第31話 その実力

「序列十番台と戦えるだなんて、つくづく今日は良い日だ!」

「随分と楽しそうだな、お前戦闘狂かなんかか?」

「戦闘狂だなんてそんな頭悪い奴じゃねえ、でも強い奴と戦いたいとは誰よりも思ってる!お前みたいな強い奴とな!」

「要するに戦闘狂だろそれ」


呆れて息を吐きながら頭をポリポリと掻いて見せる武蔵。その様子を気にすることもなく、日人はただその感情の一心で言う。


「細かいことはどうでもいいだろうが、早くやろうぜ」

「それは言われるまでもない、でもあんまり期待すんなよ?」

「まさか自分が弱いだなんてそんなことを言うつもりじゃぁないよな?もしそうだったら興ざめも甚だしい話だぞ?」

「むしろ逆だ」


武蔵はその顔に笑みを浮かばせて言った。


「お前、数秒で負けるぞ?」


あっさりと言いのけたその言葉、それを訊いた瞬間にその空間が静まり返った。周りの草も木も、そして日人も呼吸を忘れてその言葉が通り過ぎてゆく。彼はその煽りにも聞こえるその言葉が脳内で幾度と響く中、そこで彼から出た感情は怒りでなくやはり興奮だった。


「それなら、尚更見たくなってきた!!」


彼は先ほど緋乃に与えられたそのダメージも嘘なのではないかと思わせる程の速度で武蔵の方へと駆け寄り、そして手に拳を作り出しプラズマを奔らせる。


「さあ、お前の力を俺に―――」


眼前にまで迫りその拳を繰り出した、そのほんの数秒だった。


武蔵が軽く腕を動かした瞬間、彼の顔に打撃が放たれていた。


「ぶっ……!」


それだけじゃない。

その攻撃と同時に数十発もの拳の弾丸が彼の身体を攻撃しており、その一つ一つの重圧のある攻撃が彼の身体を侵食する様に彼に巨大なダメージを負わせる。骨は聞いたこともない音を鳴らし内臓は拉げる感覚にある。


「がぁっ………」


叫ぶこともできずそんな彼に武蔵は言った。


「だから言っただろ、秒で負けるって」


最後にコツン、と彼の額を拳で軽く突くとその優しい突きとは思えない程の破壊力で日人の額に攻撃が加わり彼はそのまま縦回転しながら草むらへと落下していった。


「なんだ……結構手強いのかと思いきやそうでもないのか?戦闘狂キャラっぽいからすっかり……」

「勝手に倒したことにしてんじゃねえよ、お前!」


日人は荒い口調でそう言って飛び跳ねて起きる。彼の今の姿はいたるところに拳の跡が残っており、また口からは血を吐き出した後が残っており額も割れているのか血が垂れている。


「おー…意外とタフネス」

「わかってはいたが……お前やっぱ強いな……いい、実にいい!そういう奴ほど戦いがいがあって殺しがいがあるってもんだ!」

「随分と変わった考えをお持ちなんだな……」


その戦闘狂独特の、というよりも日人独特の感性に武蔵は思わず少し引いてしまった。


「おら、まだまだ行く――――」


彼が言葉を言っているその際中のことだった。


《おい、日人》

「うわっびくった!!」


突然日人の脳内に直接声が入ってきた。


「おいボス、いつもいきなりしゃべりかけてくんなって言ってんだろ!」

《仕方ないだろう。これがアイツの異能なんだ》

「はぁ……んで?何の用だ?」

《今すぐ戻ってこい。命令だ》

「はぁーーーー!?」


先ほどまでの会話は聞こえなかったもののその叫び声だけは聞こえた武蔵は、その叫び声に一瞬肩をビクッとさせた。


「今いいとこなに何でだよ!」

《今の相手、明らかにお前の勝てる相手じゃない。仕舞いにはアルヴァンに捕まって終わる未来が簡単に想像つく》

「ちっ、見てたのかよ……つか、そんなこと―――」

《いいから黙って従え。俺としても動く前に幹部格を失う訳にはいかないんだ》


その言葉に先ほどまでずっと訴えていた日人の口が静止し、しばらく頭を乱暴に掻いたその後答えた。


「……わーったよ」

《それともう一つ》

「なんだよ!!」

《一人、男を持って帰ってこい、またあの実験に使う。多少は傷つけても構わん》

「はいはい……」


そこで彼に直接伝達されていた通信が途切れそのままイラついた口調のままで武蔵に言った。


「おい!今回はここまでだ、また今度ちゃんとやるぞ」


そう言うと彼は自身の付近で爆発を起こし巨大な黒煙を上げる。武蔵は爆発による強い風に手で顔を防ぎながら細く狭めた目でその方を見つめる。その風が収まり黒煙が消えるとそこにはもう日人の姿がなかった。






     




「それにしても最近のアルヴァンで凄いね、まさかワープでその場所に来るなんて」

「まあ、異能力者にもそういうのがいるのはおかしくないしな、それを有効活用してるんだろ」


姫奈とユウキは緋乃を抱えて走る凛と並走しながら走っていた。戦いが激しくなる前に逃げようという考えも一部あるものの、最もは緋乃をいち早く処置すること。


ひとまず今は姫奈の能力で一時的な応急処置を行っているため命に別状はないが、それでも直さないとならない怪我は多くそれが後遺症にでもなってしまえば元も子もない。


因みに先ほど二人が話していたのは武蔵がここに来た時の出来事。影華が戻ってきて事情を訊いた直後すぐにアルヴァンに連絡をしてから、ものの数秒でこちらに来たものでそれが印象深く二人には残っていたのだ。


「おい、姫奈は緋乃の処置を集中してくれ」

「あ、うん、ごめんつい」

「んでユウキはなんでついてきたんだ」

「いや、俺にもできることがあるならって……まあなんもなかったけど」

「まあ、その心意気だけでもよしだ」


そうして話していると森林の出口がその先に見据えられる。


「あった、出口だ!」

「よし、このまま……」


凛が言っていたその時、彼は後ろからの気配に気づき背後へと首を向ける。すると、同じ様に気配を感じ取ったユウキは凛に向かって口を開いた。


「おい、翔…」

「ああ、来てるな」

「え、来てるって何が……」

「姫奈、緋乃抱えてそのまま逃げろ」

「えっ?」

「いいから早く!」


突然の言葉に困惑の隠せない姫奈、だが彼女はユウキと凛の真剣な表情に状況を掴めていないとはいえ頷く他はなかった。凛から緋乃を預かりそのままゲートの奥へと彼女は走っていった。


「おいおい、やべぇの来るぞ……」


そう言ってユウキは張り詰めた顔をし、その人物が来るのを待ち構えている。そして徐々に足音が迫ってくるのを耳で感じ取り、それを境に二人は共に構える姿勢を取って迎撃態勢を整える。


そして森林の奥から猛烈な勢いで走ってくる人影が目に入った。


「お、わざわざ止まってくれたのか!こりゃありがたいなぁ!」


走りながらそう言った男、日人はそう言って更に加速する。そして一気に間合いを詰め二人の眼前にまで迫ってきた。


「はやっ………!」


思わず声に出したユウキをよそに日人はその隣で構えていた凛に爆撃を与えた。彼の手からプラズマが迸りそれを、凛に直撃させた。


「翔!がっ…!」


彼を助けにかかろうとするものの日人の繰り出した強烈な蹴りを喰らい、彼は勢いよく壁に蹴り飛ばされる。


「よ―――――っと!」


その後足を大きく踏み込ませ飛び上がると施設の屋上にまで到達しそれを爆破で破壊、そのまま外へと出ていった。壁に寄りかかり腹を抑えていたユウキがふと空を見上げると、悔しさで歯を食いしばり地面を強く殴っていた。





       ※       ※       ※






それから間もなくしてのこと、凛を腕に抱えたまま桜京学園の敷地内から出た日人は建物の上を転々と移動しながらエセルスのアジトへと向かっていた。彼らのアジトがあるのはとあるゴーストタウン、また都心部からはかなりの距離が離れてる。


「馬鹿遠いんだよ………」


思わず日人がそう言ってしまう程に、その場所は遠かった。そうして建物を移動しながらようやくゴーストタウンの入り口にまでたどり着いた。


「ふぅ、やっと着いた…………んだけど、ここから更に移動すんだよなぁ。ああ、めんどくせぇ!!」


このゴーストタウン元々は大都市でそれが廃れて今のようになってしまったため、その大きさは現在の都心部と紙一重の大きさの巨大な街となっている。エセルスのアジトはその真ん中にあるため移動がまた面倒なのだ。


「はぁ……移動時間長かったからか傷もある程度治ってきたな……」

「なあ、ここどこだ?」

「ここか?ここは俺たちのアジトがあるゴースト………って、は?」


あまりにも自然に話しかけられたためつい途中まですんなり話してしまったのだが、その半ばで異変に気付き彼は声のした自身の腕の方を見る。すると、先ほど爆破で気絶させたはずの凛が日人に抱えられたまま目をぱっちりと開けていた。


「お前……どういうことだ?俺は確かにお前を気絶させたはずだぞ?」

「それはただの思い込みだ。オレは最初から起きてたぞ」


その言葉を信じるのか信じないのかはさておき、ここで暴れられても困るのでひとまず凛を気絶させようと、彼に更に攻撃を仕掛けた。


――――多少傷つけてもいいってあいつが言ってたしな。


日人は凛の腕を引っ張り背負い投げをし地面にたたきつけると、先ほど凛に喰らわせたその数倍の威力の爆撃を彼に繰り出した。巨大な爆発音と共に建物の地面が砕かれそのまま一階にまで落下する。


「ちょっと流石にやり過ぎたか?」


地面に着地しながらすぐ横に倒れている黒煙にまみれた凛を尻目にそう言った。


「まあ、流石に死んではないだろうし別に問題な――――」


と、言ってるその最中に、日人の顔が覆うように手で掴まれる。掴まれた日人はその掴んできた張本人、凛とそのまま目が合った。


「―――――」


赤いその双眸に吸い込まれるように一瞬呆けてしまった日人は、その次の瞬間に彼の拳の攻撃を喰らっていた。建物の壁を破壊しながら外へと放り出され、地面に転がっていきそれからすぐに立ち上がった。


――――なんだ……この拳……


拳の繰り出されたその頬はじんじんと痛むがそれよりも、今攻撃を繰り出してきた凛の存在に今の日人は釘付けだった。建物の奥からゆっくりと突き抜けた壁を通りながら歩み寄ってきた彼を見て、日人は初めてそれを悟った。


――――全くオーラも何もない。なのになんでだ……なんで……


彼は全くが思い浮かばなかったのだ。攻撃方法ならいくらでもある。爆破だけじゃない、蹴り、拳、建物の瓦礫で攻撃もできる。なのに、その全てにおいて彼は勝てる気が全くしないのだ。


今までこんなこともなかった日人は、それを感覚から感じ取ったその瞬間彼の鼓動は強くなり次第に早くなっていく。


「なんだお前…………興味が沸いてきたぞ………!」


「ヒヒヒっ!」と笑いながら走り出し爆撃を繰り出すと、それを避けた凛は姿勢を低くして日人の腹部に更に強烈な一撃を拳で放つ。


「がっ………あぁっ……!!」


そして隣の建物の中へと壁を破壊して侵入する。しかし、その直後も血を吐きながら不敵な笑みを浮かべ、オレンジ色のプラズマが迸るその球体を幾多も作り出しそれを合成させていく。


そうして作り上げたその巨大な球体を凛に向かって繰り出した。


「ヒャッハハハハハハハハァ~!!」


不気味な笑い声と共に放ったその巨大な球体は雷鳴の様な音を唸りながら凛の元へと猛烈な勢いで襲来する。


それを見ながら足を一回地面に踏み込ませるとその瞬間に地面の小石が浮き上がり、その浮いた小石を一つ掴み取ると、その手に握った小石に凛は異能を発動する。


――――うまくコントロールをして………


彼が異能を発動すると、その小石に赤色の紋様が浮かび上がり赤色のスパークが走った。


「――――ほっと!」


サイドスローで投げたその小石は投げられたその瞬間に赤い閃光とかし、日人の繰り出したその球体をシャボン玉を破裂させるように軽く弾け飛ばしていた。


「なっ―――――――」


その閃光はそのまま日人を襲い、そしてその縦に並んでいた建物を次々と貫いていきそして最後に建物の壁に激突したところで日人は完全に気を失い壁から崩れ落ちた。


しばらくなっていた破壊の騒音が一気に静まり返り、空間全体は静まり返っていた。その中で、一つ凛は独り言ごちに言った。


「………もうちょっと抑えよう………」


ここまでになるとは思っていなかった凛は一人そう言ったのだった。








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