ、そうか。あいつはずっとこの学校にいなかった上にお前はそもそも転校生だもんな。よし、それならこの俺が教えてやろう」
「何故に上からなんだよ……」
先ほどとは一転とんでもない速さで切り替え、偉そうに胸を張ったユウキはこの学園に在しているその存在を語った。
「実はこの学園には、あのナンバーズの二葉家が一人!唯一無二の異能力者である
ユウキはその言葉を訊いた凛がとんでもなく驚くだろうと期待していたのか、その反応にわくわくしているかのような表情を浮かべながらそう言ったのだが、そんな凛の反応と言えば、
「………?」
無反応に等しかった。その名前を聞いたところで凛はただ首を傾けただけでユウキと傍にいた鈴見は共に昭和チックにずっこけていた。
「なっ、なんでそんなに無反応なんだよっ!!」
「もうちょっと驚くところじゃないの!?」
「いや、だってその二葉?とかもナンバーズとかも知らないんだもん……」
「「なんでっ!!」」
二人が近距離に顔を近づけて訴えるところで凛はただ困惑するばかり。だが知らないことも当然なのだ。
――――四年間もこの世界からいなかったから知らなかったなんて言えねえし……
そう、彼はこの世界が四年の月日を得ている中で一人異世界で生きていたのだ。当然、近々にできたものやその存在など彼にとっては知る由もない。というかそれ以前に彼はそういう類いに興味がない。
「ったくしょうがねぇな。俺が一から説明してやるから感謝しろよ、日本に疎い翔君」
「上から目線に今度はディスりまで加えんな」
ユウキはケフンと咳ばらいをすると、まずナンバーズについて語り始めた。
「ナンバーズって言うのは日本において最も異能力者として優れている家系として選ばれた家系のことを言うんだ。その家系の苗字にそれぞれ数字が入ってるからナンバーズって呼ばれてるんだ」
ナンバーズの家系はそれぞれ『
「そしてそのナンバーズの家系の内の二葉家の息子がこの学園に在してるわけだ」
「なるほど。で、その息子さんは何がすごいんだ?唯一無二って言うくらいだしよっぽど凄いんだろ?」
「そりゃぁなんてったって、そいつは異能を三つ持ってるからな」
「………は?」
彼はユウキたちの求めていたその唖然とした表情を浮かべた。あまりの驚愕の事実に凛も思わず口をあんぐりと開けたまま静止してしまい、それでも尚彼の脳内は驚愕で一杯になっていた。
「異能を三つ持ってる?そんなことが…」
「あるんだよなこれが。俺も最初はビビったぜ、ニュースで三つの異能を持つ者が現れた!ってテロップに出てきて、俺も思わずはぁっ!?って声に出しちまった」
「私もあの時はびっくりしたなぁ……思わず目玉焼き焼いてたフライパンぶん投げちゃった」
「うん、鈴見に関しては大事にならなくて何よりだけど」
鈴見の様子にサラッと返して凛は続けて言った。
「それにしても三つの異能持ちか……そんな奴がいたんだったらオレもすぐに知るはずなんだけど…」
「まあしょうがねえよ、そいつアルヴァンに借りられてるから基本的に学園にあんまいねえから」
ユウキの言う通り二葉慶は異能力者としての実力が高いことからアルヴァンから応援要請がかかることが多く、そのため学園に来ることは滅多にないのだ。その話を凛は聞くと頬杖をつきながら言った。
「なるほどなぁ……それでオレはその二葉のことがわからなかったわけか」
「まあ、学園にいることを知らないのは兎も角、名前自体は知ってて当然なんだけどな」
「それに関しては気にしないでくれ」
だが、密かにユウキと鈴見の中で実は翔は箱入りなのではと疑われていたりする。
「んで、そんな二葉が今日帰ってきて体育祭にも出場すると」
「そ。あいつはめちゃくちゃ強いから頑張らないとなってな。勿論負ける気はないけど」
「だな」
ユウキも二葉が強いという事自体はわかっているが、それでも負けるつもりなど一切ない。そして彼の口から色々と話を聞いた凛であってもそれは同じだ。
「にしてもその二葉ってやっぱり実力者なわけだし学園内じゃ人気者なのか?」
一例として風真も実力者であるが故に学園内ではかなりの人気があった。ユウキは凛の問いに小さく頷いて、
「……まぁな。俺たちのクラスは除くと思うけど。むしろ嫌いだ」
「え、何故」
「追々わかるぜ」
「そ、そうか……」
凛の中では疑問は一杯だがひとまず今は二葉に関してはそこまで深く聞くつもりもないので、ひとまず話はここで一区切りになった。と、そこで教室から元気のよい挨拶が聞こえてきた。
「おっはよー!!」
その声の主は姫奈だ。その声を聞いた瞬間ユウキはいつも満面の笑みに変わるため今日もそうなるのかと思った凛だったのだが、横を見るとなぜかユウキの顔は笑顔ではなくむしろ焦りを覚えさせるような表情で、それは鈴見も、それどころかクラスの全員がそんな表情だった。
――――な、なんだ?なんで皆姫奈が着た途端に……
凛はまたしても頭が疑問で埋め尽くされた。
「ひ、姫奈!ちょっ……」
「ん?どうしたの?」
ユウキに手で招かれ姫奈が彼に歩み寄るとユウキは耳打ちする様に言った。
「二葉が帰ってきたんだよ」
「………えっ?」
姫奈の顔が一瞬で戦慄に染まる。その青ざめた表情に一体何が…と凛は思っていたのだが、その理由もすぐにわかることとなる。
ふと、教室のドアが強くノックされる。
「邪魔するぞ」
その方へと全員が顔を向けるとそこには一人の少年が佇んでいた。
身長は凛と大差はない程で黄色のその瞳に灰色の髪が特徴的だった。顔は実に整っている顔立ちでモデルと言われてもおかしくない程。
凛はその人物が誰なのかユウキに訊こうとした瞬間また彼の表情が変わっており、今度はまるで番犬の様な威嚇するような目つきだった。
「ゆ、ユウキ?」
「翔、アイツが件の二葉慶だ」
「あいつがか…」
顔もよく異能力者としての実力は人並みを遥かに超えるそんな人物、まさに才色兼備と言える。
ゆっくりと歩み寄ってくる二葉が向かう先は、凛やユウキのすぐそばにいる姫奈。彼女の元に近づいていきそのそばにまでやってくると、手を伸ばして彼女の顎に指を添えてくいっと上げて見せた。
「よう、姫奈。会いたかったぞ」
「う、うん。私も会いたかった……よ……」
と言う姫奈ではあるが、表情からすでに彼女の感情は理解できた。
「と、とりあえず顎の手、離してもらってもいいかな…」
姫奈がそうお願いすると渋々と言った様子でその手を姫奈の顎から離した。
「それで、どうだ?俺と付き合う気にはなったか?」
突然その言葉を聞いた瞬間凛も驚きだった。そしてユウキの方をふと見てみると、
「ガルルルルルルル………」
番犬を通り越して狼の獲物を捕らえようとする目になっていた。
――――なっ……なるほど……
凛も大体このクラスで二葉が嫌われている理由が察せた。
「ご、ごめん。やっぱり付き合うのはちょっと……」
「そうか、まあいい。今日は体育祭だ。ここで俺の活躍を見れば自然とお前も俺に惚れるだろう」
そう言った二葉は彼女に背を向けそのまま教室の外へと足を進める。
「俺の活躍、楽しみにしてるといい」
そう言い残して彼は姿を消していった。クラスの全員が静まり返った中、ユウキは一人立ち上がりそして強く叫んだ。
「お前らぁぁぁ!!!!!!」
その通るような大声に凛も思わずビクッと肩を震わせてユウキの方を見てしまう。
「今日の体育祭絶対に負けねえぞおおおおおおおおお!!!!!」
「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」」」」
クラスの男女、そのほとんどが腕を上げて全力で叫ぶ。こうして体育祭を始めるその寸前にしてクラスの団結力がまた一つ高まったのだった。
更新遅くなってすいませんでした。少し繋げ方に苦戦しました。次回以降は更新頻度は早くなります。
それと一つお知らせが。
近況ノートを見てくださった方は知っているかと思いますが、ここでもこの場を借りて簡単に説明させていただきます。
某日、私の作品にアンチレビューが来たのですが、そのレビューの内容があまりにも不快と言うか迷惑だったので消去させていただく形を取りました。
理由として、そのレビュー内容が「ここがこうでこうだから駄目だと思った」というようなダメ出しに近いモノなら自分としてもそれを一つの感想として受け止められるのですが、今回のレビューは私の作品のジャンルや系統だけでアンチをするような書き方で思わず消去という形を取ってしまいました。
簡単に説明するなら主人公最強系の小説に対して「主人公最強系の何が面白いのかわからない」というような感じです。
人それぞれの考え方があるためその考えを批判するつもりはないですが、どうか私はそう言うレビューは受け付けていないという事をわかっていただけると幸いです。
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